第27話 「荒ぶるケンタ君事件・前編」

『我の名は「世界の創造主」・・・魔王バルドルよ答えなさい』



「・・・・・・・・・」



『バルドル君?・・・おーい?バールードールー君ー??」』



「・・・・・・・はあ・・・また「ギャグ回」なのか?」


『おっ?鋭いねえ、そうなんですよ。

定期的にギャグ話し書かないと我は死んじゃう体質なんです』


「そうか難儀な体質じゃな・・・つーか真面目な回の方が少ねえじゃねえか?

本当にもういっその事死んじゃえば良いのに・・・


で?何の用じゃ?見ての通り儂は今、書類の処理作業で忙しいのじゃ。


後、素朴な質問なのじゃが「なぜ隻腕の龍戦士編の前にこのシリーズを先に持ってきた」のじゃ?」



『うむ!実は今回の話しのナレーションはバルドルに任せたいのじゃ。


・・・このシリーズを先に持って来た理由としては「だってコレまだ完結してねぇじゃん?!」だからじゃ』


「なるほどのう・・・この改稿の機会にこのシリーズを早めに完結させるつもりじゃな。


そしてナレーションの話しは「断る」」


『ええ?!何でえええ?!』


「儂は書類仕事の最中で「今は忙しい」ってさっきから言うとろうが・・・

人の事をぐちぐち言う割に貴様ら「神」も人の話しを全然聞いとらんではないのか?」


『あっ、それは我がバッチリとやっておきますから、ナレーションおねしゃーす』


「「神」が書類仕事か?相変わらず貴様は何でも有りじゃな・・・

して?貴様の名前は?」


『我の名はき・・・隙有れば個人情報を抜こうとするの止めて貰えます?』


「そうか・・・き○○○か・・・」


『頭文字だけで正解引き当てるのやめろおおおお?!?!」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



あーはい・・・儂の名はバルドル、真魔族を束ねる魔王じゃ。

儂はあと何回自己紹介せねばならんのじゃ?

もう面倒臭いから自己紹介をタイトルに貼り付けておこうかのう?


さっきのは「世界の創造主」名乗っている「変態」じゃ。


過去にアルファポリスで「18禁にしたから良いんじゃね?」とか思って「モロにエロ小説」をブチ込んで2時間後に運営から全作品を「非公開」にされた真なるアホじゃ。

そんな奴いないよ?本当になっかなかいないよ?


そんな事もあって現在は「とある閉鎖空間にて隔離」されている最中なのだが、暇になるとたまに表にも出没する。

一応は女神ハルモニアの上司と言う「設定」・・・らしい・・・


そんな変態からの依頼は、「次のピアツェンツア王国の国王と王妃を監視してくんね?」じゃ。


ふむ・・・儂も少し「次代の国王と王妃」には興味があるので依頼を受ける事にした。

さて、件の2人はヴィアール辺境伯領に居るらしい。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー



「!!!!で?!ででででででででで??」


「はい、ヤニック殿下がこの邸宅に来てますよファニー」


「でででででででででででで??」


「そうではなくて・・・貴女と会いたいと仰っています、どうしますか?」


「でででででで?ででででででででででででで?」


「さあ?どうするつもりなのか・・・わたくしにも分かりません」


「でででででで・・・でで?でででででででで」


「はぁ・・・分かりましたわ、そう殿下にお伝えします」


「いや何でそれでファニーと母上の会話が成立するのやら・・・

結局の所でファニーは殿下の事が好きなのか?嫌いなのか?どっち?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・でででででで」


「そうか・・・まぁ、ゆっくり考えたら良いぞ」


「貴方も会話が成立しているじゃないのアンソニー」


今の会話を人間の言語にして要約すると・・・

ヤニックが辺境伯邸に来たと知ったファニーが驚き過ぎて語彙が崩壊して「で」しか発音が出来ない状態になる。


それから「え?!何でここに殿下が?」と聞き、母スージーが「ヤニックがファニーと会いたい」って言ってる→「わたくしと会ってどうするの?」と聞き→「それは分からないけど会うか?」と尋ねられて→「今は恥ずかしいから会いたくないと答え→アンソニーから「ファニーはヤニックをどう思っている」と聞かれて→「分からない」と答えたのだ。

いや!面倒くせえ!普通に話さんかい!変な手間掛けさせんな!


