姫を病魔から救うべく

「お疲れさまでした。さて、続きましてのミッションはと……」

「クリス殿、一息つかせて頂きたい」

 クリスが連続してミッションを要求するので、だーいしが苦言を呈していた。

 散々走った後なのだから、休憩は間違いなく欲しい。

「今度のミッションは『剣と魔法の世界』。依頼主はカラントさんです。緊急度2、重要度2、難易度2となっています。」

「ババアかあ」

 クリスが概要を説明した後、ひっちがたまらず悪態をつく。

 正直口が悪いと言える。


「前回は凄まじい魔法を見せてもらったな。ディメンションワールドの中とは言え、改めて考えると、我々が魔法に触れているというのは不思議な気分だな」

 だーいしが前回を回想しながらしみじみと話をしていた。

「現代にも魔法はある! おれ聞いたことあるぞ!」

「急にどうしたのさ大佐?」

「うつぶせの人を一瞬にして仰向けにする魔法が現代にあるって話!」

「大佐、それどこ情報?」

「いとこのにいちゃん!」

 ひっちがまた妙な情報を仕入れて披露する。

 こういう時どういう反応をすればいいのだろうか。


「何者なんだよひっちのいとこのにいちゃんは!」

「少なくともひっちのツボを心得ていることは確かだな」

 かずやんとだーいしもその素性に興味を示してしまう。

 そんなひっちが慕ういとこのにいちゃんは謎だらけだ。

「そうだ、カラントさんで思い出したけど、聖印の秘密って分かったのかな?」

「カラントさんはその件について伝えたいことがあるようですよ」

 たまさんの疑問にクリスがさり気なく補足を入れる。


「聖印! ということはミリアム姫がいる?」

「間違いなくそうなるだろうね」

 たまさんの言葉を聞き、ひっちはテンションがかなり上がっていた。

「そうと決まれば、ひっち過激団出撃!」

「そろそろ行く?」

「ひとまず休憩は出来たな」

 かずやんとだーいしも行けるだけの状態にはなっているようだ。

 そして『剣と魔法の世界』に飛び込んでいくこととなる。



「よく来たな、待っておったぞ」

 ひっち過激団が城に着くと、カラントが出迎えてくれた。

「「「お世話になりまーす」」」

 カラントに挨拶をするひっち過激団。

 しかしひっちは除く。

 それどころか。ひっちはカラントの隣にいるミリアム姫を見るなり、一気に距離を詰め始める。

 中々にキモい。


「姫、とてもキレイですね」

「あ、ああ。そうか、ありがとう」

 ひっちが渾身の決め顔とイケボでミリアム姫に話しかけるも、今一つ反応が悪い。

「のわあああにいいいい!」

「急にどうしたのさひっち?」

「なぜだ! 異世界の女ってのはちょっと褒めたら即オチするんじゃなかったのかよおおお!」

「ひっち、それどこ情報?」

「異世界もののマンガ!」

「やっぱしかー」


 ひっちの言動にたまさんが呆れ返ってしまった。

 余りにもステレオタイプな思考回路でひっちはミリアム姫に迫っていたようだ。

 そこにとめどなく溢れる欲望を混ぜてしまえばこの通り。

 だがしかし、世の中そんなに甘くはない。

「そなた、カワイ子ちゃんとやらが好きなのだな」

「ははあ。しかし姫にかなうカワイ子ちゃんは知りませぬ」

 ミリアム姫の前でどうしょうもないくらいおべっかを使うひっち。

 これまたどうしようもなくキモい。


「カワイ子ちゃんならここにおるぞ。この城の侍女だ」

 ミリアム姫が自身に仕えている侍女を紹介する。

 金髪ツインテールの給仕服姿が良く似合う、可愛らしい女の子だ。

「チキショーーッ! ど貧乳じゃねえかーっ!」

「ひっちキレすぎだろ」

 ミリアム姫に紹介してもらっておいてキレ始めるひっち。

 これにはかずやんも開いた口が塞がらない。

「もしかすると着やせするタイプかもしれん」

「だーいしも合わせなくていいから」

 だーいしが合いの手を入れようとするのを、たまさんが静かに諭す。

 しかしひっちの先走った思いはおさまりそうもない。

 ただの性欲なのだが。


「姫ー、おれだー、未来の旦那さんだー!」

 ひっちが無茶苦茶なことを言い出してミリアム姫目がけて飛び込んでいった。

「ごっちーん」

「全く、こやつときたら」

 カラントが魔法壁を張ってミリアム姫を守っていた。

 魔法壁にぶつかったひっちはあわれにも顔を強打してしまった。

「フフ、フフフ。うっ……」

 それを見たミリアム姫が力なく笑ったと同時にフラフラとその場に倒れこんでしまった。


「姫!」

「いかん、かなりの高熱じゃ」

 カラントがすぐにミリアム姫を診て異変に気付いた。

「ど、どうすればいいんだ俺たち?」

「今ある薬だけでは一時しのぎにしかならんだろうな。強力な解熱剤を調合するには『魔法の雫』が必要になる」

 かずやんが恐る恐るカラントに質問した。

 ミリアム姫はひっち過激団の想像以上に危険な状況なのだろう。


「それをおれたちが採ってくればいいんだな」

「そうなるな」

 ひっちの言葉にカラントが頷く。

 もはやここまで来たらひっち過激団のやることは一つ。

「おれたちで姫のことを救うんだ! ひっち過激団出撃!」

「「「おー!」」」

 こうして、ひっち過激団は『魔法の雫』を求めて出発する。

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