追試を突破せよ(後)

「今回確実に押さえておきたいのは四大文明だな」

「その中でどこが一番エッチなの?」

 今度はだーいしが世界史をひっちに教えている。

 相変わらずエロい方向にもっていきたいひっち。

 ひっちの場合始めにエロありきなのだろう。

「イメージの話になるが、春画が多いのはエジプト文明だろうな」

 だーいしが仕方なさそうにひっちの質問に答え始めた。


「後の三つの文明はメソポタミア文明、インダス文明、中国文明だ。ここはテストに出てくるからしっかりと押さえて欲しい」

「ほーい」

 エロい話から逸脱すると途端にやる気をなくしているひっちを見て、だーいしは内心憤慨していた。

「あと、四大文明と切っても切り離せないのは河川だな」

「どして?」

「農作物を育てるのには水が必要だからな。今のような治水技術がない当時だからなおさらだ。エジプト文明はナイル川、メソポタミア文明はチグリス川とユーフラテス川、インダス文明はインダス川、中国文明は黄河といった感じだな。セットで押さえておくといい」

「豊かな水より豊かなたわわがいいんだけど」

相変わらずエロい話がしたいひっち。

やはりおっぱいの話は外せないのだろう。


「そして文明には文字がつきものだ。各文明で生まれた文字もしっかり押さえておいて欲しい。エジプト文明はヒエログリフ、メソポタミア文明は楔形文字、インダス文明はインダス文字、中国文明は漢字だ」

「文字なんてどうでもいい、エッチなのをくれ」

 どうしようもない駄々をこねるひっちと困るだーいし。

 だーいしが無視して続きの話をしようとするも、なかなかうまくいかない。

「あとは人種と進化も押さえておくことだな。アウストラロピテクス、北京原人、ネアンデルタール人、ホモサピエンス」

「これのどこがエッチなの?」

「進化すればするほど裸がエッチになるぞ」

「なーにー!」


(ひっちを軌道に乗せるのは骨が折れる)

 だーいしの説明に興奮を抑えきれないひっち。

 バカ丸出しである。

「ねーねー、だーいし。これでおれ女の子にモテちゃったりするのかな?」

「それはひっち次第だろう」

「カワイ子ちゃんに勉強教えて。それからあんなことや、こんなことも教えて。グフ、グフフフフ」

(その想像力を勉学に活かせぬのだろうか……)

 こうして何とか世界史も教えきることが出来た、と思われる。

 真相は追試の点数に現れることだろう。


「ねーねー、かずやん」

「どうしたんだよ?」

「おれはDTですって英語で何て言うんだ?」

「いきなりすぎるだろ!」

 今度はかずやんがひっちに英語を教えていた。

 やはりHな方向に話を持っていきたいのだろう、ひっちがやらしい感じの質問を投げかけてきた。

(たまさんとだーいしから事前情報は得ていたが、展開がいきなりすぎる)

 警戒していたはずなのだが驚きを隠せないかずやん。

 相手は性の暴走機関車ひっちなのだから仕方がない。


「〝I am a virgin.〟 これだな」

「〝I am a バキバキ virgin.〟」

「それ以上はよせ!」

 ひっちが有名人の話をしようとしたので、かずやんが制止する。

 かずやんがとりあえずひっちに答えを教えているものの、これでは話が進まない。

「今回は完了形の構文がメインとなるからそこを押さえていくぞ」

「それってエロいの?」

「エロいかどうかは知らんが、今回のテストのメインだ」

 かずやんとしては何としてもひっちに追試をパスして欲しいところだ。

 要所を押さえた教えを心掛けているものの、ひっちには今一つ伝わっていない。


「やはり勉強と言うものはセクシーでないと」

「誰に影響されてんだよ!」

 謎発言をするひっちにたまらずツッコミを入れるかずやん。

 何とかして真面目に教えたいが、やはりひっちは難物だ。

 かずやんはめんどくさくなってきたのか、少しやる気をそがれているように見える。


「完了形をマスターすれば自分がやったことがあることを説明できる。つまり」

「つまり」

「S〇〇した回数なんかも言えるということだ」

「うひょー、たまらん」

「〝I have had S〇〇 three times.〟 これで三回したことがあるということだ」

「素晴らしい、これでおれは無敵だ! かずやんも一緒に言おうぜ!」

「何でそうなるんだよ!」

「「〝I have had S〇〇 three times.〟 〝I have had S〇〇 three times.〟!」」


 かずやんの教えを受けてひっちがやたら興奮している。

 ひっちは定期的にエロを摂取しなければ頑張れないのだろうか。

(やっぱこうなっちまうんだな)

 かずやんはひっちをその気にして何とか英語を教えることが出来た。

 後は追試がどうなるかといったところだろう。


 かずやん、だーいし、たまさんが教室の廊下を歩いていると、ひっちの姿が見える。

 心なしか足取りが軽やかだ。

「おーい、みんなー」

「随分元気そうじゃん、ひっち」

 ひっちが慌てて三人のいるところへやって来た。

 それを見たかずやんが何かを感じ取ったようだ。

「おれやったよ! 追試全部合格だったよ!」

 万遍の笑みを見せるひっち。

 どうやら三人の教えが実を結んだようだ。


「良かったな、ひっち」

「一時はどうなるかと思ったが……」

「ひっちを見てこっちも安心したよ」

 かずやん、だーいし、たまさんがそれぞれにひっちへコメントを寄せる。

 心なしか笑顔に生気が感じられない。

「じゃあ、おれクリスたそにも見せてくる!」

 ひっちがテンション最高潮でその場を去っていく。

 ひっちを見送った三人は途端に体がしんどくなったのを感じた。

 もうこんな思いはしたくないという思いと共に。

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