出会いを求めるひっち
「おれ、思っていることがあるんだ」
「どうしたんだよ、ひっち?」
ひっちの突然の一言にかずやんが反応している。
「もっと出会いを増やした方がいいんじゃないかってことさ」
ひっちの唐突な発言に警戒感を示す三人。
「そんなに出会いに困ることがあるのか?」
「先手を打つことは大事だろ、だーいし」
だーいしの素朴な疑問など意に介さず、ひっちが一枚のチラシを見せる。
「これだよ、これ」
ひっちが見せたチラシはとあるイベント告知だった。
その名も『投票ギャルズ決起集会』。
チラシにはピンクの背景で、『戦争ムリポン、平和らぶい、人権バリ守る』と白い文字が書かれていた。
よくよく文章を眺めてみると、内容も日本の投票率のことやら護憲のことやらが書かれていて全く可愛げがない。
「見てくれよ、ギャルだぜギャル。こんなチャンスそうそうないぞ」
ひっちが目を輝かせて話している。
おそらく内容を全く精査していないことが伺える。
ひっちからちょっと離れた場所でだーいしとたまさんがひそひそ話をしていた。
「え、これってそういうやつじゃな……」
「いや、ここは行った方がいいだろう」
「だーいし、どうして?」
危険性を感じているたまさんが止めようとするも、だーいしが止めるのを止めに入る。
「ひっちは欲に駆られると痛い思いをするというのを、身をもって知る必要がある」
「僕らまで犠牲になる必要ってある?」
「たまさん、改革は痛みを伴うものなのだ」
「もはや巻き込まれ事故だよ」
たまさんの顔から生気が抜けていくのが分かる。
それでもだーいしはこの決起集会に参加する意思を固めているようだ。
よくもまあ、こんな話を真顔で出来るものだとたまさんが思っていることだろう。
「ギャルねえ、別にギャルじゃなきゃいけない理由もないんだけどな」
そんな中、かずやんだけがひっちの意図を組んだような話をしていた。
そしてついに、イベントへの参加が決定してしまった。
もはや何が起こるかは神のみぞ知る。
ひっち過激団が駅の方へと着くと、確かに人だかりが出来ていた。
例のイベントで集まっている人たちだろう。
しかし、ギャルが来ると言う割には高齢者が多い。
気のせいだろうか。
「あれ、ギャルはどこにいるん?」
ひっちが必死になってギャルを探している。
ここまで来ると滑稽を通り越して悲しみが沸きあがってくる。
「ひょっとして、あれかあ?」
かずやんもひっちと同じようにギャルを探していた。
すると、やたらとド派手な格好をした女性グループがひっち過激団目掛けて歩いてきた。
「あらー、こんな若い子たちが来てくれたなんて嬉しい」
「若くして政治のこと考えてくれてるなんて将来有望だわー」
「将来共〇党入らない?」
急に女性グループから話しかけられるひっち過激団。
どっからどう見てもひっちの倍ではすまなさそうな年齢の女性たちが、派手な格好をしている。
すなわち、古のギャルがひしめいているのだ。
二十世紀末ならギャルだったのかもしれない。
ひっちが思うギャルからは明らかにかけ離れており、ストライクゾーンからは当然対象外だ。
「ギャルって聞いてやって来てみたら、クソババアしかいねーじゃねーか! 有権者なめてんのかおらああああん!」
「ひっちはまだ有権者じゃないぞ」
ひっちの激昂に対して、だーいしが冷静にツッコミを入れる。
「だーいし、僕は正直なめてたよ。キツ過ぎる」
「泣き言を言うなたまさん。我々は分かって来ているのだぞ。これもひっちの意識改革のため」
「分かって来たってのはどういうことだ、なあ?」
たまさんの悲痛な一言をだーいしが何とかしてなだめる。
そしてその隣では、かずやんが聞き捨てならないと言わんばかりの表情を浮かべている。
かずやんもまたこの現状に怒りを覚えている。
「ひっちが欲に駆られない行動が出来るようにと心を鬼にしたのだ」
「こんなんあいつ一人に行かせりゃいいじゃねえか!」
だーいしの意見にかずやんが正論をぶつける。
「僕たちはぎせ、じゃなくてひっちの意識改革が出来ているかどうか監視してるんだよ」
「それにしても、何だって俺抜きでそんな話してたんだよおお!」
たまさんの言葉にかずやんが悲しみを帯びたツッコミを入れる。
「左巻きの活動は支持層の高齢化に伴い、このような結果になることは予想できていたのだがな」
だーいしもまた、目の前の光景が想像以上にむごかったので、ダメージを受けているようだ。
「俺にその情報をもたらしてくれたら変に期待することもなかったんだ」
「そうなの? それは情弱だよかずやん」
「るせー!」
どうやらかずやんもひっちと同様ギャルを期待していたようだ。
たまさんの容赦ない一言がかずやんに刺さる。
そんな中、ひっち過激団のそばにギャラリーが詰め寄り始めた。
おそらくギャルたちが目当てなのだろうが、どう見てもおじいさんばっかりだ。
おそらくサクラだろう。
無理して若者のようなファッションをしようとしているのが痛々しい。
これはおっさんにすら見向きもされない、または動員できなかったということだ。
その光景はもはや一種のむなしさすら感じさせる。
「ええのお、にいちゃん。こんなカワイ子ちゃんたちに相手されて」
「欲しけりゃやるよ! こんなクソババア共」
周りのサクラに囃し立てられてひっちは完全にぶち切れモードだ。
「みんな帰ろうぜ」
「「「おー!」」」
こうしてひっち過激団の出会いを求める行動は失敗に終わった。
果たして、ひっちにとっていい薬となったのだろうか。
その答えは誰も知らない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます