荒丘城攻城戦

 明け方、招集されたひっち過激団の周りには武士がぞろぞろと集まっていた。

 鎧同士が触れる音と出陣前のピリピリした独特の雰囲気に包まれている。

「ついに、我々は出陣の時を迎えるのだ!」

「朝っぱらからしんどいなー」

 やる気満々のだーいしに対してひっちは全くやる気がない。

「ひっち、我々は今から戦地に赴くのだぞ!」

「そこってカワイ子ちゃんいるの?」

「まずいないだろうな」

「やっぱしー」

 だーいしの言葉を聞いて、なおのことやる気をなくすひっち。

 ひっちなら致し方なしといったところだろう。


「そなたたち、皆来てくれたか」

 又兵衛がひっち過激団のそばにやって来た。

 その鎧姿は他の武士たちと比べても安心感がある。

「ああ、部活の練習試合でもこんな朝早くってないぞ」

「確かにねー」

 かずやんとたまさんが伸びをしながら話をしていた。

「戦と部活の練習試合を一緒にして欲しくないな」

 突然だーいしが水を差すような言葉をかけてきた。

 煙たそうな顔でかずやんとたまさんがだーいしを見つめていた。


「又兵衛、おれたちどうすればいいんだ」

「そなたたちは我々の陣で共に行動してもらう」

 たぎっているだーいしをよそにひっちが又兵衛に質問していた。

「本陣じゃなくてよかったぜ」

「全くだね」

「そーだそーだ」

 又兵衛の陣にいると聞いて安心する三人。

 だーいしは興奮しきっていてどうでもいいようだ。


「我々は先陣だ。突破口を開く役を求められるだろう」

「むおおおおん、燃えてきたではないか!」

 だーいしが一人勝手に燃え上がっている。

 いろいろと先走りそうで心配だ。

「殿がそろそろいらっしゃる時間だ。出陣となれば皆は我が騎馬隊の馬に相乗りして移動となる。くれぐれも気をつけるのだぞ」

「「「「はーい」」」」

 ひっち過激団は又兵衛の言葉に素直に従った。

 ついにひっち過激団は戦地へ赴くことになる。



「あれがこの度攻め落とす赤松軍の荒丘城あらおかじょうだ」

 又兵衛の指さす先を見ると、小高い丘の上に築かれている城が見える。

 木柵と石垣で城を覆われており、防御面はそれなりに固められている。

 そして、それよりも目立つのが城の四方を囲むように配置されている櫓だろう。

 弓矢を降らせてくることが予想される。

「城に突入するっていっても、あの櫓をどうにかしないとな」

「あそこで狙い撃ちにされたら兵の消耗が増える一方だし」

 かずやんとたまさんが城を見て色々話をしていた。


「ねーねー、又兵衛?」

「どうした?」

「この城を落としたら褒美にカワイ子ちゃん出ないかな?」

「そなたそればかりだな……」

 欲望ダダ漏れのひっちに又兵衛がドン引きしている。

 無理もない話だ。

「むおおおおん、もう我慢ならん。突撃、突撃だああああっ!」

「知略を巡らせて戦うのも戦の醍醐味だと思うんだけど……」

「おおっとそうだった。たまさんすまない」

「先が思いやられるよ……」

 だーいしが先走って突撃しようとしたので、たまさんが気付きを与えることで阻止した。

 今のだーいしをほっとくとロクなことにならないのは明白だ。


「それにしても、どう攻略するかだな……。援軍が来る可能性もあるからな、あまり時間はかけられない」

 又兵衛とひっち過激団が首をかしげて考えていたその時だった。

「そうだな、先に弓矢などで牽制を仕掛け、それから突撃を行う。波状攻撃が有効だろうか……」

 又兵衛が一つ攻撃案を提示した。

「射撃、突撃、射撃、突撃のローションだー!」

「ローテーションだよひっち」