それをそのままスージーから伝えられたヤニックは。


「そうですか・・・分かりました。

では私はヴィアール辺境伯領で冒険者として働きながらファニーが会ってくれるまで待ちます。

宿は自分で取りましたので、どうか俺・・・私の事は捨て置いて下さい」


ファニーの性格的に最初から持久戦を覚悟していたヤニック。

ここに来る前に街中で既に宿を取っているのだ、しかも長期滞在契約にして。


「まぁ、ヤニック殿下は随分と計画的なのね」


このヤニックの用意周到さに驚くスージーだが、ヤニックは師匠のイリスと旅をする内に旅先での宿泊準備作業と言う芸当を覚えているので、この程度の手配は造作もないのだ。


ヤニックは少し何かを考えてから・・・


「それがスージー様・・・実はですね・・・」そしてヤニックはスージーにチクった。


そのチクリ内容とはヤニックがお世話をしないと師匠のイリスが平気でそこら辺で野宿をする事からだった。


グリーンランド建国祭でイリスに拉致されて、ラーデンブルク公国へ向かう旅の初日に、とある街の郊外で野営をすると言い出したイリスに王子様のヤニックはメチャクチャ驚いた。


「エルフの女王が野宿なんて以ての他です!」当然反対するヤニック。


「えー?大丈夫だって、私は元軍人だよ?野営なんて毎日だったんだから」

これからの宿取りが面倒臭いイリス。


「元軍人でも今はラーデンブルク公国の女王陛下です!警備の上でも問題しかありません!

それにお風呂や食事とかはどうするんです?」


「お風呂には入らないで「浄化魔法」を使う?食事は木の実を食べる?」


「ダメに決まってます!淑女として毎日の身嗜みは必須です!

大体なんで護衛の方や侍女の方達を全員置いて来てしまったのです?」


「も~、固いなぁヤニックちゃんは・・・3日くらい野営しても大丈夫だって」

案外痛い所を突いてくる少年にイリスは苦笑しながら。


「私は強いから護衛は要らない、あの子達も毎回の事だから自分達で勝手に国元に帰るよ?

