ネコミミッション
「まさか、ヘススの奴あの子たちを動員するなんて」
ジョーンが凄まじい速さで街を爆走していた。
「ヘ、ヘスにゃん。ジョーンたそ足速くない?」
「今までの修羅場で鍛えた逃げ足だからな。しかも今回はランニングシューズだ、なおさらだな」
ひっち過激団とヘススは必死こいてジョーンの後を追いかけていた。
しかし一向に追いつく気配がない。
「どこかに近道はないのか?」
「このままじゃこっちがバテちまうぞ」
ひっち過激団の中では体力があるだーいしですら苦戦している。
かずやんも体力が尽きるのを心配しながら走っている。
「あるにはあるが、体が細くないと抜けられないようなところだ。道を教えるから、ひっちとたまさんでジョーンを挟みこんでくれないか?」
「おれはジョーンたそに挟まれたい」
「言ってる場合かあ!」
ひっちがボケボケなことを言い始めたので、たまさんが思わずツッコミをかます。
「じゃあ任せた。あの狭い路地を真っ直ぐ入って大通りに出てジョーンを待ち構えてくれ」
「うわあ、すごく汚れそう。ひっちは大丈夫?」
ヘススの指示を聞き嫌そうな顔をするたまさん。
ひっちはどんな反応をするのか気になるところだ。
「ジョーンたそのネコ耳! ジョーンたそのネコ耳!」
「ある意味覚悟決まってんだね」
ひっちは汚れのことなど何のその、ジョーンのネコ耳姿を見るためにベストを尽くすつもりだ。
ひっちという男を体現した言動だと言える。
「ひいいっ、何だよこの道……」
「ジョーンたそのネコ耳! ジョーンたそのネコ耳!」
路地を突っ切って行くと、その左右にはいろいろとおぞましいものが見えてしまった。
たまさんの気分は萎え萎えである。
対するひっちは自己暗示でもかけているかのように安定している。
欲の力はある意味偉大なのかもしれない。
目的ポイントに到着したひっちとたまさんは、そのままジョーンを待つ。
するとタイミング良くジョーンが姿を現す。
「げええっ、挟み撃ち!」
ひっちとたまさんの前にちょうどジョーンが現れたが、ものの見事にかわされてしまう。
捕まえようと身構えるひっちに対し、たまさんはジョーンの写真を激写していた。
その動作には寸分の狂いもない。
「誰があんた達なんかに!」
ひっちが何とかして捕まえようとするも、ジョーンは素早い。
あっという間に人ごみの中へと消えていった。
「捕まえられなかったか……」
ヘススがぽつりと呟く。
だがしかし、一度の失敗程度で焦りを見せているわけではなかった。
流石にヘススはそこまで小物ではない。
修羅場を何度もくぐってきているだけのことはある。
「次の手はあるのか?」
「この向こう側には大きな橋がある。今度は橋に先回りしよう」
ヘススが次の作戦を決め、指示を下す。
的確なのだろうが、目的がくだらないのだからどうしょうもない。
「ひっちとたまさんで橋の方へと向かってくれ」
「分かったぜヘスにゃん。んで道は?」
「川が見える方へ向かってくれれば分かる。ここから一番近い橋は一ヶ所しかないからな」
「ラジャー!」
ひっちが元気よく返事をする。
ジョーンのネコ耳姿に期待を膨らましているのだろう。
ひっちはたまさんと一緒に急いで橋の方へと駆け出した。
橋は幅が広く、また人通りも多い。
「ヘスにゃ~ん、何とかブリッジ封鎖できませ~ん!」
「そりゃ出来ないよ。何せ二人だからね」
ひっちの弱音にたまさんが無気力でツッコむ。
ジョーンがやって来るのではと、橋の両側でひっちとたまさんが構えている。
それでもジョーンの姿が一向に見えない。
結局、ひっち過激団とヘススはジョーンを捕まえることが出来なかった。
任務失敗と言ったところだろう。
くたくたになってオフィスに戻ってきた一行。
そんな中、たまさんがヘススに提案したそうな顔をしている。
「あのー、すみません」
「どしたの?」
「ヘススさん、パソコンお借りしてもいいですか? あと絶対に入らないで下さい」
「たまさんがそこまで言うならいいよ」
たまさんがオフィスの一部屋を借りて中に閉じこもってしまった。
静寂がオフィスを包んでしまった。
そんな不思議なタイミングでジョーンがオフィスへと帰って来た。
ジョーンの目が摩訶不思議な光景を捉える。
ひっちたち四人がオフィスの部屋の前にお札を張り、ナンマイダーナンマイダーと唱えているではないか。
「ちょっと、みんなしてなにやってんの?」
「ダメだ、ジョーン。たまさんが儀式を行っている」
「儀式?」
「決して扉を開けることは許されない、そして見ることの許されない儀式。ナンマイダーナンマイダー」
ヘススが神妙な顔つきでジョーンに語りかける。
はっきり言ってジョーンはリアクションの正解が分からない。
至極当然な話だ。
「何か知らないけど、こっちは仕事の続きやるからね」
ジョーンが別の部屋へと動き出した。
ひっち達にとってはかえって都合がいい。
「ヘススさん、こちらに来ていただいてもいいですか?」
「分かった」
たまさんに呼ばれたヘススが部屋の中へと向かう。
「ヘスたまかなあ、たまヘスかなあ」
「急に何言い出すんだよひっち!」
「かずやんはどっちだと思う?」
ひっちがおもむろにかずやんに質問を投げかける。
至って下らない内容だ。
「ヘスたまじゃね? 多分」
「ヘススは見た目こそあれだがドMかもしれんぞ」
「やめろ、想像しちまったじゃねえか!」
かずやんの答えを聞いて、だーいしが良からぬことを吹き込み始めた。
いくら何でもドMのヘススは絵面が悪すぎる。
そうこうしているうちに、ヘススが数枚の写真を手にして戻って来た。
後ろからたまさんもひょっこり姿を現す。
たまさんが部屋でせっせとジョーンのネコ耳写真を編集していたのだ。
「おお! 出来れば生で見たかったが、これはこれでいいな!」
「満足していただけましたか?」
「ああ、ありがとうたまさん」
ヘススが満足げな声で答える。
そして、傍から見てもヘススが満たされているのが分かる。
「良かったね、ヘスにゃん」
「ああ」
ひっちがヘススに近づき声をかける。
たまさんが編集したジョーンの写真を見たかっただけかもしれないが。
「なあひっち」
「どしたのヘスにゃん?」
「何でたまさんってこんなに画像編集上手なの?」
「知らなーい」
「ひっち過激団七不思議のうちの一つかもね」
「「ねー」」
二人は息ぴったしで声を掛け合った。
こうして珍妙なミッションが幕を閉じた。
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