戦国の世界

「さて、続きましてのミッションはと」

「おうおう容赦がねえなあ」

 ひっち過激団を酷使する気満々のクリスにかずやんがくぎを刺す。

 久々にミッションをこなしたこともあり、流石のひっち過激団もまだ疲れが取れきっていない。


「ああ……」

「どうしたんだ、クリスたそ?」

「生理がこないの」

「のわああああにいいいいい?」

 クリスの爆弾発言にひっちが驚愕している。

「あなたアンドロイドですよ」

 たまさんが冷静にツッコミを入れる。

 

 あからさまな嘘であることは分かっているものの、かずやん、だーいし、たまさんがひっちに視線を向ける。

 えっ、おれなのと言わんばかりの表情をひっちが見せている。

「おれとクリスたその子! あああー、総理大臣になってしまうー!」

「何でそこポジティブなのさ!」

 ひっちのリアクションが意味不明だったので、たまさんが我慢できずにツッコミを言い放った。

「み、みんな。総裁選、総裁選だー!」

「そもそも被選挙権がないぞひっち」

「いやそれより何で生まれること前提で話してるんだよ!」

 慌てふためくひっちにだーいし、かずやんがそれぞれツッコミを入れる。


「い、いかん冷静にならねば。そうだ、クリスたそ。ミッションに行ってくるよ」

「致し方無し」

 ひっちがミッションに行くことを勝手に決めてしまったが、だーいしがそれを否定することはなかった。

「それではこの『戦国の世界』のミッション攻略をお願いします。緊急度2、重要度3、難易度3となっています」

「戦国だと! 行こう! 今すぐ行こう!」

 急にハイテンションになるだーいしにかずやんとたまさんが若干引いてしまった。

 そして三人は半ば無理やりだーいしに連れていかれる形で『戦国の世界』へと向かった。



「いい、いいぞ! とてもいい! おお、あれは城ではないか!」

 だーいしがやたらめったら喜んで周囲を見渡している。

 正直三人はついていけていない。

 まさしく戦国時代のような雰囲気で、だーいしのテンションがおかしいことになっている。

「一番はしゃがなさそうなだーいしが……」

「好きなものにはとことんのめりこむからね、だーいしって」

「たまさんが言うとおまいうなんだよな」

 だーいしの後ろでかずやんとたまさんがひそひそ話をしていた。


「おおっ、鎧を身にまとった武士たちがこちらにやって来るではないか! 何という壮観! 何という雄姿!」

 だーいしのテンションが最高潮に達している中、他の三人は置いてけぼりだ。

「だーいしどうしちゃったの?」

「いつぞやのひっちみたいに自分の世界に入ってるの」

 だーいしを見て不思議がるひっちにたまさんが皮肉交じりに説明した。

 そうこうしているうちに、武士の一行がひっち過激団に近づいてくる。

 その中で一番偉そうな男がやって来た。

 殿様なのだろう。

 顔つきからして意地が悪そうだ。


「余は鈴木和朝すずきかずとも、この三葉城みつばじょうの城主である」

 殿様、鈴木和朝はとても偉そうな態度で話しかけてきた。

 いかにもという感じである。

「こやつらがクリスとやらが言っていた者どもか」

「ははっ」

「戦う顔をしておらぬではないか!」

 和朝が家臣に確認するなりキレ散らかしていた。

 一方的に言われっぱなしのひっち過激団は萎えに萎えてしまっている。

 浮かれているだーいしを除いて。


「親の顔が見てみたいわい!」

 和朝がひっち過激団を切り捨てるような言葉を投げつけた。

 はっきり言って和朝の第一印象は最悪である。

「戦があるから来い!」

 そう言って、和朝は三葉城へと帰っていった。

 ひっち過激団はあまりの気分の悪さに言葉が出なかった。 

 だーいしを除いて。

 何故だかだーいしだけは楽しそうな表情を浮かべていた。


「なあたまさん、なんでだーいしはあんなに楽しそうにしてるんだよ」

「戦国時代のような雰囲気が好きなんだろうけど、あれは異常だよ」

 だーいしに聞こえないようにひそひそ話をするかずやんとたまさん。

「おれ帰るわ……」

 肩を落とし、一人帰ろうとするひっちをかずやんとたまさんが何とかして止めようとしていた。

 その時だった。

「そなたたちか」

「ん? 誰?」

「我が名は小笠原又兵衛おがさわらまたべえ、殿の家臣だ」

 目の前に現れた小笠原又兵衛は、和朝の家臣に似つかわしくないくらいに誠実そうな顔つきをしている。

 第一印象だけで和朝より何億倍も信頼できる相手だと言えるだろう。


「先ほどは失礼した。殿の戦にご助力願いたい」

「ってもなー」

 はっきり言ってかずやんは乗り気でない。

 あんな奴のために戦わなければならないのかという気持ちが強いからだ。

 ひっちとたまさんもおおよそ同意見だろう。

「ほう、それはどういった戦で?」

 急にだーいしが割って入ってきた。

 戦と聞いて飛んできたのだろう。


「城攻めを行う。行うのだが……」

「どうしたのですか?」

「残念ながら、満足に兵がおらぬ状況なのだ……」

「戦力比ってどれくらいなんですか?」

 たまさんが又兵衛に戦力比がどのくらいか質問した。

 はっきり言って、戦力が整っていなければ進攻を防がれてしまうのがオチだ。

 そうなると無駄に消耗するだけとなってしまう。


「こちらの見立てでは1対1といったところだろう……」

「攻城戦なのに戦力比1対1だと……」

「確かセオリーから言うと圧倒的に少ないよね」

 攻撃三倍の法則という考え方があるくらいで、この『戦国の世界』のような遠距離攻撃が出来る武装に乏しそうな世界ならばなおのこと戦力に余裕が欲しいところだ。

「フハハハハハ、燃えてきたではないか!」

「さっきからずっとそんなんだけど、だーいし大丈夫?」

 だーいしが余りにもあんまりなので、たまさんに呆れられてしまう。


「そなた達の力が頼りなのだ」

 又兵衛がひっち過激団に助力を懇願している。

 傍から見たらちょっとかわいそうに見えてくる。

「カワイ子ちゃんをくれ」

「……」

「同情するならカワイ子ちゃんをくれぇー!」

 ひっちが又兵衛に対して突然要求し始めた。

 初対面の相手に言う言葉ではない。

「アテンド要求ひっち!」

 だーいしが一瞬だけ我に返ったような感じで叫ぶ。

「それは無理だ。娘は幼いし、姉妹は皆嫁いだ」

「又兵衛さん、真面目に答えなくて大丈夫ですよ」

 すごく真面目に返答する又兵衛をたまさんが諭す。


「ひっち砲で城ごとぶっ壊しちまえば楽勝なんだろうけどなー」

「かずやん、それはダメだ! 城は拠点にするのだから」

 かずやんの意見をだーいしが全力で否定してきた。

「なあ、たまさん」

「どしたのかずやん?」

「今日のだーいしすげームカつかねえか?」

「この世界のこと聞いてからずっとおかしいからね……」

 かずやんもよほど我慢できなくなったのだろう。

 思わずたまさんに愚痴をこぼしている。

 先が思いやられるまま、ひっち過激団は攻城戦に臨むこととなった。

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