余談、小野篁と伴善男
晩年の小野篁について語るにあたり、伴善男という人物は避けて通れない存在です。
ちょうど篁が参議となる少し前に起きた「善愷訴訟事件」で、名をあげたのが当時弁官だった伴善男でした。善愷訴訟事件は揉めに揉めた訴訟であり、この訴訟に終止符を打ったのが小野篁です。篁は、この善愷訴訟が発生した当初は弁官として関与はしておらず、途中から権左中弁の職に就き、伴善男の主張に同意したことで善愷訴訟に終止符を打ったというわけです。
この「善愷訴訟事件」については、色々と調べたのだがあまり物語としては面白みもなく、書くのにものすごく労力を使うと思ったため、本物語では避けて通ることにしました。
ただ、小野篁と伴善男の繋がりはどこかに書いておきたいと思ったことから、今回のエピソードを書いたというわけです。
伴善男は、後に伴大納言と呼ばれるようになります。その名の通り、大納言にまで出世をするのですが、この物語の頃はちょうど出世コースに乗り始めようとする頃で、大納言になるのはまだまだ先の話です。そして、大納言となった伴善男が起こすのが、世に有名な「応天門の変」というわけです。伴善男はこの応天門の変の首謀者として検非違使に逮捕され、伊豆へ遠流となり、そこで没してしまいます。
応天門の変は、当時の朝廷を牛耳ろうとしていた藤原一族の陰謀という説が有力です。当時、太政大臣であったのは藤原良房であり、良房の弟である藤原良相が右大臣の地位にありました。藤原氏としては、反藤原勢力のひとりでもある伴善男が邪魔な存在だったのでしょう。
なお、伴氏に関しては、その前の「承和の変」においても、藤原一族に朝廷から排除されていたりもします。この時は、
この応天門の変が起きた時、篁はすでにこの世にはいませんでした。もし、篁が生きていたら、また違ったことになっていたかも知れませんね。本物語では、篁と藤原良房は仲の良い友人ですが、実際は良房にとって邪魔な存在だったかもしれません。だから、篁が生きていたとしたら良房と篁で壮絶な政争が起きていたかも……。と、そんな想像をするのも面白いです。
応天門の変で遠流となり、伊豆国で没した伴善男はその恨みを晴らすべく、
また、伴善男の外見に関して史書などの記述を見ると、もはや悪口としか思えないようなものが残されていたりします。
伴善男は、生まれつき人品が優れている一方で、狡猾であり悪賢い男。普段より
風貌に関しては完全な悪口じゃ……。当時はもみあげが長いのはダメだったのだろうか、と疑問を覚えたりもしますが、きっともみあげの長い貴族は変だったのでしょうね。
これに関しては、おそらく藤原氏が応天門の変の首謀者として伴善男を悪人であると後世に残す必要があったためにこのように書いているのだと思われますが、それにしても酷いですね。完全に悪人顔が想像出来てしまいます。
でも、そんな悪いやつだったら、篁も善愷訴訟事件で弁論を助けたりはしなかったと思うんですよ。
と、こういった背景を今回の話に反映させながら、伴善男というキャラクターを作ってみました。
なお、この応天門の変では、伴善男の伴氏となぜか
特に連座で流刑となった紀夏井に関していえば、とばっちりもいいところでした。不出来な弟である紀豊城を伴善男に預けていたために、自分も流罪となってしまったのです。
紀豊城はだいぶダメなやつだったようで、豊城がやらかして、兄である夏井がボコボコにぶん殴っていたといった話が残されているような人物です。あまりにダメであるため、伴善男に預けられていたとか。しかし、それが裏目に出てしまいましたね。
余談の余談となる話ですが、小野篁と紀夏井に関しても少し触れておきます。
本編の中でも少し書いたことですが、紀夏井は書で小野篁に弟子入りをしています。当時、書といえば篁といえるほどに篁の書の才能は有名だったそうです。
また、紀夏井はかなりの長身で190センチ近くあったという(平安時代の平均身長は160センチ)。書の師である小野篁も188センチあったというから、長身の師弟コンビであったようですね。そんな二人に挟まれる、矮小といわれた伴善男。きっとFBIに捕まった宇宙人のような感じだったに違いないと想像しています。
と、いうわけで今回は伴善男についての余談を書いてみました。
引き続き、本編をお楽しみください。
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