青い君が私と出会った。
@saimero
第一話 運命
「はぁっ…はぁっ…」
すさまじい空爆の音の中に、かすかに人の息づかいが聞こえる。
「っはぁっ…っ…」
それは少女の息だった。降り注ぐ爆弾から逃れるために、必死に走っている。
少女は腕に何か抱えながら、かつて路地だったところへと入った。
今、世界では超大規模な戦争が起きている。地球に残された約1パーセントの資源を巡る戦争。どの国も資源が欲しいから、どの国も譲らない。それが戦争に発展したのだ。
少女が路地だったところに入ると、空爆の音が止んだ。攻撃は止まったらしい。
「はぁっ…はぁ…」
少女は立ち止まり、虚ろな目で呼吸を落ち着かせた。
「はぁ…あぶなかった…もうちょっと逃げるのが遅かったら死ぬところだったわ。」
少女は今生きていることに感謝しながらつぶやいた。
「荷物も大丈夫そうだし、みんなが待ってるから早くいかなくちゃ。」
少女は他の市民のために支援物資を運んでいる最中だったのだ。
少女は再び足を動かした。崩れた建物がさらに崩れる音が聞こえる。もの思いにふける暇はない。こんな瓦礫の中にも敵が潜んでいるかもしれない。そう思いながら少女は突き進んだ。すると、
ガランッ
という音と共に、視界がゆがんだ。目の前に誰かが立っている。少女は瞬時に理解した。自分は今、こいつに瓦礫の後ろに引きずりこまれて殺されようとしている。少女はとっさに叫んだ。
「きゃああ!!いやだ!!やめて!!死にたくない!!!」
その瞬間、首に痛みが走った。
「きゃあああああああああああ!!!!!!」
…
生きている。死んでいない。意識もあるし、呼吸もできる。確かに引きずりこまれたはずなのに、首に痛みが走ったはずなのに、生きている。
「不味い。」
耳元でそんな声が聞こえた。そのあと、硬い地面へほうり投げられた。わけもわからず同様していると、さっきと同じ声がした。
「おい。お前。もうどっか行っていいぞ。不味いし。」
「ど、どういうこと?あなた、敵の兵士じゃないの?」
「敵の兵士ぃ?なんだそりゃ。」
よくみたらそいつは鎧を着ていないし、敵国グラノスの印らしいものも付けていない。自分と同じぐらいの少年で、白い髪、赤い目、黒の布をつなぎ合わせたような服を着ている。見たことがない人だった。その少年は近くの瓦礫を背にして座った。
「あ?どっかいかねぇのか?」
今起きたことが意味不明過ぎてぼーっとしていたことに今気づいた。本当ならすぐにでも逃げたいが、どうしても不思議なことがあった。
「あなた…今私に何をしたの…?」
さっき首に走った痛み。命が目的ならそのまま首をはねるはずだが、はねずに生かした。なぜ不味い。と言ったのかをどうしても知りたかった。
「別に、なんもしてねーよ。ちょっと味見しただけ。」
「味見ってどういうこと?」
「味見は味見だ。」
「どうゆうこと?教えて?」
少女は、知りたいことはとことん追求するタイプなのだ。これに降参したのか、その少年は大きなため息をついて少女の方を見て言った。
「まぁ、少しの腹の足しにはなるか。分かった。教えてやるよ。教えてやるからよく聞いとけよ?」
「うん!」
「さっき、俺はお前の首を噛んで、血を吸った。」
「え?」
とても衝撃的なことだった。思ったより斜め上の回答が来て少し焦った。
「ほら、お前の首触ってみろよ。俺が噛んだ跡があるだろ。」
それまで怖くて触れなかった自分の首に触ってみた。確かに噛まれたような感触と、血がついていた。
「人間の血を欲する生き物はなんだ?そう。吸血鬼だ。つまり俺は、吸血鬼だ。」
意味が分からなかった。今目の前に吸血鬼がいる。空想の話でしか聞いたことがないものが、目の前にいて、自分の血を吸った。頭が混乱してきている。
