英語 〜歴史〜(1)
龍拡散です。
今回は英語という言語の歴史を辿っていこうと思います。
みなさんは「語族」や「語派」という言葉を聞いたことがありますでしょうか。
高校社会で地理を選択していた方はおそらく聞き覚えがあるかと思います。
順を追って説明していきましょう。
語族とは、簡単に言えば『同じ祖先を持つ言語』です。
みなさんは学校で古文や漢文を習ったことがあると思います。
古文にも江戸時代のものから奈良時代のものまでありましたが、あれらは全て日本語の祖先と言えるでしょう。
では古文の祖先は何かというと、少し難しいです。
古文にも現代日本語にも使われている「漢字」は、間違いなく中国由来のものです。ひらがなやカタカナも漢字から派生したことがわかっているので、これらも祖先を辿れば中国語が祖先であると言えるでしょう。では古文の祖先は中国語なのかというと、そうでもないのです。
少し話が逸れてきましたが、せっかくなので日本語の話をもう少しさせてもらえれば幸いです。
英語の歴史が見たいんだ!という方は次の段落までスキップしてもらっても構いません。
1930年、柳田國男という民俗学者が『蝸牛考』という本を出版しました。「蝸牛」とはカタツムリのことです。
みなさんは、カタツムリのことをなんと言いますか?マイマイ、デンデンムシ、ツブリ・・・地域によって呼び方に差異があります。
「で、それが何?」と思った方、その通りです。カタツムリの呼び方なんて、ただの方言による違いです。それ単体で言語学的にどうこう議論するのは無理とは言わないが、難しい。
ではここで、それぞれの呼び名の出現時期を確認してみましょう。
古い順にカタツムリの呼び名を並べると、ナメクジ→ツブリ→カタツムリ→マイマイ→デデムシとなります。ナメクジが一番古いわけですね。
みなさんの呼び名はどれくらい古かったでしょうか。「私がカタツムリ界隈の最先端だ!」とウキウキしているそこのデデムシ派のあなた。この本が出版されたのは1930年ですからね。デデムシを最初に呼び始めた人たちも今では若くて90代です。
さて、最後にそれぞれの呼び名の分布地域を確認してみましょう。
当時の分布は、ナメクジやツブリが東北地方や九州、カタツムリが関東と四国、マイマイが中国地方でデデムシが近畿地方です。
お分かりでしょうか。これらの呼び名は京都を中心とした同心円状に分布し、京都から離れるほど呼び名は古くなっています。
この現象から一つの仮説が生まれます。
中心の都市から離れた地域にこそ日本語の古い言葉が残っており、それらを読み解くことで昔の日本語も復元できるのではないか、ということです。
実際に、比較言語学という分野の貢献によって、中国語由来ではなく石器時代からの日本列島の原住民の言葉が再現されつつあるんです。
と、余談がとても長くなってしまいましたが、こうした日本語の例のように昔の言語は再現されていくわけですが、この言語の祖先はこれで、その祖先はそれで・・・と辿っていくと、いつかはその言語の一番最初の起源にまで遡られることはみなさんも予想できると思います。
そうしてたどり着いた一番最初の言語が『祖語』です。例えばヨーロッパ圏の言語は同じ『印欧祖語』から派生したと言われています。
印はインドを、欧はヨーロッパを表しています。そう、実はヨーロッパの言語とインドのヒンディー語は同じ言語から派生したんです。これを詳しく突き詰めると昔の民族大移動などにつながりますが、ここでは割愛します。
同じ『祖語』を持つ言語たちをまとめて同じ『語族』であると言います。
英語は印欧祖語を祖語としたインド・ヨーロッパ語族です。
英語は『ゲルマン語派』という分類に属します。語派は語族の中でのさらに細かい分類です。語派については他の言語の紹介の際に細かく説明することにします。
ゲルマン語派とは、ゲルマン人から生まれたゲルマン祖語から派生した語派です。ゲシュタルト崩壊を起こしそうですが、英語でドイツのことをGermanということがヒントです。現在のドイツ北部から北欧(デンマークなど)に住んでいた民族をゲルマン人といいます。
前置きはここまでにしておいて、インド・ヨーロッパ語族ゲルマン語派である英語の歴史を辿っていきましょう。
まずは印欧祖語からです。
実を言うと、印欧祖語は文字としての記録が残っていません。というか、厳密に言うと存在するかもわかりません。
普通に考えて、言語というのは原始人のような昔の人間が徐々に話し始め、そこから聞き間違いや話し方の癖などから方言が生まれ、もはや方言として片づけられないほどに元言語との違いが生まれ始めた頃から別の言語が生まれたとするのが自然です。
逆に言えば、現在は異なる言語でも昔は方言程度の小さな違いであったと考えられるわけです。秋の街道を歩けば雪崩のように散っているイチョウの葉の一枚一枚も、元は一つの枝に生えていたものですし、その枝も元は一つの幹から成長したものであるのと同じです。