置き手紙もちゃんと書いて来たから大丈夫だって」


「・・・イリス女王陛下?それで何て書き置きして来たんですか?」


「ヤニック君、師匠!私は君の「し・しょ・う」ね、イリス師匠と呼びなさい。

それから「陛下」と言う呼び方は本当にNGね、公式の場でもラーデンブルク「公爵」ね。


ん?書き置きの内容?「用事があるから別ルートで帰るね、多分君達より早く到着するから心配しないでね」って書いて来たわ」


「はぁ・・・イリス師匠?それで本当に国として大丈夫なんですか?」


「全然大丈夫じゃ無いわね、国に到着した途端に長老連中に呼び出されてギチギチに絞られるわね」


「ええ~?ダメじゃないですかぁ、何でこんな事をするんですか?」


「私の「勇者としての行動」を本国の城内に知られたくないからね。

どの国でもお城の中って他国のスパイがウヨウヨしているのよ?」


「え?それが分かっているのに何でスパイを放置しているんですか?!」


「そのスパイを利用して相手にカウンタースパイを入れる為ね。

その為にも自由奔放で自分勝手な女王様の印象はとっても大事なのよん。

敵には大いに舐めて掛かって貰いたいのよ」


「イリス師匠?・・・・もっともらしい事を言って本当は普通に公務が息苦しいから逃げたんじゃないですか?」


「ギクッ?!」


「師匠の予定訪問先がグリーンランド共和国だけだったとは思えません・・・

僕をダシにして他の公務をバックれましたね?」


「凄いわヤニックちゃん!何で分かったの?!」


「そんなの普通は分かりますよ~」


こんな感じに師匠のイリスが色々と・・・

本当にコヤツは色々な面で無防備、無頓着なのでヤニックが世話をしないとイリスがあっという間に埃塗れのボロボロになってしまうのだ。


街に立ち寄らせて宿屋を見つけて飯を食わせて風呂にぶち込むのがヤニックの仕事になった。


そして毎回、入浴時にイリスがヤニックを揶揄って来るのだ。


「ヤニックちゃ~ん一緒に入る?良いお湯だよ~」

湯船に入りわざとヤニックに見える様にタラリララ~♪と足を見せるイリス。


「入りません!」


「ねー?髪の毛を洗って下さるかしら?」


「自分でやって下さい!!!」


当時まだ12歳の純情なヤニックがイリスのラッキースケベ攻撃にゴリゴリとメンタルを削られたのは言うまでもない。

しかし・・・あの女王も○○の分際のクセにようやるわい。


え?なぜそんな事を儂が知っているかって?そんなモン本人から聞いたからじゃ!

あやつが聞きもしないのにベラベラと儂に念話で変な愚痴を言って来るからじゃ。


《ねえ・・・バルドルさん?なんで私には男性の縁がないのかな?》


「うむ!知らん!」


本当に知るかそんなモン!!公務で忙しいのにそんな話題で念話してくんな!

つーかお主も公務中ではないのか?・・・またお主の近習にチクるぞ?


ちなみに儂は、妻は普通におるが残念ながら子はおらぬ。

儂が結婚している事でイリスを煽ったら、あやつは泣きながらマジで攻め込んで来おった!


そして儂は魔王城の連中にめっちゃ責められて悪者にされて妻にも叱られた・・・

ちょっと揶揄っただけじゃん?!皆んなそんな怒らんでも・・・


大体からして魔王城の連中は同盟国の女王とはいえイリスに昔から甘過ぎるのじゃ。

マクシム君辺りはイリスの事を完全に「孫」と思っておるな・・・

まあ・・・実際に儂もイリスの事を娘同然だと思っておるのだが・・・・


あれ?もしや儂がイリスに1番甘いのか?


しかしまぁ・・・あやつが男とイチャイチャしてる姿はちょっと想像出来んな。

イリスに男性経験が無いのはイリスに可愛げが無いからじゃね?知らんけど。


「と言う事もありまして・・・」

せっかく姉弟子に出会えたので、これまでの師匠の日常生活での悪行をチクッて〆て貰う事にしたヤニック。


「そ・・・そうですか・・・相変わらずですねイリス師匠は・・・

うふふふふ・・・そうですか、エルフの女王ともあろうお方がヤニック殿下に御御足を見せるなんて・・・

今度お会いしたらしっかりとお話しをしないといけませんわね」

ギラリとスージーの目が光る。


ヤニックの狙い通りに怖い姉弟子は変態師匠のイリスにお仕置きしてくれるらしい。


同門の姉弟子に情け容赦なく師匠の破廉恥な醜態をチンコロして満足したヤニックは一度、辺境伯邸から退去して領内と真魔族領の境界線付近を見学する事にした。


ヤニックのもう一つの目的である魔王バルドルの動向も探るつもりだからだ。


ヤツは勇者としての責務から場合によっては魔王バルドルを討伐しようかとも思っている。


ん?


魔王を討伐?つまり儂を・・・か?・・・クソガキの分際でこの儂を?

ほおおおお??魔王バルドルの討伐ねぇ~?ほおおお~???


そうかそうか・・・イヤーそうか、うんうん分かったよヤニック君?

そう言う事なら魔王も先制攻撃かましてヤニック王太子殿下のヴィアール来訪の歓迎をしようじゃないか!


と言う訳で魔物型ゴーレム3000体でヴィアール辺境伯領都を襲撃します!

と言うかヤニック君を徹底的に集中攻撃でよろしくです。


オラーーー!やってやんよ!勇者ヤニック!掛かって来いや!!


