智を司る者

 カラントからもらった地図を頼りに、ひっち過激団が洞窟へと向かう。

 ひっち過激団はアスプル軍の馬車に乗って移動している。

「カラントさんの話によると洞窟には『を司る者』ってのがいるってさ」

「何か、そういう奴とは会いたくないな」

 たまさんとかずやんが馬車の中でひそひそ話をしている。


「知恵を試してくるということは、スフィンクスのような存在なのだろうか?」

「そんなんどうでもいいから、普通に道を通してくれたらいいよね」

「呑気すぎるぞひっち!」

「話し合いで解決するための外交努力が足りないということではないですか?」

「左派ひっち!」

 ひっちが妙にらしくないことを語りだした。

 たまらずだーいしが反応を示す。


 しばらくしないうちに、目的の洞窟が見えてきた。

 ひっち過激団はすぐに馬車から降りて現地確認を行った。

 まだ入り口にも入っていないはずなのに、静かで空気がひんやりとしている。

「ここなんだよね」

「モンスターが出て来るかもな」

 たまさんが地図を確認し、かずやんが身構えている。

「とにかく行こうぜ!」

「そうだな、そうでなくては始まらん……」


 ひっち過激団がたいまつを持って洞窟の中に入っていった。

 中は所々鍾乳洞が見られる。

 外と同じように静かで空気がひんやりとしている。

「何か出て来るのだろうか? 場所が場所だから分からんな」

「何て言うか、周辺に生気が感じられないんだよね……」

「たまさん、何故そう思う?」

「動物の食糧になりそうなものが見当たらないからかな。食物連鎖が生まれそうに見えないし……」

 たまさんが洞窟を見渡して冷静に分析していた。


「やっぱおまんまだよな。生きるためにおまんまは大事だからな」

 ひっちがたまさんの言葉に続く。

 発言のせいか、すごくバカっぽく聞こえてしまう。

 洞窟の中は不思議なくらい一本道が続いた。

 たまさんの言った通り生気が感じられない中、ひっち過激団は洞窟を突き進んでいく。

 すると、突然開けた場所が目の前に見えた。


 何故か視界の先が明るい。

 よく見てみると人影がちらついている。

 あれが『智を司る者』だとでも言うのか。

 そしてついに、ひっち過激団は開けた場所に足を踏み入れた。

「ここから先へは通さん!」

「「「「で、出たー!」」」」

 突然声をかけられ、ひっち過激団はたじろいでしまった。

 その男は頬がこけてガリガリで、ボロボロのローブを羽織っていた。

 傍から見たらゾンビに見えてもおかしく無い風貌だ。

 しかもそこそこ臭い。


「もしかして『智を司る者』って奴か?」

「如何にも」

 かずやんが思わずポロリと言葉を発してしまった。

 それに対し智を司る者が腕を組み、堂々と言い放った。

「ここを通りたければ、智恵で私を負かしてみろ!」

「クイズ? それともなぞなぞ?」

 ひっちが何となくそわそわしている。


「よーし、それじゃあうちはたまさんだ!」

「勝手に決めちゃうの?」

「うん」

「そこうんって言うんだね……」

 ひっちから一方的に指名を受けたので、たまさんがびっくりしている。

「分かったよ。それじゃあ問題! スカイツリーの高さは?」

(知識チートってやつかな? こんなんこの世界にないものを出題すれば楽勝だよ)

 たまさんは得意げな表情をしてみせた。

 もはや勝利を確信しているのだろう。

 そして、現代知識にかまけ、たかをくくっている。

「この世界にはない建物だが、634mだな」

「へええっ。せ、正解です」

 知識チート破れたり。


 たまさんは答えを当てられてしまったので、肩を落としている。

「ならば、次は我がいこう」

「だーいしよろしく!」

「コホン、では問題! 徳川家十五代将軍は誰?」

(この世界が刻んだ歴史は現実とは違うのだ。現代世界の歴史の重みを思い知るがいい)

