英語 〜概説〜

 改めまして、龍拡散と申します。

 本パートでは英語について大まかに紹介していきます。




 さて、みなさんは英語についてどれくらいご存知ですか?

 "big"の意味は?"huge"の意味は?"enormous"の意味は?

 中学校では第〜文型だとか動名詞だとかを習った記憶があるのではないでしょうか。


 英語は日本で唯一、義務教育で教わる言語です。

 どんな日本人でも少しの単語くらいは知っていますし、私たちの生活にもあふれていますよね。そこらを歩いている日本人にハローって言ったら確実にハローって返してくれます。仮に無視されたとしても、それは相手が英語を知らないのではなくてあなたが不審者だと思われているだけである可能性が高いです。

 それと余談ですが、私の親の世代にはルー大柴という方が流行っていたそうですね。どうやらどんな言葉でもカタカナ英語に変えてしまう天才らしいですが、私は以前まで名前すら知りませんでした。いわゆるジェネレーションギャップですね。あ、これも英単語です。

 本題に戻りましょう。

 たしかにほとんどの日本人はカタコトの単語を並べるくらいはできます。「私はいますぐポムの樹でオムライスを食べたい」と言いたければ、わざわざ "I wanna eat omelette rice at Pomme No Ki right now." なんて言えなくとも、"Egg! Rice! Let's go! Now!" と言うくらいなら、これを読んでいる勉強熱心なみなさんにはできるはずです。

 しかし不幸なことに、英語に限ってはこの『思うがままに単語ぶちまけ戦法』の効果はイマイチなのです。何せ、英語で大事なのは【語順】なのですから。


 【語順】は英語を含むヨーロッパ言語の大きな特徴です。ドイツ語なんかはよく「語順が自由だ」と言われますが、むしろ語順に関する細かいルールが多くて嫌になるくらいです。

 不思議なことに、フランス語やイタリア語などのロマンス諸語と呼ばれる言語の元になったラテン語には、細かい語順はないんですけどね。

 例えば「私」ego, 「少女に」puellae, 「薔薇を」rosam, 「プレゼントする」donoという単語を使って文を作ると、

"Ego puellae rosam dono"でも"Ego rosam puellae dono" でも、なんなら"Dono puellae ego rosam"(あげる、少女に、私は、薔薇を)なんて語順でも構いません。考察するに、当時は紙も高級品でしたから、上流階級による詩的でイレギュラーな表現のみが記録に残っていることが理由なのかもしれませんね。

 日本語にも語順はないですよね。「昨日ラーメン食べたんだ」って言うところを「食べてきたよ、ラーメン。昨日ね」と言うこともできますから。ラテン語と同じくらい自由です。あ、でも「ニンニクマシマシで」を「マシマシニンニクで」なんて言っちゃうと怒鳴られますから、やっぱりラテン語よりは語順に厳しいのかもしれません。

 

 さて、英語に話を戻します。

 英語では語順が大事と先ほどお伝えしました。その証として、中学や高校で習った【文型】ってやつを思い出してみてください。

 忘れてしまった方のために説明すると、第一文型が『主語(S) + 動詞(V)』、第二文型が『主語(S) + 動詞(V) + 補語(C)』みたいなやつですね。英語は第五文型まであります。

 ちなみに、【文型】を辞書で引くと【文が、どのような要素を、どういう順に組み合わせて成立しているのかをいくつかの類に分けて記述したとき、その一つ一つの類型やその記述を文型とよぶ】とあります。要は、「英語って、いつもこの順番で並んでるな…せや、こいつらテンプレにしたろ!」って昔の賢い人が考えたわけです。

 例えば第四文型『主語(S) + 動詞(V) + 目的語(O) + 目的語(O)』は、「AにBを与える」みたいな文章で使われる文型です。実際に例として"I give A B"という文があります。この文は「私はAにBを与える」という意味であって、「私はBにAを与える」という意味には決してなりません。さっきのラテン語や日本語の例とは大違いですね。

 つまり、"I give you this dog"(君にこの犬あげるよ)と言いたいところを間違えて "I give this dog you" なって言ってしまうと、「この犬に君をあげるよ」というふうになりかねません。友達をドッグフードとしか思っていないサイコパスに早変わりです。正しい方の文もなかなかイカれてますが。

 実際は後者の文はそもそも文法的に間違いですし、聞き手側もこちらの意図を汲み取ってくれます。しかし、単語の順番を一つ間違えるだけで意味が全く伝わらなくなってしまう可能性があるわけです。

 では語順が自由なラテン語や日本語の方が優れているのかというとそうでもありません。なぜかというと、自由な語順を実現するためにラテン語は【格変化】を、日本語は【助詞】を採用しているからです。「俺、ライオン、肉、食べる」だけじゃどっちがどっちの肉を食べているのかわかりませんよね。「俺【が】ライオン【の】肉【を】食べる」と助詞を付ければ意味が通ります。これでもう語順を入れ替えても私が食べられることはありません。

 要は、覚えることが増える代わりに柔軟な日本語と、語順が固定される代わりに構造がわかりやすい英語で一長一短な関係なんです。

 何が言いたいかというと、中学生の頃から散々習ってきた【語順】【文型】を、何やら難しそうだと煙たがる必要は全くないということです。むしろ、これらの存在があるおかげで、単語さえ覚えればあとはそれを決められた順番に置くだけで文章を作れちゃうんです。