『良いぞー、バルドル!やれーーー!!』

?!?!なんじゃい?!いきなりビックリしたわーーー?!


いや君は唐突に声援に出て来なくて良いよ?「世界の言葉」さん・・・

何しに出て来たん?


『愚かなる者に正義の鉄槌を!!言う事を聞かない人間達にお仕置きを!!』


テンション上げ上げの「世界の言葉」さん、随分とストレス溜まってんなぁ・・・

要するに君は自分の言う事を全然聞かない人間相手に絶対に私怨が入ってるよね?


まぁ一応場「世界の言葉」の許可も取れたし転移魔法陣を展開じゃあ!


ズゴオオオオオゴゴゴゴゴゴオオオオオオ・・・


魔王軍の進撃じゃあーーーーーー!!!!





カーン!カーン!カーン!


ヴィアール辺境伯領都に喧しい警鐘が鳴り響く!

言わずと知れた「毎月恒例の魔王軍襲来」を知らせる警報じゃ!


さあ!今回の魔王軍には「特別仕様」のゴーレムがいるぞぉ!

ヴィアールの皆の者!頑張るが良い!


警鐘と共に冒険者達が一斉に侵攻方向とは逆の冒険者ギルドに走る!


別に彼らは逃亡する訳じゃ無い。

ギルドに向かう理由は情報取得と報奨金額の確認の為だ。

敵との兵科の相性や提示金額が自分に合って無い場合は「討伐に不参加」になる。


「戦士系急募!敵の召喚魔法陣の複数展開を確認!敵の数3000以上!兵科は「物理近接」!!

報奨金は敵一体に付き10000円(相当)ボーナスも有り!!魔石自由取得!」

ギルド職員の大声での呼び掛けに・・・


「よっしゃああああ高額報酬来たぁ!!野郎共!稼ぎ時だぁ!!」


「うおおおおおお!!!来た!来た!やっと来たぁああ!!」


久しぶりの魔王軍「物理近接」の兵科での襲来に一気に色めき立つヴィアール辺境伯領都の戦士系の冒険者達。


君達、本当に戦うの好きだね~、そうだね今日は「戦士系のボーナスステージ」なのだよ。最近「近接物理」やってなかったからね~。


しかしボーナスステージはヤニック君以外に・・・だがな。


こうして定期的にゴーレムを使ってガス抜きをしてやらないとコイツ等は暇つぶしに真魔族の領土の「本物の魔物」に攻撃して来るんだよ!


絶滅危惧種魔物保護団体の名誉会長としては魔物がイジメ倒されるのを見逃す訳にいかんのだ。


そして中央大陸では長年の冒険者達の狩猟のせいで結構、絶滅危惧種の魔物が多い。


なので中央大陸の真魔族領を維持して定期的にゴーレムを使って人間に脅威を与えて絶滅危惧種の魔物の狩猟を抑制しておるのだ。


ちなみにヴィアール辺境伯家とも当然ながら裏でガッツリと連んでおる。


事前に攻撃開始時間と兵力と兵科は伝達済みなのである。

為政者とは表向きの綺麗事ばかりではやっとれんのだよ。


しかーし!今日は新型のケンタウロス型ゴーレムのお披露目と試験も兼ねておる!

よっしゃ!行けーーー!!「ケンタ君!」冒険者共、主にヤニック君に突撃じゃあ!


{了解しました出撃します}パカカカ!パカカカ!パカカカ!

ズル!!ドテーン!ゴロゴロ!!ゴロゴロ!ドーン!


あ・・・前足のバランスが悪かったか・・・つんのめって転んでる、前足の長さの修正修正。


木に激突して傷だらけのケンタ君・・・しかし根性で起き上がりヤニックに目掛けて突進するケンタ君!

おおう?!素晴らしい根性だぞ!ケンタ君!


そんな健気に突進して来るケンタ君に向かってクソガキがあろう事か、

「?!?!?!何でいきなり魔王軍が攻めて来るの?!

