苦赦味教

「皆様おかえりなさい。ご飯にする? お風呂にする? それともミ・ッ・ション?」

「そんな風に言われてもミッションやりませんよ」

 クリスが強引にミッションに誘おうとするので、たまさんがいなす。

 ひっち過激団はそもそも先ほどミッションを終えたばかりなのだ。

「おれはクリスたそとお風呂にする~」

「ひっちのエッチ! 絶対言うと思ったよ!」

 ひっちの欲望に染まった一言にたまさんが条件反射でツッコむ。


「それでクリス殿、ミッションというのは?」

「『戦国の世界』のミッションで依頼主はお殿様ですね。緊急度3、重要度3、難易度2となっています」

「行かねば」

 クリスがいつものように淡々とミッションを説明する。

 だーいしが一人急にテンションをぶち上げた。

「おれ、バカ殿嫌い!」

「俺も嫌だね」

 対してひっちとかずやんは内容を聞くなり、そっぽを向いてしまっている。


「そ、そんなー。たまさん、たまさんは来てくれるよな?」

「どんなミッションかっていうのも大事だけど、誰からの頼みかってのもすごく大事なことなんだよ。依頼主がそんな風に思われてるってことはそういうことなんだよ、だーいし」

「じゃあ一緒に行ってくれるんだな」

「そんな訳ないでしょ!」

 たまさんですら怒りを覚えている。

 おそらくミッションの依頼主では最も嫌われていると言っても過言ではない。

 言動があまりにも良くないため、和朝はとにかく人望がない。


「ミッションの依頼主が又兵衛さんに変更されました。内容は同じです」

 クリスが突然ミッション詳細の変更をひっち過激団に告げる。

「ひっち、依頼主がバカ殿から又兵衛に変わったみたいだけど、どうするよ?」

「しょうがねえなあ、又兵衛がそこまで頭下げてくるってんだったら」

「二人ともちょっとガラが悪いよ……」

 かずやんとひっちの予定調和みたいなトークをたまさんが外から眺めていた。

「み、みんな来てくれるのだな」

「ああ、行ってやるよ。とっとと終わらそうぜ」

「本当だったらおれたちはあそこには絶対に行かないが、又兵衛がどうしてもって言うんだから行くだけだ」

 かずやんとひっちがミッションに参戦する意思を見せるが、怒りを隠せていない。


「よくぞ言ってくれた! ひっちとかずやんを信じていたぞ!」

 それを聞いただーいしが喜びの表情を見せる。

 ひっちとかずやんが怒っているをにまったく気にしていないようだ。

「また変なことにならなければいいんだけどね」

 たまさんが先の展開を心配しながら呟く。

 こうして、ひっち過激団は『戦国の世界』に飛び込んでいくことになる。



 ひっち過激団が『戦国の世界』に着くと、又兵衛が出迎えてくれた。

「皆、よくぞ来てくれた」

「又兵衛さん、今回は一体どんなミッションなんですか?」

「実はな、最近赤松家との国境付近に寺社勢力が蜂起しだしてな」

 たまさんの質問に深刻な表情で又兵衛が答える。

「この国は敵だらけじゃねえか!」

 かずやんが思わず又兵衛に強く当たってしまった。

 これは又兵衛と言うよりも和朝に責任があると思われる。


「しかも、奴らは赤松家を後ろ盾にしてこちらと一戦交えるつもりのようだ」

「しかも相手の方が外交上手ということですか」

 殿様が殿様なのでたまさんも予想できていたが、ここまで鈴木家が外交下手だとは正直予想を大きく下回る結果だ。

「うーむ、寺社勢力との戦い。これもまた戦国の世の習い……」

 だーいしが一人恍惚とした表情を浮かべ、悦に浸っている。

 普段は見せることのないだーいしのキモ顔がここにある。


「又兵衛さん、その寺社勢力についてですが」

「彼らは『苦赦味教くしゃみきょう』という宗教の信者達だ。教祖の伯駿はくしゅんを中心とし、この鈴木家と隣の赤松家の国境で信者を拡大しつつある。我々は彼らの脅威を打破すべく立ち上がるのだ」

「何なんですか? 聞いたことないですけど……」

「『くしゃみをすれば苦しみから赦される味がする』という内容で民たちの救済を説いている教え……らしい」

「『くしゃみをすれば苦しみから赦される味がする』? どんな教えなんですか!」

 たまさんが理解に苦しんだのか、驚きと呆れが入り混じった声を出した。


「やっぱお坊さんって頭いいんだなー。おれは急にうんたらかんたら言われても分かんないけどね」

「ひっちは理解する気ないでしょ!」

 ひっちの能天気な発言に、たまさんがちょっとカリカリしている。

 そうしているうちに他の家臣が近くに現れ、食事の時間であると告げられた。

 ひっち過激団が食事を取りに向かうと、和朝の食事だけがやたらと豪華なものになっており、他の者は質素な食事だった。

 更にひっち過激団の食事を見てみると、白米が一切ないではないか。

 これは一体どういうことなのか。


「此度の貴様らは動きが悪かったな。これはご飯の食べ過ぎで動きが鈍くなったからだ」

 和朝が余りにも理不尽な言葉をひっち過激団にかける。

「よって当分白米は禁止とする」

 余りにも無慈悲な一言が和朝から放たれる。

(あのバカ殿、前の戦何も見てなかっただろ!)

 かずやんが怒りの表情をこらえながら、身を震わせていた。

「そうだ又兵衛よ。例の胡散臭い教えだがどうする?」

「奴らには彼らを本拠地に送り、様子を調べる所存です」

「頼んだ。余はあの伯駿と言う男が嫌いだ。まずあの顔つきが気に入らん!」

 和朝が嫌いだと言う伯駿とは一体何者なのだろうか。

 ひっち過激団はそんなことを思いながら、苦赦味教が本拠にしているという浄苑寺じょうえんじへと向かうこととなる。

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