第26話 「暴れん坊王太子と天舞龍リール」

「うおりゃあああ!!!」ドゴオオオン!!

闘気を纏ったヤニックの完全八つ当たりドロップキックで盗賊?の三人がブッ飛ぶ!


「うわあああ?!何だテメェ?!」


「テメェこそ何だ?!この野郎!!」バギィ!!「ぎゃあああ?!」

絶賛ブチ切れ中のヤニックに余計な声を掛けて来た盗賊?の顔面にヤニックの右ストレートが炸裂する!


「めんどくせぇ事やってんじゃねえぞ!テメェらぁ!!」

ドボオオオン!!「ぐへええ?!」

今度はヤニックの膝蹴りが盗賊?の腹に直撃する!!


後に襲われていた集団?の護衛の冒険者が語る・・・

「最初は奴等の仲間割れかと思ったくらいガラが悪かったよ」と。


そう語られるくらいブチ切れて大暴れしているヤニック相手にどうすれば良いか分からず敵味方共にオタオタする現場。


ヤニックが盗賊?のみに攻撃を仕掛けるのでようやく味方だと分かり、何かの集団?の護衛の冒険者達がヤニックの援護を始める。


ところで盗賊?だの集団?だのの「?」はなんじゃい?


ヤニック乱入で数の上で厳しい状況だった集団?側が一気に優勢になり盗賊?達を追い込む!


普段大人しいヤツがキレるヤバい言葉を体現させるヤニック。

盗賊?が剣で切ろうが槍で突こうが弓矢で射ろうが・・・


バギィーーーン!!ガコーーーーン!!パキイィーーーン!!

全て拳で武器を破壊されて丸腰にされてしまうのだ。


「嘘だろ?何なんだ?!コイツ?!?!」


それはヤニックが得意な「武器破壊」の特殊スキルだ。


こうなってしまうと相手は拳闘士相手に素手での戦いに引きずりこまれて、

ドゴオオオン!!「ぐへえ?!」ドン!ドスン!「ぎゃああ?!」

ヤニックに次々と叩きのめされて行くのだ。


ヤニックが1番得意な戦法の一つだ。


完全な1人舞台になったヤニックは調子に乗って、やらんでも良かった無○闘舞まで披露して一気に26人の盗賊?をぶちのめした!

あ・・・ヤニックのモデルになったキャラクターが分かった・・・ハゲ?てねえじゃん。


最後の1人を正拳突きでブッ飛ばして集団?側が勝利した。


《ああーーー!スッキリしたーーーー!!》

思う存分暴れ回って久しぶりの超爽快感を味わうヤニック。

やはり自分は戦場に生きる武人だと再認識したのだ。


「ご協力を感謝します、ヤニック王太子殿下」


ピシャーーーーーーーンン!!!

その超爽快感がこの一言で冷や汗に変わったヤニック。


《えっ?!何で?!俺の変装は完璧なはず?!》

混乱したヤニックは恐る恐ると声の主を見て・・・あー?!見るんじゃ無かったぁーー!!


そこにはヤニックも良く知る人物・・・つうか一昨日も会ったばかりのバシュレ伯爵、王都憲兵総監がいたのだ!


「なななななななぜに?ここにバシュレ総監閣下が?」


「いえ、此奴らは実はゴルド王国の特殊部隊の連中でしてな。

少し前からこの街道で通商破壊戦をしておりましてね、憲兵隊と冒険者が合同で商団を装って網を張っておりました」


《ゴルド王国?!通商破壊戦?!何だそんな話し俺は聞いて・・・・・・いや聞いてた?

ああーーー!!思い切り聞いてたよーーーー!!クルーゼの兄貴が言っていたよ!》


クルーゼから数回に渡りこのゴルドの特殊部隊の話しは聞いていたし憲兵隊の特殊部隊が迎撃作戦をしていた事も聞いていたヤニック。

ファニーの事で頭ボッカーンしてて完全に忘れ去ってしまっていたのだ!