って?!何?!この馬人間は?!?!うわ!キモ?!」

とか抜かしおった!!


キモ!とか言うんじゃねえクソガキ!ケンタ君は、めちゃくちゃ可愛いだろうが!


突然の魔王軍の襲来に驚くヤニックだが、今回の銃撃の82%くらいは魔王を怒らせたお前のせいだよ?


さあ!お手並み拝見じゃな、勇者ヤニックよ!


そしてケンタウロスゴーレムのケンタ君と勇者ヤニックが激突する!


「spiral charge!!」ヤニックの先制攻撃!!

ほう!勇者クルーゼの突貫技か!しかし所詮は人の技をラーニングしただけの猿真似技じゃな!


ギイィイインン!!!

突貫の衝撃を右後ろに流して見事に棍を使いクソガキの一撃を止めたケンタ君!


「受け止めた?!?!」驚いたクソガキの突きの連撃!

キィーン!ギャリギャリ!!ギキィーーン

しかしヤニックの槍での連続での突きを簡単に受け止めるケンタ君!!


ははははは!!残念だったな!charge系の技は全てケンタ君にインプット済みなのじゃ!

当然捌き技も習得しておるのだ!


つーかマジレスすると、お主・・・魔道士なのに何故魔法を使わん?


魔導士のクセに畑違いもいい所の槍術など全然練度不足じゃ、話しにもならん!

魔導士ならば魔法で勝負して来れば良かろうに。


何せ儂は、その槍術の開祖の勇者ガストンを間近で見て来たからのう。

もしや儂の方がcharge系の技に関しては勇者クルーゼより上手いかも知れぬぞ?


この愚か者め!お仕置きじゃ!行けケンタ君!お返しの「後ろ馬蹴り」じゃ!


ドゴオーーン!!「ぐううう?!」ケンタ君の蹴りを喰らい10mほどぶっ飛ぶヤニック。

咄嗟に腕で防御はしたが相当効いたであろう?


ははははは!ヤニックよ!お主は最近慢心しておったろう?

「魔物如きに俺が負ける訳が無い」とか思っておったろう?だから魔法を温存したのだろ?

それは甘い!甘いわ馬鹿者めが!


世界は広い、お主の見聞など世界の真理の1割にも達しておらぬよ!


さあさあ今日は惨敗の日じゃ!勇者ヤニックよ!なぁに生命は獲らんから安心せい。

さあさあ!ケンタ君の戦闘学習の糧になるが良い!


{tornado spear}ブォンブォンブォン!!ゴオオオオオオオオオオオ!!!


「うお?!」


「後ろ馬蹴り」で吹っ飛んだヤニックを追撃するべくケンタ君は得物の棍をブンブンと回転させ、棍に竜巻を纏わせながらヤニックに突進する!


「ええええーーー?!なぜ!その技を?!?!」

兄貴分の勇者クルーゼの技を完全にトレースしているケンタ君に驚愕するヤニック。

やっと自分が不味い場所に居ると理解したのかヤニックの顔付きが変わる!


しかし気が付くのが遅かったなクソガキ!


ガキィーーーン!ゴオオオン!!パキイィイインン!!カラーン!!


ほれ見い!ケンタ君の竜巻薙ぎ払い攻撃でヤニックの手持ちの槍が砕ける!

何せ武器破壊の技じゃからのぅ!打ち合ったのは失当じゃ。

これがもし勇者クルーゼなら撃ち合わずに「逃げ」の一択であったろうな。


「ウッソだぁあああ??!!」


あーあ・・・その槍、高かったろうに・・・ご愁傷様です、ざまあ見ろです。


ドゴオオオンンン!!!

「ぐはぁ?!」ケンタ君の再度の「後ろ馬蹴り」モロに喰らいぶっ飛ぶヤニック!

ボゴオオ!!そして後ろの石壁にめり込む!


