パティシエひっち(後)

 ひっち過激団は無事買い物を終え、ひっちの家に到着した。

「結構買っちまったけど、何とかなるよな?」

「どうにかなるだろう」

 ひっちとだーいしが買い物袋を見ながら話をしていた。

「ついにクレープ作りだな。ああ、おれが巨乳のカワイ子ちゃんにモテまくってしまう」

「また始まったよ」

「パターン入ったね」

「捕らぬ狸の皮算用とはこのこと」

 ひっちが妄想の世界に入り込んでしまったので、三人が呆れてしまっていた。


「そろそろ妄想の時間は終わりにして、クレープ作っていこうよ。バナナは切るだけだから、生地とホイップクリームとカスタードクリームは同時進行でいきたいね」

「役割分担というわけだな」

「俺はホイップクリームがいい。カスタードクリームは言い出しっぺなんだからたまさんだろ」

 たまさんが役割分担の話を始めたので、だーいしとかずやんもそれぞれ反応する。

 かずやんの言葉通りの割り振りなら、生地の担当は必然的に絞られるのだが。


「生地はひっちかだーいしだな」

「二人で作ってもいいんじゃないかな?」

「……、いいだろう」

 かずやんとたまさんがだーいしに話を振っていった。

 だーいしはひっちと生地を作っていくことに決まった。



「だーいし、もうさ適当にどーんと材料入れちゃおうよ!」

「それはだめだ。分量をしっかり確認せねば」

 ひっちが余りにも適当に作ろうとするので、だーいしが制止する。

 作り慣れていないメニューを目分量で作るのは失敗のもとだ。

「どした? 悩み事なら話聞こうか?」

「……ひっち、かずやんを手伝ってあげてくれ」

「ほーい」

 だーいしがひっちを露骨にうざがっている。

 そして耐えかねたのか、だーいしがひっちをかずやんの方へと向かわせた。


「かずやん、手伝うことある?」

「こっちは混ぜるだけだからなあ。そうだ、ひっちもやってみるか?」

「わーい」

 ひっちが嬉しそうにホイップクリームを泡立て機で混ぜる。

 のだが、ホイップクリームが周囲に飛び散りまくっている。

「あわあああ、だめだだめだ。後は俺がやるからさ、ひっちはたまさんの手伝いをしてくれよ」

「ほーい」

 かずやんが飛び散ったホイップクリームを慌てて拭いている。

 ひっちはついにかずやんからも邪魔者扱いされてしまった。

 そうなるとたまさんが最後の希望ということになる。


「たまさん、何か手伝うことある?」

「うーん、そうだね」

 だーいしとかずやんの被害を見た後なので、たまさんは先手を打つことにした。

「僕が手順を踏んで作るから、ひっちは見て学んで欲しいな」

「ほーい」

 こうしてたまさんの思惑通り、ひっちが見学という形を取った。

 たまさんの誘導が上手くいったおかげで、ひっちが邪魔するのを阻止したのだ。


「バターを切る、湯せんして溶かす」

「卵は卵黄だけ取り出す」

「卵黄、砂糖、溶かしたバターをフライパンに入れよく混ぜ合わせる」

「小麦粉をふるいにかけ、混ぜ合わせる」

「牛乳を入れ、よく溶かす」

「溶かしたらじっくりと弱火にかける」

「とろみが出たら火を止め、バニラエッセンスを入れる」

「完成、いただきます」

「うーん、なめらかでコクがあるね。美味しいからぜひ、試してみてね!」

 ひっちが流れるように説明を入れ、最後に決め顔をしてみせた。

 ただし、カスタードクリームを作ったのはたまさんだ。


「ひっち何もしてねーじゃねーか! しかもつまみ食いまでしてるし」

「たまさんが全部作ったのに、さぞ自分が作ったかのように言うのだな」

 これにはかずやんとだーいしも苦言を呈さずにいられない。

「こういう奴が将来会社で部下の成果を横取りするんだよな」

「かずやん」

「どうしただーいし?」

「ひっちに部下が出来るとは思えないのだが……」

「それは言ってやるなぁ」

 だーいしの暴言に思わずかずやんがツッコミを入れた。

 ひっちは度々他の人を手伝おうとするも、邪魔者扱いされてしまったので何もできなかった。


 クレープ生地を無事焼き上げたひっち過激団は、それぞれ好みのデコレーションを施していた。

 そして一気に平らげてしまった。

 手間暇をかけた手作りなのだから、そのおいしさは格別だろう。

 結局ひっちはクレープ作成にほぼ関わらなかった。

 むしろ関わらせてもらえなかったと言うのが正しい。

「今度はひっちが女の子に作ってあげなきゃだね」

「作り方どうするんだっけ?」

「「「やっぱしかー」」」

 たまさんがひっちに話を振るも、結局ひっちはクレープ作りをものに出来なかったようだ。

 クレープ作りにまともに関わってなかったのだから当然と言える。


「でも美味しかったよね?」

「「「それはそう」」」

「いやー、スイーツは男女問わず魅了してやまないですなー」

「キレイにまとめてんじゃねーよ!」

 ひっちは何とかして誤魔化そうとしたが、かずやんに激しくツッコまれてしまった。

 果たしてひっちは女の子の前でスイーツを作ることが出来るのか。

 そもそも女の子と二人っきりになることが出来るのか。

 誰も知らない。

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