鬼姫と篁(3)

 ふたりは闇の中で対峙していた。

 太刀を抜いたふたりの距離は広く、お互いが一歩踏み込まなければ斬りつけることはできない。

 雨が降っている。強い雨だ。

 お互いに見合ったまま、動かない。


 雨が地を打ち付ける音が聞こえる。

 遠くの空で雷の音が聞こえる。

 いま聞こえるのは、自分の呼吸をする音だ。


 いかずちが走った。

 その一瞬の光だけで十分だった。

 篁は泥濘ぬかるんだ地を蹴ると、大きく跳躍していた。

 その動きを見て鬼姫はにやりと笑い、太刀を振った。


 鋭い一撃。

 勝負はついていた。


 雨が地を打ち付けていた。

 遠くの空で雷の音が聞こえていた。


 雨の降りしきる中、立っていたのは篁だけだった。

 鬼姫は前屈みになり、地に吸い込まれていくかのように倒れていた。

 斬ったわけではなかった。

 太刀の刃とは逆側、峰の部分で鬼姫の頭を叩いて昏倒させたのだ。


 篁は太刀を収めると、鬼姫のことを抱き起こした。

 降りしきる雨の中、篁に抱き起こされた鬼姫は笑っていた。

 その顔は鬼姫であり、花であった。

 どちらからというわけではなく、お互いに顔を寄せ合っていた。

 雷鳴が轟いた。

 鬼姫の顔は花となり、花の顔は鬼姫となった。

 最初から、ふたりはひとりだったのだ。

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