一揆勢を撃破せよ

 ひっち過激団の報告を聞いた鈴木軍がついに動き出す。

 鈴木軍は和朝を総大将にして浄苑寺へと進軍をしていた。

 当然のようにひっち過激団も鈴木軍に同行している。

「みんなやっつけちゃうの?」

「ああ、彼らを鎮圧せねばならぬ」

 ひっちの素朴な質問に又兵衛がぽつりとつぶやく。

 反乱分子を放っておくわけにもいかないので、当然ではある。


「しかし、殿様が来るとは思わなかったな」

「殿は伯駿の最期が見たいとのことだ」

「悪趣味だぜ」

 和朝のことだから、又兵衛に全部任せてしまうのかとかずやんは思っていたようだ。

「今回は寺をそのまま確保するとか、条件があったりするわけではないんですよね?」

「ああ、殿も浄苑寺を残したいとは思わぬだろうしな」

 たまさんが鎮圧における条件を又兵衛に確認していた。

 幸いなことに今回は制約がなさそうだ。


 近くまで到着した鈴木軍は浄苑寺のふもとに陣を構えた。

 そして、出陣前の全軍に和朝が檄を飛ばし始めた。

「余を馬鹿にするあの伯駿を我らの手で地獄送りにしてやろうぞ!」

 伯駿に名指しで批判され続けていたためか、和朝の表情や声は怒りに満ちていた。

 よほど伯駿の命を欲しているのだろう。

 苦赦味教の一行が浄苑寺の周辺に勢力を構え、迎撃の体制を整えている。

 浄苑寺を包囲して兵糧攻めが出来れば苦戦しないだろうが、それをやろうにも物資と兵力が圧倒的に足りない。


 結局、鈴木軍は正面から突破する試みだ。

 となると石段をひたすら登って攻めることになるが、迎撃を受け消耗は避けられない。

 進撃する鈴木軍に同行するひっち過激団だが、そこには想像以上に苦戦する鈴木軍の姿があった。

 一揆勢の反抗もさることながら、伯駿が送り込んで来た式神に行く手を阻まれてしまっている。

 更には、鈴木軍の一部が一揆勢と呼応し離反が発生した。

 鈴木軍は離反勢の暴動にも悩まされることとなってしまった。

 これには和朝が怒りを抑えられるはずもない。


「お前らは黙って余の言うことを聞いていればよいのだあああっ!」

「「離反してえええええっ!」」

 怒号をあげる和朝を尻目に、かずやんとたまさんの士気は下がり、萎えに萎えまくっている。

「頑張るのやめようかな……」

 そしてひっちも同じように萎えてしまっている。

 唯一だーいしだけが平常心のままだった。

 ひっち過激団のあからさまな士気低下に又兵衛が頭を抱えていた。

 戦意が下がりに下がったひっち過激団に対し、ついに又兵衛が奥の手を繰り出す。


「戦に勝てば、町娘を紹介するぞ!」

「のわあああにいいいいっ!」

 ひっちのテンションが最大になり、何とか持ち直す。

 かずやんとたまさんも少しやる気を取り戻した。

「まっちむっすめ、まっちむっすめ!」

 うなだれていたひっちが背筋を伸ばし、堂々たる姿勢を取り始めた。

「ひっちが頑張るらしいから、僕たちも頑張ってみる?」

「そうするかぁ」

 たまさんとかずやんもとりあえず頑張ってみることにした。


「そこだっ、3WAYショット!」

 たまさんがセイントガンから横に三方向の鋭い光弾を放ち、式神を一掃した。

 しかし、スパイラルショットほどの威力を感じられない。

「たまさん、いまいち盛り上がってないぞ」

「そそそそんなことないよ」

 かずやんの指摘にたまさんが慌てふためく。

 たまさんもひょっとしたら気にしているのかもしれない。

 一方ひっちはひっちでセイントキャノンを構えていた。

「ひっち榴弾砲りゅうだんほう発射! どっかーん、どっかーん!」

 緩やかな弧を描いた榴弾が着弾と共に爆発する。

 爆発で多くの式神を消滅させ、一揆勢に大打撃を与えた。

 形勢逆転に成功した鈴木軍は一気に石段を駆け上がり、浄苑寺まで攻め込む。

 何故だかよく分からないが、だーいしが先鋒を務めていた。


 だーいしが僧兵たちを切っては捨て、切っては捨てで血路を開く。

 そしてついに伯駿と対峙することとなった。

「そなた、この前見かけた者。なぜ鈴木和朝のような男に加担するのだ」

「仕えているからだ」

「あのような男についていてもろくなことにはならんぞ、これは間違いない」

「それでも、我は戦う!」

 伯駿が法力で光弾を放ち、だーいしを苦しめようとする。

 しかし、だーいしがセイントサーベルで光弾をはじき返してしまった。

「ゆくぞ、聖印刀!」

 だーいしが伯駿に勢いよく迫っていく。

紫電連斬しでんれんざん、はああっ!」

 電光と共に無数の斬撃が伯駿を包み、一瞬にして切り刻んでしまった。

 こうして一揆勢は総大将を失い、掃討戦となった。



「だーいしの奴、一気に決めてしまったな」

 かずやんがだーいしの活躍を目の当たりにし、呆気に取られている。

「強いのは分かるけど、もうちょっと冷静さが欲しいよね」

「それな」

 たまさんのつぶやきにかずやんが同調する。

「町娘はどこにおるん? ねえ町娘は?」

 ひっちが町娘を求めて周辺をウロチョロしている。

 そのひっちの様子をかずやんとたまさんが見つめていた。


「ひっちどうしたんだ?」

「又兵衛が町娘を紹介してくれるって言ってたんだけど」

「流石に見当たらないだろ」

 ひっちに対して、お前は何を言ってるんだと言わんばかりの表情でかずやんが答える。

 そうこうしていると、又兵衛がひっち過激団の前に姿を現す。

「そなたたち、よくぞやってくれた」

「ねえねえ又兵衛、町娘は?」

「いないぞ」

「何でさー?」

 そっけない反応をする又兵衛にひっちが悲しそうな声を上げる。


「会わせるとは言ったがここは山の中だ、そなたにも分かるはず」

「又兵衛さん大人げないですよ」

「すまぬ、こうでも言わないと……」

 いくら何でも又兵衛のやり方があんまりだったので、たまさんが苦言を呈した。

「事情は分かるけど、汚いぜ」

 たまさんの苦言にかずやんも続く。

 無理もない話だ。

「一揆勢など何のその! 鈴木軍強し!」

 そんな中、だーいしだけが謎テンションで独り言を口にしていた。


「皆さんお疲れ様です。無事ミッションを達成できたようですね」

「ええ、何とか」

「ひっちさん、どうされたんですか?」

「気にしないで下さい、いつもの発作ですから」

 不思議がるクリスにたまさんが無気力で答えてみせた。

 そして、クリスがいつものように転送の準備を始めた。

「ねえねえ、町娘は~?」

「はーいひっち帰るよー、町娘は次回だってさー」

 ひっちの願いは叶うことなく、そしてたまさんに締めくくられてしまった。

 こうしてひっち過激団のミッションが幕を閉じた。

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