新技、イビル・エッジ

「博士、大変です。エリア内でまた襲撃です」

「むむ、またか」

 マミィの報告に一条博士が頭を悩ませている。

「すまんが、あんたらの出番ということじゃ」

「そういうことなら、おれたちに任せてくれよ!」

 一条博士の頼みに、ひっちが意気揚々と答える。


「前みたいに例の装備は使ってくれて構わんよ、あと」

「あと?」

「あんたにこれを渡すから、使ってくれ」

 一条博士がたまさんにとある装置を手渡した。

 耳からかける片眼鏡のような代物だ。

「それは『アナライザー』と言ってな、敵の詳細を分析してくれる装置じゃ。実用性しか考えられておらん実につまらない代物じゃが、使ってくれ」

「ありがとうございます」

 たまさんが一条博士に対し、お礼を述べた。 

 たまさんとしては一条博士の摩訶不思議な発明品よりも、実用性のある道具の方がありがたい。


 そしてひっち過激団は空中移動用スーツとヘルメットを身に着け、カタパルトから出撃する。

「ひっち出るぞ!」

「そんじゃ、行くぜ!」

「出撃する!」

「行きます!」

 ひっち、かずやん、だーいし、たまさんが順番にカタパルトから発進していった。

 まだ出撃のGに慣れないながらも、ひっち過激団は飛び立つ。



 ひっち過激団が向かった先には、煙が上がっていた。

「今度は一体ということのようだが、前の機械兵士に比べたら随分と大型だな」

「しかも虫、ありゃあクモかあ」

 だーいしとかずやんが敵の機械兵器を見て話をしていた。

 クモ型の機械兵器は空中から離れてみても大きいことが分かる。

 そのクモ型の機械兵器がビルをよじ登り、自重でビルを傾かせては倒していく。

 ビルの中の人たちが十分に退避されているかは疑わしい。


「なんとけしからん! あの機械兵器を倒すぞ!」

 ひっちはセイントガンでクモ型の機械兵器に狙いを定め、撃つ。

 しかし、撃たれた弾はクモ型の機械兵器にバリアで弾かれてしまった。

「マジかよ!」

「効かぬというのか」

 初撃が全く通用しないのを見て、かずやんとだーいしが驚愕する。

 そんな中、たまさんが『アナライザー』を使用してクモ型の機械兵器を分析し始めた。


「防がれてしまうかあ」

「困ったね」

「たまさんそんなに困ってなさそうだけど」

「こういう時ってのはパターンがあるんだよ」

 ぼんやりとした表情のひっちにたまさんが淡々と説明し始めた。

「何それ?」

「表側がバリアで守られているなら裏側、つまりひっくり返してやれば急所が露出するんだ」

 分析を終え、たまさんが冷静かつドヤ顔で解説している。

「何だかたまさんやらしー」

「何でさ!」

 冷静に決め込んでいたたまさんの表情がひっちの一言で崩れてしまった。 


 そうしているうちに、クモ型の機械兵器の頭部から機銃が放たれた。

 ひっち過激団は各自散開して回避する。

「とは言うものの、あんなのどうやってひっくり返すんだ?」

 かずやんが当然の質問をたまさんに投げかける。

「ビルに登っているところを狙うのがいいかな」

「それってそんなに上手くいくの?」

「大佐の言う通りなんだよなー、どうしたものか……」

 たまさんとひっちが後ろの方で相談しあっている。

 確かに上手くいく確証などない。


「そうなったらあれだな、接近戦だな」

「これは近づかなければどうにもなるまい……」

 かずやんとだーいしがそれぞれのセイントウエポンを構える。

「そんじゃ、いつものやっちゃいますか」

「僕たちは本当に牽制だけだね、ひっち」

「時には任せることも大事なのだ! 何てったっておれは大佐だからな」

「よく言うよ」

 ひっちとたまさんが取るに足らない話をしながら、射撃でかずやんとだーいしの援護をしていた。