「しかし驚きましたぞ。

王太子殿下は超高度な武器破壊能力をお持ちなのですなぁ。

その爽快な戦いぷり、恥ずかしながら見ていて私もワクワクしてしまいましたぞ」


《そうっすね・・・武器破壊はイリス師匠直伝だし、めっちゃ気持ち良く爽快に戦ってしまいましたね》


「我々も驚きました。ヤニック殿下は拳闘士だったんですねぇ」

1人の憲兵が話し出したのをキッカケにして・・・


「そりゃ学園で剣技だ槍術とか言われても殿下は困るよな」


「学園の授業と本当の強さなんて別だよなぁ、うん分かるよ」


「そうだな、学園での評価なんてアテにならないよな」


「ヤニック殿下のソレは「闘気」ですよね?私は初めて見ました・・・」


口々にヤニックを褒める憲兵の特殊部隊員達、そりゃあガチの勇者の戦いぷりを間近で見たのだ、興奮して褒めたくもなる。


学園での王太子ヤニックの低評価は軍部や憲兵隊でも有名な話しだ。

その反動も有って一気に憲兵達の中でヤニックの株は爆上がりしたのだ。


「ところで殿下はなぜここに?」


《その質問!当然来ますよねーーー!!》


ぶっちゃけ今のヤニックは出奔・・・トンズラかましている状態なのだ。

国王に許可なんぞ貰ってたらファニーに追いつかんから事後承諾を貰ってくれい!とクルーゼに丸投げして来たのだ。


「えーと?無駄に体力だけ余っていまして・・・普段役立たずなので今回の件で何か力になれる事は無いか?と変装をしてこの近辺で情報収集してました」

超無難な言い訳をする事にしたヤニック。


あまり余計な事を言うと自爆する予感しかしないかったからだ。

半分事実、半分嘘を言って誤魔化す、前半が事実、後半が嘘だね。

普段役立たずと言う所が事実なのが悲しい所だが、まあ仕方ない。


「おお・・・そうでしたか。

しかし世の中には、その様にお考えになられる王族は残念ながら少ないのです。

殿下がその様なお考えでいらっしゃる限り私は死ぬまでお供させて頂きます」


腰を折り臣下礼をするバシュレ伯爵、しかしどこか疑っている様にも見える・・・

さすがは憲兵総監だ、今のヤニックは怪しさ満点だもんね。

周囲の憲兵達も同様にヤニックに対して礼をとる。


この事がキッカケで国王になったヤニックと深い絆で終始1番良く支え続けるのは近衛兵団でも貴族の騎士団でも無くこの憲兵隊になるのだ。


「ありがとうございます皆さん・・・」

素直に感動したヤニックは憲兵達に深く頭を下げる。


「で・・・殿下いけませんぞ臣下に頭を下げるなど」


「いえ・・・今ここに居るのは、ただこの近辺を歩いている近隣に住む平民なので問題はありませんよ」そう言って笑うヤニック。


「そりゃそうだな」年配の憲兵が笑うと・・・


「ワハハハハハハハ、そうだそうだ」と周囲にも笑いが伝染して行く。


「これ!お前達は!」そう諫めるバシュレ伯爵も少し笑っていた。


ヤニックは自分が酷い考え違いをしていた事に気が付いた。


何でもかんでも1人で解決する事が正しい事だと思っていた、それが王なのだと。

しかしお互いに頼り頼られて国が一丸となり進む道が正しいと気が付いたのだ。


それをまとめるのが王の役目だと。

この日を境にしてヤニックの行動は大きく変わる事になる。


そしてヤニックはその王を支える王妃はファニーしか居ないと確信している。


「それでは俺はこの国の王妃なる女性を攫ってこないとダメなのでそろそろ行きます。

後の事はよろしくお願いします」

ヤニックはそう言ってニッと笑う。もう隠すのはやめたのだ。


するとバシュレ伯爵は少し驚いた表情を見せた後に、「殿下の思う様、御存分に」と再度臣下礼を取った。


こうしてまたヴィアール辺境伯領を目指して走り出すヤニック。

何か気分が良くなって思わず全力で走り始めて丘陵越えの大ジャンプをする。


すると目の前に何か青い大きな物が見えた?!

