追試を突破せよ(前)

「ああ……」

「どうしたんだよひっち、この世の終わりみたいな顔しやがってさ」

 肩を落としているひっちをかずやんが何とか励まそうとしていた。

「追試なんて嫌だよ~」

 今にもひっちは泣き出しそうな声を上げている。

 どうやらひっちは中間試験で赤点を取ってしまったようだ。

 無理もない話だ。


 そしてひっちが案の定憂鬱な表情を見せていた。

 ひっちがおそるおそる三人にテストの答案用紙を見せる。

 全教科赤点のひっち。

「俺も人のことは言えないかもだけど、よくこんなんで高校生になれたな」

「高校受験で奇跡を起こしたからね、ひっちは」

 かずやんとたまさんがひそひそ話をしていた。

 隣にひっちがいるのにお構いなしだ。


「しかし、それでは問題が発生してしまう……」

 だーいしが顎に手を当てて悩ましげな表情を浮かべる。

 そう、それはミッションの進行が滞ってしまう可能性が大きいことだ。

「ひっちが追試をクリアしないとミッションも満足にこなせない」

 だーいしが淡々と述べているが、かなり重大な問題である。

 再追試などと言う事態になれば、今以上に厳しい事態となることは間違いない。

 何としてもこの状況を打破する必要がある。


「クリスたそが悲しみ、おれを嫌う姿は見とうない」

「すでに軽蔑されてると思うよ」

 ひっちの心配事をたまさんがバッサリ切り捨てる。

「うわーん、たまさん! 助けてよ! 一ヶ月に一度のお願い!」

「軽っ! そういうのってもっと重いものでしょ」

 ひっちの言葉にたまさんが思わずツッコミをかましてしまう。

 かずやんとだーいしも完全に同意しているのか頷いている。

「しょうがないなー。ちょっと考えるからさ、ひっちはちょっと外してもらっていいかな?」

「分かった」

 そしてひっち抜きで緊急対策会議が始まるのであった。



「んでさ、たまさんさー。どうするよ?」

「ひっちが追試をパスできなければ僕たちに未来はない……」

「そりゃ大げさ……、でもねえんだよなぁ」

 かずやんもたまらず肩を落としてしまう。

「ひっちに勉強を教えるしかないということだな……」

 だーいしが苦虫を嚙み潰したような表情を見せる。

 あからさまに拒絶反応を起こしているのが分かる。


「そうなるね。理系科目は僕、文系科目はだーいし中心、かずやんは英語ね」

 ひっちに教える科目をたまさんが割り振っていく。

「俺よりお前らの方が英語の成績いいだろ!」

「かずやん、我々の負担を考えて欲しいな」

「分かったよ! にしても、だーいし目がマジじゃねえか!」

 かずやんが反論しようとするも、だーいしに即拒絶されてしまう。

 かずやんを射抜くようなだーいしの視線が怖い。

「それにしても、我々は高校受験の惨劇を繰り返すこととなるのか……」

「それ以上いうのはよそうぜ、だーいし」

「僕たちに逃亡は許されない……」

 三人はこうして覚悟を決めてひっちの追試対策に臨むこととなった。

 そして、三人の嫌な予感は大方予想通りとなるのであった。



「何でこんな垂れたパイオツみたいなの相手にせにゃあならんのだ!」

「二次関数だよひっち」

 とんでもない方向からいちゃもんをつけてくるひっちに呆れるたまさん。

 たまさんも数学を教えようとしているだけなのに、どうして下ネタで返されてしまうのかと言いたくなる。

 いきなりシモに走るひっちを見て、これから先が思いやられるというものだ。

「ねーねーたまさん、おれ美巨乳がいいんだけど」

 下ネタにとことん走るひっち。

 ここまでくるとどうしようもない。


「y=a(x+b)²+cのaの値が1より小さい分数だとそれらしくなるかもだね」

「うひょー、興奮してきた」

(やっぱ馬鹿だわこいつ)

 たまさんが少しでもひっちに興味を持ってもらうために、少し譲歩している。

 内心ではひっちをバカにしまくっているたまさんだが、ひっちはそんな思いを抱くたまさんのことなどお構いなしだ。

「あーあ、もう分かったよ」

 たまさんがひっちに合わせた指導を行うことに決めた。

 当人としては到底腑に落ちない話だろう。


「それでこのパイオツの原点、もといビーチクの座標とどっちにとつかを求める問題だね」

「どっちに凸って?」

「上に凸か下に凸かを答える問題で、仰向けパイオツが上、四つん這いパイオツが下ってこと」

「おおー、分かった」

(教えてるこっちがおかしくなっちゃいそう)

 ひっちが目を輝かせながら勉強に勤しんでいる。

 普段からこれくらいやっていれば追試などしなくていいのではなかろうか。


「ひっち、これだけは言っとくけどみんなの前でこんな答え方絶対にしないでよ!」

「どして?」

「いろいろと困っちゃうでしょ!」

 たまさんが当たり前の忠告をひっちにした。

 きちんと忠告していなければ思わずポロリと口にするかもしれない。

 ひっちならやりかねないのだ。


「そういえば気になったんだけど、たまさんは文理選択って理系?」

「うん、そのつもりだよ。ひっちは?」

「おれ文系がいい。そっちの方が女の子多いでしょ」

(言うと思った)

 ひっちの余りにも打算的すぎる進路選択を耳にし、たまさんが呆れ返っている。

 ひっちの欲望はやはり底なし沼だ。

「全く、全国のカワイ子ちゃんを苦しめている数学と言うものは到底許しがたいな!」

「偏見が過ぎるよひっち……」

 ひっちの余りにもあんまりな発言にたまさんが苦言を呈していた。

 これで本当に追試がパス出来るのか心配だ。

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