パティシエひっち(前)
たまには外出しようということで、外の街を練り歩くひっち過激団。
何の変哲もない街並みだが、よくよく見ていると新しい発見があったりするものだ。
「あれ、あんなところにお店なんてあったっけ?」
「確かにそうだな」
ひっちが指さす先を見てだーいしが頷く。
「ふーん、カフェかあ。パフェやってるんだね」
「見たところ普通だけどな」
たまさんとかずやんもそれぞれ反応を示した。
ぱっと見は特別なお店ではない。
だが、ひっちが看板のメニューを見て怒りを爆発させる。
「何だこれは! 〝死ね〟マスカットとはけしからん!」
「〝シャイン〟だよひっち。何でこのお店が敢えて英語表記にしているのか分からないけどね」
どうやらひっちはお店の看板に書いてある〝SHINEマスカット〟という表記が気に入らなかったのだろう。
たまさんの指摘した通りだが、〝シャインマスカット〟の〝シャイン〟を英語表記するのはちょっとよく分からない。
「フフフ、思いついたぞ」
「どうしたんだよ急に」
余りにも唐突にひっちが閃いたらしい。
かずやんが怪訝そうな顔をしている。
「おれたちでスイーツを作ろう」
「唐突過ぎるぞひっち」
「スイーツを制する者はモテを制す! そうすればカワイ子ちゃんたちは意のままだ!」
「パティシエひっち!」
ひっちはどうやらスイーツを作りたいらしい。
だーいしがいち早くそれに反応する。
ひっちが良からぬことを考えている中、だーいしが隣で考えを巡らせていた。
「ひっち」
「どしたん?」
「別にかわいくない子もスイーツは好きだと思うが」
「むむっ」
だーいしの正論に眉をひそめるひっち。
「今度はどうしたのさ、ひっち」
「うちはかわいくない子お断りだよ!」
「何さ、一見さんお断りみたいにさ」
ひっちがうなりながら変なことを言うので、たまさんが冷静に処した。
「たまさん」
「だーいしどしたの?」
「見せかけの博愛主義は良くないな」
「ええっ! そうくるの!」
だーいしが何故かひっちの援護に回ったので、たまさんが困惑している。
「作るって言ってもさ、何作るんだよ?」
話を切り替えるかのようにかずやんが質問をしてきた。
「俺は暗殺者のパスタがいいんだけど、あれはスイーツじゃないからな……」
「出たよかずやんの中二病が……」
「スイーツならザッハトルテかなあ、俺たちじゃ作れないだろうけど」
「はいはい」
かずやんが語感の良さだけでメニューを選んでいるのがたまさんにはよく分かる。
「別に洋菓子にこだわる必要はないのだろう?」
「そうだね」
だーいしとたまさんが和菓子のほうも視野に入れて考え始めた。
「もっと、もっと案をいっぱい出すんだ!」
「ひっち張り切ってるね」
「カワイ子ちゃんに『いっぱい出たね』って言われると、何だかこそばゆい気持ちになるらしいし」
「ひっち、それどこ情報?」
「いとこのにいちゃん!」
「出たよ、いとこのにいちゃん」
「神出鬼没だな」
ひっちの唐突すぎる発言にかずやんとだーいしも困惑を隠せない。
「あとはあんまりお金とか特別な道具を使わないのがいいよね? クレープとかどう?」
「あれ大丈夫なのか?」
「生地を焼くのはフライパンでも大丈夫だし。それにおしゃれな感じがするしひっち的にはいいんじゃない?」
たまさんがクレープを提案した。
ひっちが目を輝かせて聞き入っていた。
思いの外食いつきがいい。
「よっしゃ、それじゃあクレープに決まり! 次は買い物だな」
こうしてひっち過激団のスイーツ作りが着々と進みだした。
「生地は買うものが決まってるけど、トッピングをどうするかだね……」
「青果がここまでするとは思わなかったな……」
クレープ作りのためにスーパーで買い物をするひっち過激団。
トッピングをどうするかで悩んでいた。
「安く済ませるならチョコレートソースにバナナかなあ」
「せっかくだからホイップクリームも欲しいところだな」
たまさんとかずやんが案を出し合っていた。
「あとはカスタードクリームを自作する?」
「たまさんそんなこと出来るのか?」
「ちょっと時間はかかるけど、出来るよ」
たまさんの発言にひっちが驚きながら質問した。
ひっちが再び目を輝かせていた。
「おお、これでカワイ子ちゃんを完全に支配下に置くことが出来るぞ!」
「発言が物騒過ぎるのだがいいのか?」
ひっちが問題発言をしたので、だーいしが心配している。
他の人に聞かれていなければいいのだが。
「まああれだ、買うもん決めちまったんだから買っちまおうぜ」
「そうだね」
ひっちの話を遮るかのように、かずやんとたまさんが話を進めていった。
買い物を終えればあとはクレープを作っていく段階に入る。
どうなってしまうのだろう。
それは神のみぞ知る。
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