久しぶりに良いのを貰ったヤニックは目に火花が走って意識を飛ばす。


はははは!その「後ろ馬蹴り」には精神攻撃の「気絶」の追加効果が付与されておるからのう!

勇者ヤニック、戦闘開始5分で早々に退場じゃな、おつかれーっす。


「殿下ーーー!!」


お?


そこに突然現れたファニーがヤニックを救う為に猛然とケンタ君に突き掛かる!


完全な不意打ちになったがヒョイっとヒュン!とファニーの突きからの薙ぎ払い攻撃を難なくかわしたケンタ君!

凄いぞカッコイイぞ!ケンタ君。


「何?!何なの?!この魔物・・・強い?!」


はい、ケンタ君は強いですよ。君では絶対に勝てません。


{ぴぴぴ、対象はファニー、攻撃対象外です、退却します}

そう言って即座に退却を開始するケンタ君、勝ち逃げヒャッハー!じゃな。


「ええーい?!待ちなさーーーーい!!」

ファニーに背を向け優雅に逃げ出すケンタ君の背中を狙って槍をぶん投げる怒髪天のファニー。


カラーン・・・


それを全く見もせずに右横に飛び、投擲攻撃を華麗にかわすケンタ君は実に優雅よのう。


タッタカ!タッタカ!タッタカ!タッタカ!

そしてギャロップで走る姿も美しいぞケンタ君!


ぐぬぬぬぬ!するファニーを尻目に悠然と魔王領へと消えて行ったケンタ君・・・

何と可憐な姿なのじゃ・・・最初に思い切り転んだがな!


ちなみケンタ君の戦闘力は冒険者に例えるとヤニックより格下のSクラスだ。 

しかし技量が優れておれば格上のヤニックにも勝てちゃうのだよ!ははははは!!


ふむ・・・ケンタ君の戦闘のデータも取れたし後は適当に冒険者達と魔物ゴーレムを戦わせて下級魔石を冒険者にプレゼントして退却じゃな。


こうして少しは美味しい思いをさせてやらんとヴィアールの連中はっちゃけるからのう。


こうして魔王軍によるヴィアール辺境領都への奇襲攻撃は1時間程の戦闘の末に魔王軍の戦略的後退により防衛側の勝利に終わったのだった。


そして皮肉にも防御側の重傷者は王太子ヤニック1人だけだった。

最近のヤニックは負けっぱなしじゃのう。ざまあークソガキ。



突然湧き出た魔王軍の鋭敏なる一騎・・・とても優雅で華麗なケンタウロスのケンタ君にボコられて意識を失ったヤニック・・・


ヴィアール辺境伯邸に運び込まれてファニーの介護を受けるヤニック。


おや?再会する目的をアッサリと果たしてしもうたな?

ヤニックよ良かったな。うむ!これぞ正しく「怪我の功名」じゃな。


眠るヤニックを見てファニーが目を伏せて呟く・・・


「殿下・・・弱っ!」


ええ?!酷い?!ヤニックだって頑張ったのに!

ヤニックが弱かった訳じゃないやい!ケンタ君が強すぎただけだい!


いや・・・実の所、ケンタ君を作った儂でもケンタ君の強さに若干引いておる・・・

色々と形状とスキルをいじったのだが、何かスッポリとハマった感じだね。


冗談で組み込んだ「後ろ馬蹴り」のネタ技が、まさかの勇者を一撃だもんなぁ・・・

すまんヤニックよ安らかに眠れ・・・


でも傑作作品のケンタウロスのケンタ君はしっかりと量産しちゃうけどね!

ははははははは!!!愚かな人間共よ震えて眠るが良い!


さて、ヤニックが食らった「気絶」の精神攻撃の効果が消えるまで後5秒・・・


3、2、1・・・・・


「うわああああああ!!!すみませんイリス師匠!!!風呂まだ沸かしてないんですよお!

何で頭から飛び込むんですかぁ!アンタ馬鹿なんじゃないですかぁ?!」


「きゃあああああああ??!!!」


いきなり飛び起きたヤニックにめっちゃ驚くファニー。

・・・むう??ヤニックはどんな夢を見とったんだ?


