第11話 要件は何かな?
「一ノ瀬副会長」
休み時間。上級生が賑わう廊下で、取り巻きが囲う一ノ瀬の背後から、声をかける優乃の姿が。
「・・・あなたは、えーっとー・・・」
「西条優乃です」
「あっそうそう!確か幸太郎くんの幼馴染でしたよね!」
一ノ瀬は合点が行ったようで、パァッと明るくなる。
この人、早速幸太郎の話を・・・
「それで?要件は何かな?」
思わずジト目を向けてしまう優乃に対して、一ノ瀬はほほえみながら話を促す。
「・・・今日の朝って幸太郎と登校してましたよね?」
優乃は、表面上穏やかに話しているが、隠しても隠しきれない威圧感が漂う。そんな二人が話している様子を、周りにいる男子生徒たちが「あの子下の学年かな?めっちゃ可愛くない?」「一ノ瀬さんといい勝負してるよな」と、ざわついている。
「うん、そうだね」
一ノ瀬は、幸太郎と一緒に登校していたことを認める。しかし・・・
「幸太郎くんとは途中で会ったんだ。今日寝坊しちゃってちょっと遅くなっちゃって・・・」
普段、一ノ瀬は朝早く登校している。だからこうしてまやかす。
「幸太郎くんが居たから隣に座ったんだ。それで残ってる課題手伝ってもらってたの」
うーん、たしかに幸太郎と同じこと言ってるわね・・・でも口裏なんて簡単に合わせることができる。それに、私が幸太郎たちのいる車両に入ったのは副会長の乗る駅を通り過ぎた後だ。副会長の言ってることが真意なのかどうか、私には分からないわ・・・
「そうですか、ありがとうございます」
優乃は、一ノ瀬に向かって頭を下げ、そっけない口調でお礼を言い、自分のフロアへと戻っていく。
「一ノ瀬さん、何だったんでしょうね」
「まあ色々あるんでしょっ」
一ノ瀬は、取り巻きたちの話を軽く促すと、優乃とは真反対の方向へと歩き出した。
幸太郎くんへの嫉妬かなっ。優乃ちゃんには悪いけど幸太郎くんは任せられないかもね。
幸太郎が、授業開始の予鈴がなって、急いでトイレから飛び出た。するとそこに、急いで走ってきたもう一つの影が。
「うわっ・・・!」
「キャっ!」
「っ・・・いってぇ・・・って優乃?」
そこに転んでいたのは優乃だった。幸太郎は少し後ずさりしただけで済んだ。その一方、優乃は後ろに弾かれて倒れていた。
「あー・・・いててて・・・」
優乃は、ぶつかった相手が幸太郎だということに、まだ気づいていないようで、普段幸太郎に対して聞かせることのない可愛らしい声を口から漏らす。
「・・・優乃、大丈夫か?」
幸太郎は、俯く優乃に手を差し伸べる。すると、優乃は聞き慣れた声に反応し、素早く顔を上げた。
「え・・・幸太郎?!何でいるのよ!!」
「いや、何でって言われても・・・教室すぐそこだしな。そりゃ校舎内ならどこにでもいるだろ」
慌てて上手く頭が回らなくなっている優乃に対し、冷静にツッコミを入れる幸太郎。幸太郎の言うことに、我を取り戻した優乃は先程よりも顔を赤くし、幸太郎の手を・・・振り払った。
「何?あんたの不注意でぶつかったのに何よそれ。哀れんでるつもり?」
「いや、そんなつもりは・・・というか優乃も急いでたじゃないか。お互い様だろ?」
幸太郎が言い切ったと同時に、チャイムが鳴った。優乃は立ち上がり、服を手ではたくと、幸太郎とは目も合わせずに教室へと戻る。
あいつ、最近になってますます当たりがキツくなってきたな・・・やっぱり中学の時のことだろうか。いや、それにしては間が空きすぎだ。
―――俺、なにかしたか?
「う・・・っ」
頭が痛い。
思い出したくないのに・・・嫌でも耳に残っている叫び声。
本来、廊下に響くはずの叫び声が、幸太郎の頭の中にガンガンと打ち付けるように響く。
「・・・とりあえず戻らないと」
教室にはまだ先生が来ておらず、幸い遅刻は取られなかった。しかし、気になるのは優乃の態度。この授業中、後ろの方から視線を感じた。そこまで俺のことが嫌いなのだろうか。やはり俺が何か・・・
―――何もしてないわ
「っ・・・」
まただ。
優乃のことを考えると、あの日の会話が頭に蘇る。だめだ、もう切り替えて行こう。割り切れないと過去に囚われたままだ。今はただ・・・誠さんと話したいな。
「ふぁあ〜・・・」
欠伸をし、生徒会室の机に伏せる一ノ瀬の姿が。・・・それと、生徒会長、蓮城美月。
「誠、これ終わったぞ」
「あ〜!ありがとっ。そこに置いといて」
蓮城は仕事もできる。自分の課題が終わって一ノ瀬の課題を手伝っているところだ。窓の外から、部活に励む生徒たちの声が聞こえる。
「誠、それ終わったら一緒に帰ろう」
蓮城は、一ノ瀬の腕の隙間から見える目を、顔を傾けて覗くようにして誘う。
「うーん、今日は別の子と帰る約束してるんだ。お誘いならまた今度に、ね?」
一ノ瀬は、蓮城の誘いを軽く断った。蓮城は、少し苦い顔をする。そこに追い打ちをかけるように口を開いた。
「ということで先帰ってても、良いよーぉ」
一ノ瀬の、欠伸混じりの声が室内に残る。蓮城は自分を罵倒するような態度を良く思うわけもなく、「ああ」とだけ言い残して、生徒会室を後にした。
「ま、幸太郎くん、来てくれるか分からないんだけどね」
期待混じりの独り言が、誰も居ない教室に響き渡る。
運って実力に入りますか?〜平凡な俺がある日を境に無双状態〜 ゆきのふるひ @yukiya0407
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