第二話 知らないこと

少女は荷物を届けてから、もう一度吸血鬼の少年の元へと戻った。

「あなた、名前はなんていうの?」

「俺はメアだ。」

「まぁ。なんて悲しい名前。」

『メア』とは悪魔、悪夢を見せる者という意味がある。こんな不吉な名前は人間には絶対につけない。ただ、この少年は吸血鬼だ。吸血鬼の界隈では普通のことなのかもしれない。

「悪魔って意味があるんだ。俺にはお似合いだろ?そうゆうお前こそなんていうんだよ。」

「私はリリィっていうの。」

「リリィか。弱そうな名前だな。」

「なんですって?!わたしはそんな弱くないわ!」

「さっきまで殺さないで~!!って騒いでたくせに。面白い奴だな。」

何も言い返せなくて黙ってしまった。メアは少し面倒くさい奴かもしれない。吸血鬼のくせに人にウソを与えずに正論をぶつけてくる。メアの方こそ面白い奴だ。自己紹介もほどほどにして、本題について話そう。

「そんなことはどうでもいいわ。それよりも、戦争を終わらせる方法について話ましょう。」

「なぁ、思ってたんだけどよ。その、戦争ってなんだ?」

目の前で戦争が起こっているのに、戦争を知らない人なんて初めて見た。一瞬ふざけているのではないかとも思ったが、彼の眼は真剣にこっちを見ていた。これも吸血鬼だから知らないのだろうか。リリィはメアのために今起きている戦争について詳しく説明した。

戦争とは、人間同士で戦って、殺しあうこと。捕虜をとらえて奴隷にすること。人間にとって残虐なことが起こること。戦争は自然には起こらず、必ず戦争を起こす理由がある。今回の場合は、地球にわずかしか残っていない資源を巡って起きた。全世界を巻き込む戦争だ。リリィたちがいるアルデアは今、隣国のグラノスと戦っている。グラノスを超えた先に資源が残っているからだ。逆にグラノスはその資源を守るためにアルデアと戦っている。地図上だと、残されたわずかな資源は様々な国にまたがっていて、その周りの国が一番近い資源がある国に戦いを挑んでいるという構図だ。

「確かに、ちょっと前よりはだいぶ森とか減った感じするなぁ。ここらへんも森があったもんな。」

ここまでの話を聞いたメアがそう言った。ここら辺に森があったのはもう50年以上前の話だ。それをちょっと前と言えるなんて。やはり吸血鬼だから寿命も長いのだろうか。

「だから、この戦争を終わらせるためには全世界に大量の自然資源を送ることが一番なの。でもそんなことすぐにはできないし、私たちにそんな力はないわ。」

「それが一番の解決策なら二番目も三番目もあるはずだろ?他にないか探してみようぜ。」

「他に方法なんてないわ。色んな人がそういってるもの。」

この戦争が起きてから改めて人間は強欲だと気付いた。目的のものが手に入らないとすぐに暴れだす。まるで赤ちゃんのように。どの国も一番欲しいのは資源。それが同じタイミングで同じ量を渡さないと平等じゃないって言われてまた戦争が始まる。

「それが本当かわかんないだろ。なんか頭いい奴とかに聞けばわかるんじゃないのか。」

「頭がいい人ほどそう言ってるのよ。どの国も平等に資源がないと、怒ってまた戦争が始まるって。」

「はっ。人間っていうのは面倒くさい生き物だな。」

メアは鼻で笑った。

「まぁ、そしたらその一番の解決策の方法を探そうぜ。今考えられるのはそれぐらいなんだろ?」

この解決策ができる可能性は限りなくゼロに等しい。でもあきらめないメアの態度に心底頼りがいがあるなと思ってしまった。それと同時に、本当に事態の大きさを分かっていないのかもしれないと思った。でも事態の大きさは考えていくうちにわかることだし、今はその解決策にしか頼ることができないから、しょうがなく一番の解決策、「自然復活作戦」の方法を探ることにした。

こんな路地裏にいてもしょうがない。二人は町の方へと歩き出した。

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青い君が私と出会った。 @saimero

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