「全裸で怒ってないで早く服着て下さいよ師匠!・・・・・・・・・あれ??師匠???」

・・・・・儂はヤニックの夢の内容がめっちゃ気になるのだが。


起き抜けで訳が分からず混乱するヤニックは周囲をキョロキョロしてファニーを見つけると・・・


「ファニー?!会いたかったよ!!ファニー!!」


「ふえええええええええ??!!!」


寝ぼけているヤニックは、完全にとち狂ってファニーの事を思い切り抱きしめた!!


そして・・・


チュッチュッとファニーのこめかみにキスの嵐を喰らわせる。


「ふえ?!ふえええええええ??!!!」


あまりの突然の出来事に「ふえ」としか言えないファニー。

完全に固まってしまい、ヤニックが正気に戻るまで公衆の面前で顔中にキスをされまくったのだった・・・



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「混乱していたとは言え大変なご無礼を!申し訳ありませんでしたぁ!!」

スージーの後ろに隠れるファニーに渾身の土下座を敢行するヤニック。


腕を組んで仁王立ちのスージーは怒っていると言うより半ば呆れている。


「しゃーーーー!!!」

語彙力完全崩壊のファニーはスージーの後ろからヤニックを猫の子の様に威嚇している。


「はぁ・・・・・・・知っておられると思いますが娘はまだ婚姻前です。

傷物となったと言って過言はありません。

・・・殿下はこの責任をどう取るおつもりですか?」


医者や看護師が同席している公共の場での王族としてあるまじき暴挙だった。

ヤニックの異常行動に医者や看護師もポカーンとしていた。


そんな公衆の面前でヤニックにキスをされまくったファニーは令嬢としての価値を大幅に低下させたと言える。


「しゃーーーー!!!」

ファニー的には単に驚いて威嚇しているだけなのだが。


「はい!ファニー嬢は私の妻として王族へ迎えたく存じます!」


「しゃーーーー!!・・・しゃ?・・・・しゃしゃぁーーーーー???!!!」

すまん!ファニーが何と言ったか、これは儂でも解読不能だ。


「ファニー?そう言う訳です。もう覚悟を決めなさい。

ファニーは王太子妃としてヤニック殿下へ嫁がせます。

ファニー良いですね?これは決定事項ですよ?異論は認めません」


まぁそりゃそうだわな。


傷物令嬢として年寄り貴族の後家とか、訳あり変人貴族に嫁がせるくらいなら王太子妃として嫁がせた方がファニーの評判に付く傷は少ない・・・

元々婚約者候補だったからな。


こうしてファニーはヤニックの元へ嫁ぐ事が決定してしまった。


「しゃーーーーーー???!!!」


おめでとう、ファニー王太子妃殿下。・・・だからいい加減に人間に戻っておいで。


とは言え、貴族院からの承認等々、貴族の結婚には色々な手続きがあるのでファニーは婚約者候補から婚約者となった事だけ王家から正式に公表された。


さてここから話しがドンドン酷くなるぞ?


・・・・・・・・・・・・・・つーかあれ?儂って恋のキューピッドじゃん?

単に生意気な若造にムカついただけなんだけどなぁ?


ヤニックから怒涛のキス攻撃を食らって、ヤニックとの婚姻が確定したファニー。


余りにも訳分からない出来事のせいで武闘大会云々の事は綺麗サッパリと頭から消去されて自室に籠り1人机の前に座り自分の置かれた状況に頭を悩ます・・・


しかしまだ混乱しているので考えが纏まらない。


「わたくしが殿下の婚約者?婚約者・・・んー?・・・・・・・

え?!えええええ?!

婚約者になるのが決定ですってぇ!!!!」


やっと状況を理解して絶叫し、更にヤニックにキスされた事を思い出して・・・

「ひゃああああ?!?!」

ボウン!!と熱を出して後ろに倒れてしまう。




妙に長くなり過ぎなので「後編」へと続きます。

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