 だーいしもたまさんとは違う角度からではあるが、知識チートを展開するつもりだ。

 文系男子特有の自信がみなぎった表情だ。

「この世界にはいない人物だが、徳川慶喜だな」

「なぬ。せ、正解だ」

 知識チート二度も破れたり。


「うちのとりあえずインテリ枠があっさり負けちまったけど、大丈夫なのか?」

「むむっ、これはどうしたものか?」

 かずやんの素朴な疑問に、ひっちが珍しく深刻そうな顔をしていた。

「ふははははは、物足りんな」

 智を司る者は相当余裕を見せている。

「おれの番だな」

「ひっちじゃ絶対勝てないでしょ?」

 何故かこの展開でひっちが立ち上がった。

 たまさんも思わず苦言を呈してしまう。


「Hになればなるほど固くなるものなーんだ?」

「それはこの世界にはないが、鉛筆というものの芯だ!」

 智を司る者がよどみなく答えを言う。

「正解だな」

 それをだーいしが苦虫を嚙み潰したような顔をしている。

「ぶー、正解はチンポでしたー!」

「んぬぬぬっ」

 ひっちが智を司る者に不正解を言い渡す。

「それは違うぞ、ひっち」

「ひっちは鉛筆の芯の硬さのことなんか知らないんだよ」

 だーいしが反論しようとするも、たまさんが止めてしまった。

 何故なら彼はひっちなのだから。


「次、13×13はいくら?」

「簡単すぎるでしょ、それ!」

 ひっちの出した問題にたまさんが思わずツッコミを入れてしまった。

 無理もない話だ。

「169!」

「ぶー、おれにはそんなん分かりませーん!」

「んぬぬぬっ」

 余りにも理不尽過ぎるひっちの態度に、智を司る者が怒りで腕を振るわせている。

「クソすぎる」

「同じ陣営の人間に思われるのが辛い」

「『を司る者』には『を司る者』を! ということだな」

「「誰が上手いこと言えと!」」

 呆れ返るかずやんとたまさんに、だーいしが何となく上手いことを言ってのけた。


「何だよお前~、頭いいんじゃなかったのかよ~」

 そんな中、『恥を司る者』ひっちが智を司る者をとことん煽り散らかしている。

 智を司る者の表情から怒り心頭なのが見てとれる。

「散々馬鹿にしおって! 殺してやる!」

「問題出しただけなのに怒られたんだけど」

「そりゃ怒るわ」

「ここまでくると相手がかわいそうに思えてくる」

 余りにも呑気なことを言っているひっちに、かずやんとだーいしがツッコミを入れる。

 呆れ返っているせいでツッコミにも力が入らない。


「フレイムシュート!」

 智を司る者が呪文を唱えると、かざした手から火球が放たれていく。

「あっぶねーな、おい!」

「おわああああっと、あっちょ、あっちょ!」

 かずやんがひらりと身をかわす。

 ひっちは致命傷ではないが、かわしきれずにお尻が少々焼けたようだ。

「だが、四対一ではな! 残念だが終わりだ!」

 智を司る者がひっちとかずやんを攻撃している間にだーいしが急速接近し、間合いを詰める。

「紫電一閃!」

 迷いのない一太刀が智を司る者を両断してしまった。

 そして智を司る者はそのまま灰になり消えてしまった。


「さっすがだーいしだぜ」

「皆のおかげだ」

「先に進もうぜ! 『魔法の雫』があるかもしれないし」

 そして、ひっちが思い出したかのように先導し始めた。

 こうしてひっち過激団は『魔法の雫』を無事取得することが出来た。



「そなたたちが『魔法の雫』を手に入れてくれたおかげで、姫は無事回復したよ。ありがとう」

「いやーそれほどでも」

「ここぞとばかりにいくよな、ひっち」

 カラントが頭を下げているのをいいことに、ひっちがこれでもかとアピールしている。

 これにはかずやんも苦い表情だ。


「それでカラントさん、本題ですが」

「聖印のことだな」

 たまさんに本題を聞かれ、カラントは思い出すように聖印の話をし始めた。

「そなたたちの武器を見せてくれ。そして姫は聖印を彼らの前にかざしてくれ」

「分かりました」

 ミリアム姫が右手首にある聖印を見せる。

 ひっち過激団はセイントウエポンをミリアム姫の聖印に向ける。

 ミリアム姫とひっち過激団の間に、魔力の渦らしきものが見える。 

 最初は小さかったが、徐々にその大きさが目立つようになってきている。

 そして、最後には魔力の渦がセイントウエポンに吸収され始めた。

 ひっち過激団もミリアム姫も不思議な感覚に包まれている。


「どうやらそなたたちの武器が新たな力を得たようじゃな」

「新たな力?」

「その使い方は自ずと分かるであろう」

 たまさんの疑問にカラントが意味深な言葉を返す。

「ってことは、セイントウエポンからカワイ子ちゃんが召喚できるのか?」

「それはない」

「嘘つきババア」

「お主、相変わらず口の利き方がなってないな」

「ぐぎゃああああ、お許しおおおおおっ」

 ひっちが暴言を吐いたので、カラントが魔力で石を取り出し、ひっちの頭にぐりぐり攻撃をかましていた。

 セイントウエポンに宿った新たなる力とは。

 ひっち過激団は後々にその力を知ることとなる。

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