第10話 今日の朝、会わなかったね
「幸太郎、おはよ」
朝。この時間に登校してくる生徒も多い。続々と教室へと入ってくる生徒たちの話し声で、ガヤガヤしている。そんな窓際の席で座る幸太郎と、近づいてきて話しかける優乃の姿が。
「優乃か、おはよう」
「・・・今日の朝、会わなかったね。いつもより早く行ったのかしら?」
何でそんな事気にするんだろう・・・あぁ、最近ほぼ毎日一緒に登校してたからか。・・・というか、誠さんと一緒に登校してるところ見られてないかな・・・
「・・・あぁ。今日はたまたま早かったんだ」
幸太郎は、優乃の顔から目を逸しているが、それなりに冷静を保ちながら話せている。
「そう?同じ電車に乗ってたわよ?」
「う」
思わず口から声が漏れてしまう。優乃はそんな幸太郎に対して疑惑の目を向ける。
「しかも一ノ瀬副会長と座ってなかった?」
ギクッ・・・そう来るなら俺だって・・・!
「何でそんな事気にするんだ?お前には関係ないだろ?」
「っ・・・話をそらさないで頂戴?あんた、一ノ瀬副会長とどんな関係?私の質問に答えるまであんたの質問は聞かないわ」
今、一瞬たじろいだよな?何か後ろめたいことでもあるのか?
「お前の質問に答えれば良いんだろ?それが終わったら俺の質問にも答えてくれよな」
「え?・・・あぁ、そんなことね、良いわよ?早く答えて頂戴?」
「そう急かすなって、まこ・・・一ノ瀬先輩とは委員会の話をしてただけだ。中学の時も良く手伝ってたんだよな」
「ふーん」
優乃は、手を顎に当て、数秒考え込む素振りを見せる。そして、何か思いついたように口を開く。
「あんた自分から座ったんじゃないの?あんなに人気ある人があんたみたいな普通の男と話すわけないじゃない」
優乃は嘲笑いながら言う。
「そうだな」
「ちょ、認めないでよ・・・」
優乃の言うことをすんなりと認める幸太郎。言い返してこないことに、優乃は困った様子で慌てる。謝ろうと口を開こうとするが、それより先に幸太郎の口が開く。
「たしかに俺は普通だ。何もかもな。それに加えて世間はこんな感じ。生きてようと思えるだけでも幸いだ」
昨日の一件で忘れていた。俺が何もかも「普通」で、先週の事件で更に落ちたこと。結局俺は何も変われないまま日常生活を謳歌している気分になっていたこと。
これも全部、優乃のおかげで気づくことができた。
「ちょっと、こう・・・」
「ありがとう」
幸太郎の感謝と皮肉を混ぜた声とともに、チャイムが校舎内に響き渡る。教室に入ってきた先生が「早く座りなさい」と声をかける。それには優乃も、やむを得ず席に戻る。
「それじゃあ挨拶―――」
号令と共にみんなが席を立つ。そんな中、優乃は、幸太郎へと慈悲の目を向ける。こうして今日一日が始まった。
「えーと、68ページ。開けて下さい」
今日の幸太郎、やっぱりおかしいなぁ。副会長の話した途端焦ってたし、急に正直になるし・・・というか何で気になってたんだろう。今日一緒に行けなかったことがショック・・・?いやいやいやいや、そんな事ないから・・・!大体なんであんな奴の事気にしなきゃいけないの?
「西条さん、ここ答えてくれますか?」
「あっ、はい」
優乃はそう言って、スラスラっと答えてみせた。知性に振ったわけではなく、元々賢かったのだ。顔も整ってい、頭もいい。みんなに好かれても良かったのだが、問題は性格だ。
女子とは上手く話せるのだが、男子と話すとなるとその問題は出てくる。まず、重度のツンデレだ。それは、高校に上がってから幸太郎に対しての態度、ツンツンデレと言おうか。それに加えて、気の強さが一際目立つのだ。それが原因で優乃がモテることはなかった。
中学の時、そんな幼馴染、優乃に想いを寄せていたのが、幸太郎だ。
だが、それを知った優乃は、幸太郎のことを酷く嫌い、ずっと避けていた。そして、「あの日」に至ってしまう。優乃が、幸太郎を誰も居ない教室に呼び出し、幸太郎に「もう関わらないで」とだけ言い残して教室を出ていった。幸太郎は優乃を追いかけた。「・・・俺、なにかしたか?」という質問に、優乃は「・・・何もしてないわ」と言って、廊下の死角へと姿を消した。
ただ好きになっただけだ、それでこの仕打ちは少し忌まわしく思える。
そしてそこに、「どうしたの?幸太郎くん」と立ち尽くす幸太郎に、生徒会の先輩である、一ノ瀬が声をかけてきた。
そうして、優乃への想いが段々と一ノ瀬の方に移っていったのだ。
幸太郎の想いが別の方向へと転換した今、優乃の「デレ」の部分が出てきているのだ。
幸太郎、昨日何かあったのかな・・・普段副会長と登校することなんてないしー・・・でも中学の時から話してることが多かったみたいだし・・・あー!モヤモヤするー・・・!この授業が終わったら聞いてみようかな。副会長に聞いてみるのもいいかも!
そんな身振りしながら考えたりひらめいたりする様を、後ろに座る生徒は、ジト目を向けるのだった。
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