そういうふうに似た言語を昔は同じ言語だったと仮定し続けることで、最終的に一つの『最初の言語』に辿り着くのですが、その仮想の『最初の言語』のうちの一つが印欧祖語なんですね。
仮想の言語ですからその文法や発音もすべて仮想です。印欧祖語に限らず、こういった仮想の言語の発音記号には*(アスタリスク)をつけます。例えば、英語のwaterの語源となった水を意味する単語の発音は*wódr̥と記述されます。このルールはどの祖語でもよく使いますから覚えておくと便利です。
印欧祖語を再現するのに役立つのが『比較言語学』です。簡単にいうと、現代や中世の似たような言語を比較して、共通点を見つけ出すことで祖語を再現しようとする学問です。と言いつつも実際は印欧祖語以外にはあまり使われていない学問ですが。
他の有名どころだと、スウェーデンのカール・グレンという学者は古代中国語(中古音と呼ばれています)の発音を、当時の日本語や韓国語、そして中国語に至っては各地の方言を隅々まで調べあげることである程度中古音の発音を復元することに成功しました。
さて、話を戻しますが印欧祖語についてはほどほどに、要点だけを載せておきます。
まずはグリムの法則。聞いたことある名前だと思った方はご名答、グリム童話で有名なグリム兄弟の兄本人です。この法則はゲルマン語における子音推移を系統的にまとめたものです。ゲルマン語とは先ほど説明した通り、英語やドイツ語のことですね。
難しいですか?では簡単に説明しましょう。みなさんはこの文の最初の「難しい」をどう読みましたか?「むずかしい」派もいれば、「むつかしい」派もいますね。基本的にはむつかしい読みが古い読み方とされていますが、これも時代が経過するにつれて今まさに発音が変化しつつある、子音推移であると言えるでしょう。その時の現代人にとって発音しやすい音に変化していくわけです。
識字率の低い古代では余計に発音の変化は激しかったことでしょう。そういった変化の仕方を種類ごとにまとめたものがグリムの法則です。
例えば、ラテン語で【父】を意味していた"Pater"は英語ではFatherに、ドイツ語ではVaterに変化しています。P→Fへと発音の変化が起きています。
ちなみに、VとFは音声学上はそれぞれ『有声音』『無声音』といって、親戚のような関係です。喉(声帯)を震わせないと発音できないのが有声音で、喉以外で発音できるのが無声音です。k, p, t, sなどが無声音でg, b, d, zなどが有声音ですね。たとえば本屋で本を手に取ろうとした時に他の人と手が当たってしまった時、あるいはバイト先の苦手な店長に挨拶する時、はたまたコンビニの店員からお釣りをもらう時、「ッス・・・」と、sの音だけを鳴らす日本人が多いかと思いますが、あれもsの音が無声音だからこそできることです。
他にも有名なものにヴェルナーの法則と呼ばれるものなどがありますが、これ以上印欧祖語に文字数を取られると終わりが見えないので、ドイツ語の回までお預けとしましょう。本当はまだまだ書きたいことがあるんですがね。
次はゲルマン祖語です。今回はこのゲルマン祖語で終わりにしましょう。
ゲルマン祖語とは、印欧祖語から分化した言語で、紀元前5世紀ごろに生まれたと考えられています。先ほどの説明通り、ゲルマン人が話していた印欧祖語が訛り始めたことで生まれた言語です。
ここら辺からラテン語派との分岐が始まります。忘れがちですが、ラテン語と英語とは直接的な派生関係はありません。
例えば、ラテン語にhabere「持つ」という単語があります。これは一見英語のhaveの元となったように見えますが、実際は「つかむ」を意味する印欧祖語*kapere→ゲルマン祖語*xaƀenan→英語have、と変化しました。xaƀenanのxはハ行に近い発音、ƀはバ行に近い発音です。ちなみにラテン語にもcapereという同語源の単語が存在します。そして、haveと似た形のhabereというラテン語は、実際には「手に入れる」を意味する印欧祖語*gʰabʰanan→ゲルマン祖語*ǥeƀanan→英語give、と同じ語源の単語です。
このように、ゲルマン祖語はラテン語とはかなり異なる発展をし始めているわけですね。英語の特徴も元を辿ればここら辺から始まったといって良いでしょう。
とりあえずはここまでにしておきます。次回からは英語が生まれ、現代英語までの発展を遂げてきた道のりを書いていこうと思います。
今回は用語や概念の説明が多くなった関係で読みにくい文となってしまったことを謝罪いたします。次回はもう少し柔らかい文章になるかと思います。
私が知っているすべての言語を誰でもわかるようにおさらいしてみる @kakusan_ryu
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