「へっ?!」


ドッシーーーン!!!「「きゃあああああ??!!」」

衝突した衝撃で意識を飛ばすヤニックの耳に可愛いらしい悲鳴が聞こえて来た。



・・・・・・・・



・・・・・



・・・





「うわあああ?!」気絶から覚醒して飛び起きたヤニック。

すると、すぐ目の前に蒼い身体の龍の顔があった。


「うお?!」これにはビックリするヤニック。

どうやら気絶していたヤニックの顔を覗き込んでいたらしい。


「あー・・・これはどうも」ペコリと頭を下げるヤニック。


「「ふーん?リアクションはそれだけ?

人に思い切りぶつかっておいて?普通は「ごめんなさい」じゃないのかなぁ?」」

鈴の音の様な可愛いらしい声だが不機嫌そうな声の龍。


「ぶつかって?・・・・・ああ!そうか!すみませんでした!」

ようやく自分が飛んでいた龍と激突したと理解したヤニックは素直に謝る。


「「空を飛ぶ時は前方の安全確認!!いいね?」」


「すみません、何か勢い余ってしまいまして」頭をポリポリと掻くヤニック。


「「ふーん?私を見ても全然驚いたり怯えたりしないんだね君?

・・・・・・どこかで龍種に会ったりしていたの?」」


「あー・・・はい、俺の師匠の相棒が地龍なので暫くの間、師匠と一緒に俺の訓練に付き合って貰ってました。

貴女は・・・天舞龍のリール様ですよね?お噂は予々伺ってました。

初めまして、ピアツェンツェアのヤニックと言います」


何と言う偶然か・・・ヤニックは天舞龍リールと激突していたのだ。

ちなみに全方位自動回避能力を持つ天舞龍リールにぶつかる可能性は1/150程度だ。

恐ろしい程の低確率を引き当てるヤニック、運が良いのか悪いのか・・・


しかしこの出会いから国王になったヤニックは天舞龍リールからの助けを得る事が出来る様になるので素晴らしい運の良さだろう。


「「うん?・・・・私を知っている地龍?

うーん?地龍の知り合いは数えるくらいしかいないんだけど・・・

一応聞くけどそれは誰?」」


「ブリックリンです」


「「あー、うん!その数少ない知り合いで大当たりだわ・・・と言う事は君の師匠はハイエルフのイリスね?」」


「その通りです。イリス師匠から貴女のお噂は良く耳しておりました。

リール様にイリス師匠は何度も命を助けて貰ったと聞いています」


「「あの子は昔から無茶ばかりしてたからね・・・しかし広い様で世界は狭いねえ。

そう言えば昔、私はイリスに故意に空中激突された事があるよ?」」


天舞龍リールと空中激突した者は少ない、その少ない人数の中にイリス&ヤニック師弟が入ったのだ。


「「わざわざ空を飛んでる私を捕まる為とか言ってね。

その方法ってのが自分が砲弾になって鉄の筒に入ってブリックリンのブレスに打ち出されてね」」


「ドラゴンブレスですか?!」


「「「人間大砲!!」とか言ってさ・・・昔からあの子には「手紙」とか「伝言」とかを使おうと言う概念が全然無くてねぇ・・・」」


「ええ~・・・うちの師匠はマジで昔から何をしてたんですか?

普通にやばいですね。そもそも「人間大砲!!」とか発想が分かりません」


ヤニックは痛感した・・・自分のどこと無く非常識な部分の大半はイリス師匠の影響のせいだと。


え?!今頃そこに気が付いたのか?!


「「んー?イリスは今も昔も変わらないよ?相棒のブリックリンもね。

あー・・・でもさすがに二人共落ち着いて来たかな?1000歳を超えるともなると・・・

・・・・・・・いや、全く!昔から全然変わらんわ!アイツら!」」


「昔からあの感じなんですか・・・」


「「そうだねぇ・・・昔から根本的な所は全然変わらないねイリスって」」


そう言いながら天舞龍リールは身体を起こす。


そして・・・

「さてと、よし!じゃあ行こうか・・・えーと・・・ヤニック君!」」

そんな事を言いながら天舞龍リールはヤニックをグワシと鷲掴みにする。


「えっ?どこに行くんですか?」龍に鷲掴みにされても全く動揺しないヤニック。

どちらか言うと師匠イリスに頭を鷲掴みにされる方が余程怖いからだ。


「「へー?君って本当に根性が座ってるねぇ~?