「ぬるぬるをぬるぬるしてぬるぬるするわけだな」

「だーいしも合わせなくていいよ!」

 ひっちとだーいし二人のツッコミをしなくてはならなかったので、たまさんが忙しそうにしている。


 話がまとまりきらない内に本陣から伝令がやって来た。

「殿より伝令です。今すぐに突撃し敵城の守りを突破しろとのことです」

 和朝が大した理由もなく攻撃を急かしている。

「っったく、何だよあいつは!」

「こうなると攻撃一択だな」

 かずやんとだーいしが伝令を聞いて思い思いの感想を語った。

「櫓は壊さないと城への突入は難しいのではないですか?」

「分かった、櫓の破壊を許可する。そうでなければ兵の犠牲が増えるだけだな」

 たまさんの意見を汲みつつ、又兵衛が攻撃に向けて動き出す。


「本陣に攻撃することを伝えてくれ」

「ははっ」

 伝令が早々に本陣へ帰っていった。

「さて、櫓を破壊するわけだが、門の両側に配置されている櫓を破壊して欲しい」

「めんどくさい、まとめてふっとばしたいなぁ」

 ひっちが又兵衛の指示に嫌そうな顔をしている。

「城を壊したら建て直すのに時間と労力がかかるから、そうはいかないんだよひっち」

「つまんないの」

 たまさんがひっちを諭すも、ひっちは今一つ納得いかないらしい。


「よし、これから門の両側の櫓を破壊し、城内に突撃をかける!」

「おー!」

 又兵衛が軍に指令を下し、作戦を開始した。

「ひっち砲撃ちたいなー」

「ひっちは通常射撃で我慢してね。スパイラルショット!」

 ひっちとたまさんが射撃によって櫓を破壊していった。

「これで櫓からの弓矢は心配しなくて良くなったな。これより攻め込む! 弓兵は後ろから城の弓兵を牽制してくれ!」

 又兵衛が指令を下し、陣を突撃させた。

 勢いに任せて一気に攻め込む。


「今度は俺たちの出番ってわけだな」

「そうなるな」

 かずやんとだーいしも先陣についていく。

「俺の一撃が先陣突入の狼煙だ!」

 かずやんが敵兵をセイントサイズで薙ぎ払う。

 豪快に切り捨てていくその様は相手を戦慄させるのに十分だ。

「寄らば斬る! はあああっ!」

 だーいしも敵兵をセイントサーベルの一振りで切り伏せる。


 周囲の足音が次第に大きくなってくるのが感じられた。

 鈴木軍の他の兵も合流し、次々と城内に突入していく。

 赤松軍の兵は戦意を削がれたのか、城内に後退していった。

 おそらく援軍を期待して場内で粘る作戦に出たのだろう。

 確かに城内の通路は狭く、大勢で駆け込みにくいことは間違いない。

 赤松軍の槍兵が通路をふさぎ、鈴木軍を押しとどめている。


「なあだーいし、城を壊さずに手に入れればいいんだよな?」

「そうだ」

「少々城が痛んでても文句ねーよな?」

「どうするのだ?」

「無理くりにでも突破するぞ! デス・スラッシュ!」

 かずやんが放った斬波が槍兵を切り裂いていく。

 こうして徐々に前進し始めた鈴木軍はついに城内を制圧し、敵将を打ち取ることに成功した。


「戦とは気持ちのいいものだなぁ、アハ、アハアハアハ」

「だーいしが完全にイッちまったぞ」

 だーいしの狂気交じりの興奮が冷めやらぬ前に、クリスの声が聞こえてきた。

「皆さんお疲れ様です。無事ミッションを達成できたのですね」

「ああ、やっとこさだ。もう帰りたいぜ」

「分かりました、すぐに転送しますね」

 かずやんが思わず本音をポロリした。

 ミッションを終えたひっち過激団は転送され、元の時間と場所に戻っていった。

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