「まぁ、この事実が世に出回るのは避けたいから、お前には今すぐここで死んでもらう。」
途端に周りの空気が変わる。その吸血鬼の少年は少女にまたがって、今にも食べようとしている。
「ま、待って!ちょっと…ちょっと待って!」
ようやく思考が落ち着いてきたところで、今度は自分の死が近づいてきている。こんなことになるのだったら、聞かない方が良かったと後悔している。なんとかこの状況を打開しないといけない。そう考えていると口から思ってもいない言葉が次々出てくる。
「ど、どうしたら生かしてもらえる?」
「んーそうだなぁ。俺が吸血鬼ってことを墓まで持って行って…あと美味い人間を持ってきてくれたら生かしてやってもいいぜ。」
「わ、わかったわ。その条件を飲むから殺さないで!」
「本当か?もし破ったら…こう、だからな?」
少年は首を切る動作をした。自分はただ首を振ることしかできなかった。自分は今とんでもないことを約束してしまったのかもしれない。さっきのことといい、今日の自分は全くついていない。でもこれも運命なのかもしれない。いや、運命なのだと受け入れよう。そうやって今までもやってきた。そうとなれば自分の命のためにも美味い人間を探さないといけない。
「あなたの秘密を守ることはできるけど、その、美味い人間っていうのはどんな人なの?」
少女の上から退いた少年は答えた。
「お前、意外とすぐ落ち着くんだな。まぁいいや。美味い人間っていうのはなぁ、血がとにかく美味くて、吸ってるだけで幸せになるんだ。」
「それだけじゃわからないわ。もっと具体的な特徴はないの?」
「はぁ?もっと具体的ぃ?んー…なんかそうゆう美味い人間は、人生のうちに幸せをたくさん感じたことがある奴だって聞いたことがあるな。」
それを聞いて少女は絶望した。戦争はもう5年ほど続いている。戦争中に幸せを感じる人なんて政府のお偉いさんぐらいしかいない。少女のような一般市民はずっと悲しみや苦しみに包まれているのだ。少女に政府のお偉いさんを殺すほどの力はない。一瞬、死という言葉が頭をよぎったが、それとは別の考えも頭をよぎった。
「そう。じゃあ美味いに人間を探す代わりにいいことを教えてあげるわ。今世界中で戦争をしているでしょう?そんな中幸せを感じている人なんて一人もいないの。だから、今のあなたのお願いは叶えてあげられない。」
「…おい。」
「でも!もし、戦争が終わったら。みんな幸せになる。幸せになったら、あなたは美味い人間を食べれないほど食べれるようになる。そう!そうよ!戦争が終わればみんな幸せになるの。そしてあなたも美味い人間をたくさん食べれるわ。こっちの方が良くないかしら?」
「…」
突拍子もないことを提案してしまっていた。でも、戦争が終わってほしいとは思っている。この提案はお互いにwinwinの提案だったのではないか。と、沈黙が続く瓦礫の中で思う。
「…いいだろう。つまりは戦争を終わらせればいいんだな?」
「そう!」
案外受け入れてくれて安心した。でも、戦争を終わらせるなんて簡単にできるものなのか。そんな考えが頭をよぎる。
「じゃあ、お前にも手伝ってもらおう。」
「え?!な、なんでよ!」
「そりゃあ俺の秘密を知ったからだ。さっき、美味い人間を探す代わりに~とかほざいてやがったが、そんなんじゃあ代わりにならねぇ。」
「うそでしょ…?本気で戦争を終わらせようと思ってるの?」
「当たり前だ。美味い人間をたらふく食えるならどんなことだってできる。」
こんなことになるとは思っていなかった。でもこれは好都合かもしれない。もし、もし本当に戦争を終わらせられたら…ちょっとでも希望が湧いてきた。
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