どこって?そりゃあ衝突事故を起こしたんだから事故処理の手続きだよ?

これより君を「天空城」まで連行します」」


「えええええーー??!!」


龍種に鷲掴みにされている事より連れて行かれる先とその理由の方に驚いたヤニック。

やっぱり君も少し変だわ。


この時代の人族には交通違反との概念がまだ無い。


しかし交通ルールを甘く見てはいけない!

少しでも狂うと日に数百人単位で亡くなる「交通戦争」が始まってしまうのだ!


世界の守護者たる天龍は現在この点を事前に回避するべく徹底的に取り締まっている。

こうしてヤニックはリールにより天空城へと連れ去られたのだった。


「あの?!俺!急いでいるんですがーーーー?ああーーー?ファニー??!!」

そんなヤニックの声を残して空の彼方へと消えて行く二人・・・

果たしてヤニックがファニーにたどり着くのはいつになるのか。


そして亜音速で飛ぶリールによって、あっという間に天空城へと到着する。

「事故処理ってなに?!」と、ヤニックは思っていたらマジで事故処理だった・・・


先ずはリールに「事故申請窓口」に連れて行かれて、事故に至った細かい経緯から再発防止策までの色々な書類を書かされたのだ。


こうした地味な作業が不幸な空の事故を減らす唯一の手段になるので職員の天龍達は大真面目なのだ。・・・・ギャグは一切無かった・・・残念。


「こ・・・こんな理由で伝説の天空城に足を踏み入れるなんて・・・」

周囲全て天龍・・・その気配に圧倒され言われるままに、書類を書きながらキョロキョロ周囲を見渡すヤニック。


数々の伝説に謳われる麗しの天空城・・・それはそれはとてもとても幻想的な・・・


・・・・・・いや?!違う!ココはただのお役所だ!


机に積まれた書類、せっせと無言で書類を書く職員達、何ならピアツェンツェア王国の内務省の職員より真面目に事務仕事をしている。


そんなに事故処理の仕事があるのか?と言うと世界各地で様々な空を飛ぶ種族による空中衝突事故が頻繁に起こるので結構忙しい。


そんな空に住む種族達には天空城の「事故申請窓口」はお馴染みだ。

そうこう話しをしていると腕を怪我をしているハーピーの女性が窓口に来た。


「グリフォンに当て逃げされましたぁ~・・・」悪質な当て逃げ事件発生である。

そしてこの様な怪我人?の治療施設も兼ねているのだ。


この世界の住人は別に人間だけでないのだ。


そもそもピアツェンツア王国での初の航空機の重大事故は900年も前に発生しているし、現在進行形で軍部がグライダー部隊を運用していて民間では気球観光を行っているのに航空機運用の法整備がされてないピアツェンツア王国がダメなのだ。


リールがヤニックを逮捕した理由もここに有る。

「国に帰ったら空の事故にもちゃんと目を向けなさい!」と怒られた。


「すみません!父上とも良く話します。

・・・・・・・・リール様も城内だと人の姿なのですね?」


「まあね~、紙が勿体無いでしょ?」

身体がデカい分だけ紙もデカくなるので「人化した方がコスパ良くね?」と言う訳で1000年以上前から天空城ではこのスタイルになった。


こんな感じで丸々一日、天空城のお役所に拘束されたヤニックだった。


ヤニックから提出された書類を見ながら、ふとリールが笑いながら、


「イリスなんてもう10回以上はここに拘束されてるからね。

ふふふふふ・・・・君の師匠は前科3犯の大罪人なんだよねぇ」


ヤニックの事故処理に付き合う人間の姿のリールが昔のイリスを思い出して笑う。


普通の人間ならリールの美しい笑みに心を奪われるのだがファニー大好きヤニックは特にそう言う事も無かった。


「前科3犯??!!!あの師匠、本当に過去に何やってたんですか?!」


「イリスの過去を聞きたい?聞きたいよね~?