 語順についてバイトで例えるなら日本語は居酒屋のホールで、英語は工場の盛り付けですね。柔軟に動くにしろマニュアル通りに働くにしろ、どちらにもそれぞれの苦労や楽しさがあります。


 さて、先ほどの話でも出てきましたが、英語のもう一つの特徴として『活用が簡単』なことも挙げられます。

 大学で第二外国語としてヨーロッパ言語を学んでいた方はご存知かと思いますが、英語以外の欧州諸語は活用の多いこと多いこと。

 例としてフランス語を挙げると、動詞は『現在分詞・過去分詞・現在形・半過去・単純未来・単純過去・条件法・接続法』の8活用を覚えなければならず、それに加えて単語によって活用の仕方が異なり、規則動詞(活用の仕方が決まっている動詞)だけで3パターンもあります。これに加えて不規則動詞(その動詞固有の活用をする動詞)も合わせると30パターン以上あり、計240個以上もの活用を覚えることとなります。フランス語の回が楽しみですね。もちろんただ丸暗記なんて退屈なことはさせませんよ。

 あと、日本語も活用が多いですよね。中学校の国語で習った『未然・連用・終止・連体・仮定・命令』というやつです。あれも我々日本人は当たり前のように使いこなしていますが、日本語を勉強している外国人は毎日呪文のように必死に唱えているでしょうね。

 それらの言語に比べて、英語の動詞の活用は『過去形・現在分詞・過去分詞』の3活用のみ覚えればよく、活用のパターンも不規則動詞を除けば全ての動詞で共通であり、現在分詞に至っては不規則動詞だろうと規則動詞だろうと-ingをつければ完了です。

 少し初学者には難しい単語が並んだかもしれませんが、要するに覚えることが少なくてラクチンということなのです。


 そんな簡単な英語にも、一つ難しい点があります。それは『綴りと発音が一致しないことがある』ことです。

 みなさん、カラオケってご存知ですか。

 今、ほとんど全員が頷いたであろうと仮定しながら進めます。

 さあ、カラオケをご存知なみなさんに質問です。




 Karaokeってご存知ですか?

 



 「え?さっきと質問変わった?」と戸惑ってらっしゃる皆さん、安心してください。私がタイピングした文字は一問目も二問目も同じです。

 変わったのはローマ字かカタカナかですね。意味もなくローマ字にしたわけではありません。実は、二問目のKaraokeは『英単語』なんです。意味はもちろんカラオケで、日本語から輸入された英単語です。

 ではこのKaraoke、どのように発音すると思いますか?「カラオケ」ではありませんよ。この単語の正確な発音は、「キャリオゥキィ」です。

 何度だって言います。「キャリオゥキィ」です。アクセントは陽気なギャルが爆笑して肩を叩きながら言ってくる「マジ無理ぃ」と同じです。

 つまりは、日本語のように綴りがそのまま発音になるわけではないんですよ。

 もちろん英語にも一定の発音規則はあります。フォニックスと呼ばれるもので、20世紀から英語圏では子どもに教えるのが一般的なようです。しかし、フォニックスもマニュアルのように機械的に適用できる発音ルールというわけではなく、結局はいろんな単語を覚えながら発音を身につけていくことになります。

 面倒くさそうだなと思いましたか?案外そうでもないかもしれませんよ。何せ我々は、ネイティブほどではないにしろ、小さな頃から英語の綴りと発音を比べる機会はありますからね。完全な初学者と比べると圧倒的な経験を、実は日本人は持っています。例えばbeautifulって単語なんて初見じゃ絶対にビューティフルとは読めませんが、日本人はほとんど全員がこれを正しく発音できますよね。カタカナ英語が『正しい』にカウントされるのかは怪しいですが、少なくとも綴りと発音との差異を認識できているのは間違いありません。


 あとは『発音』自体も英語の特徴に入りますね。

 一番特徴的なのは r の発音です。英語におけるrの発音記号[ɹ̠]は、実は他のヨーロッパ言語には存在しない音です。そりゃあ日本人も苦戦するわけですね。

 あとは母音を引き伸ばすような発音も耳に残ります。tomatoは「トマト」ではなく「トメィトゥ」、avocadoは「アヴォカァドゥ」、appleは「エアァポゥ」ですよね。

 単語の音節(発音の一かたまりの単位)の区切り方もやはり日本語とは異なります。

 日本語の発音の区切りはモーラといって、基本的にひらがな一文字が1モーラです。それに対して英語の音節の区切りはいくつかの規則によって分けられますが、カタカナ英語とはまるで違う区切りであることが多いです。例えばカタカナ英語で「インポータント」と7モーラで発音されるimportantは、音節で区切るとim-por-tantと、たった3つの音節です。

 基本的に、英語よりも日本語の方が音節の数は多くなりがちです。それも、importantの例で示したように2倍近く違いがあります。これが日本語が『マシンガン口調』と呼ばれる所以でしょう。まさに小粒の発音を高速で連射する日本語に対し、英語は2~5個のアルファベットから構成される重めの音節同士をぬるっとつなげて発音します。

 

 少々長くなりましたが、以上が英語の概説と特徴です。

 総合すると、発音を除けば非常にシンプルでわかりやすい構成の言語であるということです。

 日本人であるがゆえの学習上の障害もありますが、逆に日本人だからこそ簡単に習得できる要素もあります。トータルで言うと少しマイナスかなというのが痛いところですが。

 次回からは英語の成り立ちや歴史について説明させていただければ幸いです。

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