 当然のように弾が効かず、弾かれてしまうものの、かずやんとだーいしを照準から逸らすことが出来れば上出来だ。


 今度はクモ型の機械兵器が背部からキャノン砲を放ち、ひっちとたまさんを狙う。

 轟音と共に弾が放たれる。

「うわああっ、危ねー」

「あんなのに当たったら死んじゃうね」

 当たらなかったものの、ひっちとたまさんが恐怖を感じるには十分な一撃だった。

 ひっちとたまさんは一瞬たじろいでしまったが、そこは何度も戦ってきた彼らだ。

 すぐに立ち直り、反撃に移る。


「やられっぱなしで腹が立ってきた。スパイラルショット!」

 たまさんがセイントガンから怒りの一発を放つ。

「避けられた! さっきまでのそのそと動いてただけだったのに……」

 クモ型の機械兵器が急に機敏な動きで回避行動に出たので、たまさんが驚愕の表情を見せる。

「まあまあたまさん、生きてればそのうちいいことあるよ」

「今言うことかああっ!」

 たまさん、ひっちの言葉に思わず絶叫。

 無理もない話だ。



「たまさんのスパイラルショットをかわすとはなあ、デカいだけじゃないらしいぜ」

「そのようだ」

 かずやんとだーいしは接敵するためにクモ型の機械兵器との距離を詰めていた。

 出来ればもっと迅速に距離を詰めていきたいところだが、機銃を乱射しているので簡単にはいかない。

「にしてもよー、もっと楽に接近出来ねーのかよ!」

「人生楽ありゃ苦もあるさ」

「こういう時にそんなん聞きたくないぜ」


 かずやんとだーいしは何とかして懐に飛び込めそうな距離まで近づいたが、今度はクモ型の機械兵器が脚部を振り回して接近を阻む。

 かずやんが危うく当たりそうになったが、間一髪でかわす。

「的確な判断をしてきやがる」

「一筋縄ではいかぬか」

 かずやんとだーいしが攻めあぐねている。

 そして、どうしたものかという表情を浮かべている。


「だーいし」

「どうした?」

「散開して何とか隙を作れねえか?」

「約束は出来んが、全力を尽くす」

「それだけ言ってくれれば十分だ!」

 かずやんとだーいしが散開し、二方向からクモ型の機械兵器へ接近を試みる。

 再び機銃の中をかいくぐり、かずやんとだーいしが迫っていく。

「潜り込むっきゃないか」

「表側はこちらが陽動する」

「任せたぜ、だーいし」

 ついに、かずやんがクモ型の機械兵器の足元まで潜り込んだ。


「今だ、イビル・エッジ! そらよおおおおっ!」

 鋭く研ぎ澄まされたセイントサイズの一振りが、クモ型の機械兵器を一振りで両断してしまった。

 爆散するクモ型の機械兵器を背にして、かずやんが意気揚々とだーいしのいる方へ歩み寄る。

「見事だな、かずやん」

「何とかなったな」

 そこにあるのは、ともに前線で戦ってきた者同士が持つ称賛の思い。


「おっ、ひっちとたまさんもこっちに来てるぜ」

 かずやんとだーいしが空を見上げると、手を振りながらやって来るひっちとたまさんの姿がそこにはあった。

「流石かずやんとだーいし!」

「それほどでも」

 ひっちに褒められてかずやんがちょっと照れくさそうにしている。


「本当にそう思うよ」

「たまさんがスパイラルショットを外さなかったら、もうちょい楽になったかもな」

「意地悪いわないでよー」

 かずやんはたまさんに対してちょっとイジってみせた。

「皆様お疲れ様です。無事ミッションを終えたようですね」

「そういうこった。今度はもっと楽なのを頼むぜ」

 クリスの声を聞き、かずやんは役目を終えたことを実感した。

 こうしてひっち過激団はミッションを終え、帰還していった。

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