もう書類保全の期間を終えて時効が過ぎた事件だから教えてあげるわね。


一番酷かったのは、イリスがまだ幼児だった頃の天空城への不法侵入と外壁の破壊行為ね。

まぁ、もっともこれは周囲の大人達が90%以上は悪かったけどね。

それで地龍王様が直接、天空城に謝罪に来て大騒ぎだったのよ」


「天空城の破壊?!ホントに何やってんすか?!あの師匠は!」

詳しい話しは「龍騎士イリス」の方を読んで下さい、序盤のどっかに書いています。


「イリスが大人になって起こした最悪な事件が材木窃盗事件よ。

相棒と共犯して数億円(相当)の木を丸ごと森から盗んだのよアイツ」


「えええーーー?!完全に犯罪者じゃないですか!」


「そうだね犯罪だよね~。

当時イリスって主体性が無い性格で相棒に唆されたのね。

その相棒ってのがこれまた酷くてさ~」


そう言ってエクセル・グリフォンロードのエリカとイリスの過去話しを始めた天舞龍リール。

詳しくは「龍騎士イリス」の「ラザフォードの歌」を参照して下さい。


リールの話しを聞き終えたヤニックは、

「本当に酷い人・・・いや酷いグリフォンですねそのエリカってグリフォン・・・

本当に最悪ですね。今も師匠と関係しているんですか?

イリス師匠の弟子として一言二言、文句を言ってやらないと!」


そう意気込むヤニックだったが・・・

「あー・・・残念だけど、あの子は寿命が来て100年前に死んじゃった。

・・・エリカってグリフォンにして見ればメチャクチャ長生きしたよね」


エクセル・グリフォンロードのエリカ・・・享年886歳。

グリフォンの平均寿命が500~600歳と言われるので、エリカちゃんは大往生だったのだ。


ちなみに「エクセル・グリフォンロード」は直訳すると「ちょっといい感じのグリフォンの親分」だ。この命名はパシリ女神である。


「そうですか・・・死んじゃいましたか・・・何だか不思議と残念に思います。

死んでしまったと聞くと何故か余計に会って見たかった気がしますね?」


少し残念そうなヤニックだが心配御無用!

君はすぐにそのエリカちゃんの転生体に会えますよ?・・・自分の娘としてね。


そうなのです、「魔法世界の解説者」に出て来るラーナ姫が「龍騎士イリス」に登場するグリフォンロードのエリカの転生体なのです。

あっ・・・もう既に書いてた・・・


近々、「龍騎士イリス」にも本格的にテコ入れしますのでよろしければ読んでやって下さい^^


さて他の作品の宣伝はここまでにして。


「って?!ああー!!ファニー!!」

何だかんだ尊敬してて大好きな師匠のイリスの若い頃の話しが楽し過ぎて本来の目的を忘れ去っていたヤニック。


「え?いきなりどうしたん?!」


天舞龍リールとの話しに熱中し過ぎて事故処理が終わってから5時間も経過して事に気が付いたヤニック。


オタオタしながら身振り手振りでリールに事情を説明するヤニック。


「いいから落ち着きなさい!分かった分かったファニーね?

分かったよ、私がヴィアールまで送ってあげるから」


やれやれと言った感じに龍化したリールにまた鷲掴みされて空を飛んで行くヤニック。


1時間後にはヴィアール郊外に到着してしまう。


結局、ヤニックが予想していたより半日も近くヴィアール辺境伯領へと到着してしまったのだ。


「そっ・・・空を飛ぶとこんなに早く着いてしまう物なのですね?」


「「そうだよー、それだけスピードが出ているって事ね。

便利な分だけ事故を起こした時の被害も大きくなるって事だね。


ヤニック君!君は近い内に「飛行魔法」をイリスに教わり習得するだろうから今日の事をしっかり記憶して交通ルール厳守!分かったね!」」


「はっ!はい!肝に命じます!」

「飛行魔法?!そんな事考えた事も無かったよ?!」と思うヤニックだが、リールの言葉は一応心に刻むのだった。


そしてリールの予測通りこの話しを聞いたイリスに、

「あー・・・ヤニックちゃんに飛行魔法を教えるの忘れてたね~」と「飛行魔法」を教わりアッサリと習得してしまうのだった。


さて!そんな事より図らずとも無事にヴィアール辺境伯領に到着したヤニック。

これよりファニー捕獲作戦が始まるのだが?

そんな簡単に行く程甘くは無いのだ。


朝早くヴィアール辺境伯領へと到着したヤニック。


あまりにも早い時間で王族が突撃すると迷惑千万になるので木の上で時間を潰す事にした。

それと同じ時間のファニーは母スージーのベッドに潜り込んで母の胸に顔を埋めて寝ていた。


大人っぽい見た目で自立している風に見せかけて、まだまだ全然甘えん坊のファニーは、嫌な事があっていじけると決まって母スージーのベッドに潜り込んで動かなくなるのだ。


「はあ・・・どうしましょう・・・」

自分の胸に顔を埋めて眠る、王立学園からトンズラかました娘にため息を付く母スージー、ファニーの髪を撫でるとファニーはウニウニしてスリスリして来る。


この分だと今日もファニーはスージーから離れないだろう。


言うまでもない事だが今回のファニーの王立学園入園は政治的な要素がかなり強い。

「嫌だからやっぱり辞めるわ」で通用しないのだ。

実の所、今回のファニーとヤニックとの婚約話しは完全にブラフだ。


何せ現王家とガッツリ同族のヴィアール辺境伯家から王家に嫁を出しても政治的なメリットは少ない。


そもそも第二次ピアツェンツア王国の王家の始祖はヴィアール辺境伯なのだから。

ファニーとヤニックは又又従兄弟の関係だ。


そんな影響力の強いヴィアール家から王太子ヤニックの婚約者候補を出して王太子支持を表明すれば他の有力貴族達も連鎖反応で王太子ヤニックへの支持を出し易くなるのでは?

と現国王の狙いだったのだ。


ファニーもそんな事も百も承知していたはずなのだが、そう言った政略とか関係無しにヤニックを好きになってしまったから話しがややこしくなってしまったのだ。


「お母様・・・」ウリウリウリウリウリと寝ぼけて母の胸に顔を擦り付けるファニー。


「仕方ない・・・わたくしがヤニック坊を〆ますか・・・」


娘が惚れてしまった頼りない自分の又甥を〆る事にしたスージー。

別に結婚に反対するつもりは無いが現実に娘が泣いているのでマジで〆る!

内心、娘が泣かされてマジでめっちゃイラついているのだ!


よーし!とりあえず〆る!!

そしてヤニックのファニーに対する気持ちをゲ・・・・・問い詰めるつもりだ。

なにせ可愛い可愛い娘の為なので多少の不敬や理不尽など英傑スージーには関係無い。


と言うよりは、事と次第によっては元凶を作り出した発案者の国王を〆るつもりなので息子のヤニックを〆る事に躊躇などある訳無し!


「うふふふ・・・楽しみね、ヤニック坊・・・」

娘の髪を撫でながら不敵な笑みを浮かべるスージーであった。


エルフの女王イリスには大勢の弟子が居た。

その1番弟子は「勇者ガストン」の息子のクルーゼ・エスピナスで間違い無いのだが彼は「半精霊」で人間かと聞かれると違うのだ。


では「人間の中での1番弟子は?」と聞かれると、スージー・フォン・バスクと言える。


つまりファニーの母スージーなのだ。


これから姉弟子からの制裁を受けるヤニックはその事を知らない。

何せ誰もヤニックに伝えていないからだ。


そしてもう1人、母に負けず劣らず厄介なファニーの兄貴も既に動き出している。

ヤニックは、その包囲網の中へと突撃せざるを得ない状態になっているのだ。






「うわああああ??!!」ゾクゾクゾクゾクゾクゾク!!!

木の上からヴィアール辺境伯領都を伺うヤニックの背筋に強烈な寒気が走る!


「何か師匠の怒りの気配を感じる?!いや違う人か?でも師匠と同じくらい凄くヤバい覇気を感じる!

良かった・・・先走って朝方に突撃しなくて・・・」


師匠イリスと似た気配を放つスージーの覇気を感じて警戒MAXになる。

もし何も考えないで早朝突撃していたら、「時間を考えろ!」と絶対に怒られていたと確信したヤニックだった。


この時点でヤニックはスージーの理由を完全に思い違いをしているのだが・・・

ヤニックがスージーに〆られるまで後3時間ほどだ。


そして朝食が終わったであろう午前9時頃に領都の入り口に入ったヤニック。

取り次ぎをしてもらおうと辺境伯城の門番の詰所へと向かうと・・・


「あの?すみませーん?」


「おのれ!!!お嬢の敵ーーーー!!!」

ヤニックの顔を見るなりいきなり門番に殴り掛かられた?!


「嘘だろーーーーー??!」

パンッ!と裏拳で門番の拳を捌き、「いきなり何なんですかぁ?!」とヤニックが尋ねると、

「お嬢が泣きながら帰って来たぞ!アンタが何かしたんだろ?!王子様よお!」

と不敬極まり無い言い方で門番に罵倒された。


ええーーー?!何だ?!このガラ悪い門番?!と困惑したが、

「え?!ファニーが泣いてた?!デートリヒに負けたのそんなに悔しかったのか?!」

また明々後日の方へ勘違いを広げるヤニック。


「デートリヒ?・・・ああ!武闘大会でお嬢を負かした奴か?

お嬢が一回負けた位で凹たれる訳ねぇだろ!お嬢なら勝つまで100回でも200回も挑むに決まってんだろうが!

そんな不遜なお嬢が泣いたってこたぁよお王子様のアンタが何かしたに決まってんだろうが!」


いやお前も不遜でないか門番よ?王太子様を「アンタ」呼ばわりかよ?!


「だから俺が何かしたってのかよ?!

いや・・・・・・ナニかをする前に逃げられたから追いかけて来たんだけど??」


「ナニい?!ナニってお嬢にナニするつもりだったんだよ?!」


「男ならナニに決まってるだろ?!・・・

いや!今のはナシ!忘れて!ごめんなさい!すみません!」


門番に煽られてとんでもない本音をデカい声で吐いた事に気が付いたヤニック。

慌てて取り繕うがもう遅い!


「ほう・・・・・それがヤニック坊のわたくしの娘に対する思いですか?

へえ?・・・わたくしの可愛い娘を手籠めにしようと言うのですか?・・・・

ねえ?ヤニック坊?・・・・」


グワシ!!と後ろから何者かに頭を鷲掴みにされたヤニック!

《全く気配を感じ無かった?!自分と同じ勇者か?!》

声の主が「自分より格上の勇者」だと感じ取ってダラダラと脂汗が吹き出した。


「わたくしの名前はスージー。

ファニーの母でスージー・フォン・ヴィアールと申します」


「スージー辺境伯夫人ですかぁーーーー?!」


一気に上がった血の気が血の底へと落ちるヤニック

たとえ売り言葉に買い言葉でも「娘さんにナニをします!」とか言っちゃったのだ!

ヤニックは頭に血が昇ると思わず本音を言う癖がある。


「だ、そうですよ?母上」突然門番の兵士の雰囲気が変わる?!


門番の突然の豹変に「一体誰だ?!貴様!何者だ?!」とか聞くまでも無い、ヤニックは更に顔を青くさせる。


おそらくこの門番はファニーの兄であるアンソニー・フォン・ヴィアール・エリエル子爵が変装していたのであろう。

エリエル子爵家はヴィアール辺境伯家の家門の子爵家だ。


自分の婚約者候補のファニーの母である辺境伯夫人と兄の子爵の前で、王子として恥も外聞も無く「アンタの娘とナニがしたい!」とドエライ変態チックな事を宣ってしまった王太子ヤニックの運命は?!


・・・って普通に王侯貴族的にも完全にドンアウトだろうな。


「母上、だから言ってるじゃないですか、ヤニック殿下はファニーの色気にメロメロだって・・・心配し過ぎですよ。

密偵からの報告だと最近のヤニック殿下はファニーの胸ばかり見てるそうですよ、ヤニック殿下のスケベ」


「うわああああああああああ???!!!

何でそんな事知っているだあああ??!!」と悲鳴を上げたヤニック。


そう・・・この所のヤニックは無意識にファニーの豊満な胸を見ていたのだ!

やーいこのエッチ!


「ほう?娘の胸を視姦していたと?それは本当ですか?ヤニック坊?」


「視姦じゃないです!出来れば本当に触りたいと思ってましたよ!

ああーーーー?!!うわあああああーーーー?!」

また本音をぶっちゃけるヤニック。


「本当に触る?・・・本当に触った後でどうするつもりなのですか?

ヤニック坊~!!」

エロガキに対する怒りでギリリリ!!!!とヤニックの頭を締め上げるスージー。


「いででででで!!!そりゃ俺の妃に迎えますよ?迎えに来たんですよー?!」

スージーの「アイアンクロー」がヤニックの頭にめり込む!

《この「鉄の爪」って師匠の技?!》


そうイリスの「アイアンクロー」とは、比喩ではなく魔力を凝縮させ爪を高強度の鉄と化す字通りの「鉄の爪」だ。


用途としては攻撃ではなく、土堀を目的とた「土木用」の魔法だ。

しかし人間に対する殺傷性にも優れた怖い技でもある


「妃ですって?本当に?」


「その為に今日ここまで来たんですから!あだだだだ!!!」


「・・・それは分かりました。で?!娘が泣いてる原因は?!」


「いでででで!!それが良く分からないから困ってるんですよ!

ああーーー?!割れる!割れます夫人!頭が大惨事になります!」


「母上、ヤニック殿下の頭がパッカーンすると床の掃除が大変なんで、その辺りで」


「エリエル子爵?!それ酷くないですか?!」


「勇者のヤニック殿下が頭がパッカーンなんてする訳がないでしょう?」


「いやします!限界を超えたら勇者でも頭がパッカーンしますってーーー!!」


パッカーン寸前でやっとアイアンクローから解放されたヤニック。

ドサッとうつ伏せで地面に落ちる。


「ゼーゼー・・・あの夫人?

一応確認したいですが・・・夫人の師匠って誰なんですか?」


「イリス師匠よ。

ようやくその事に気が付いたか弟弟子ヤニックよ?

そしてヤニック坊をイリス師匠に紹介したのも私なのだ」


凄いドヤ顔でヤニックに頭の上からマウントを取るスージー。


「ああーーーー!!やっぱりかぁーーーーー!!!」

ここでようやく、あの建国祭の日に突然イリスに拉致られた理由が判明したのだった。


要するに「黙示録戦争の為」にスージーと父王に売られたのだ。

まぁ、そんな簡単な話しでなく、かなり複雑な事情もあったのだが・・・


例えば父王がこの時点で頸椎の癌であると発覚しており、もう長く生きられないのが分っていたので早く息子に独り立ちして貰いたいとの願いがあったのだ。


そしてヤニックは思った・・・この姉弟子には敵わない・・・と。

イリス師匠と同じ気圏をスージーに慄くヤニック。


「元気だせよ殿下、過ぎた過去を必要以上に気にするのは良くないぜ?」

めっちゃ胡散臭い笑みを浮かべてヤニックを慰めるアンソニー。

お前、絶対ヤニックで遊んでるだろ!


この飄々としている又従兄弟にも下手に逆らわない方が良いなとも思ったヤニックだったとさ。


「ふう・・・殿下が当家にお越しした理由は分かりました。

ですが娘はまだ伏せっているので会えないと思います」


個人的な怒りの話しが終わったので公人の辺境伯夫人に戻ったスージー。


「・・・・・・・・・・・・・・会えるまでここに居座っても良いですか?」


「おお~、言うねぇ殿下」


ファニーに会いにここまで来たのだ。会えるまで王都に帰るつもりは無いヤニック。

次回!ヤニックが更に酷い目に遭います。

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