ほへーだなんて言ってられない

 ひっち過激団が固唾を飲んで見守っていた、その時だった。

 ひっち過激団の目の前には、どう見てもテレビのバラエティのセットにしか見えない装置が現れた。

 司会席には機械仕掛けのメガネの進行役と髪が薄い進行役が二人して並んでいる。

「これじゃ。名付けて『ホヘビアの泉』」

 一条博士が嬉しそうに説明している。

「これってどう見てもバラエティのセッ……」

「せっかくだから見ていこうぜ」

 たまさんがツッコミを入れたくて仕方なさそうにしているが、かずやんが引き止める。


「そうじゃ、あんたここに立ってくれんか。他のもんは席に座ってくれ」

「え、僕ですか?」

 一条博士に言われてたまさんがステージに立ち、他の三人は座席に座る。

 座席の前にはボタンがついている。

 これから何をするかは何となくだが想像がついてしまう。

「オッケーじゃ。マミィや、起動しとくれ」

「はい、博士」

 マミィが『ホヘビアの泉』を起動させた。


「続きましては、こちらのホヘビアです」

 メガネの進行役が突然しゃべり始めた。

「たまさんは…………、ムッツリスケベ」

 続いて天の声がホヘビアを発表し始めた。

 誰かがボタンを押しているのだろう。『ほへー』という音声が部屋中に響き渡る。

「こんなん今更だろ。なあひっち? っておい、ずっとほへーボタン押してたのかよ! そんでもってどうしてメガネかけて小太りになってんだよ!」

 かずやんの隣にいたひっちは何故か小太りのメガネ姿に変貌していた。

 一人20ほへーが持ち点の中ですでに10ほへーを献上している。


「ど、どうかしちまってるぜ、なあだーいし。ってだーいしは何でグラサンにオールバックなんだよ!」

 だーいしはだーいしでグラサンオールバックの姿に変わり、ホヘビアを吟味していた。

 どうしょうもないくらい下らない話なのに、サングラス越しの眼差しは真剣そのものだ。

 そして納得の0ほへーだ。

 一方、傍から聞いているたまさんは怒りに体を震わせている。

 コケにされている感覚なのだろう。

 当然の反応だ。


「ちなみにこちらのムッツリスケベな性格ですが、生まれ持った性分で今後も変わることがないだろうとされています」

 メガネの進行役が追加情報を話し始めた。

 ひっちが3ほへーを押し、だーいしが1ほへーを押した。

 いまいちついて行けてないかずやんはボタンを押していない。

「このままこじらせると、将来が心配ですね。彼は一体どうなってしまうのでしょうか」

「ふーぞくおじさんでしょうね……」

 メガネの進行役が提示した疑問に髪が薄い進行役がさらりと答える。

 これを聞いてひっちがさらに2ほへーを押した。

「ちなみに私は、バッチリスケベです!」

 髪が薄い進行役が堂々と宣言した。

 こうして、『たまさんは…………、ムッツリスケベ』というホヘビアは合計16ほへーで終わった。


 たまさんは自身のホヘビアが終わると即座に、ひっちの席の前に行った。

「ひっち、チェンジ」

 静かなるその声には怒りの思いが多分に含まれている。

 ひっちはたまさんからそれを感じたのか、すぐに立場を交代した。

「次はおれかぁ、どんな風になっちゃうんだろ?」

 たまさんのことはさておき、ひっちはワクワク半分ドキドキ半分で登壇している。

「続きましては、こちらのホヘビアです」


「ひっちがスケベになったのは……胎児のときから」

 一瞬審査員席が固まったが、ほへーボタンが次々と押され始めた。

「そうだったのかよ!」

「これは知らなかったなー」

 これにはかずやんとたまさんも驚きを隠せずにいた。

「何なんですか! この無駄な発明は!」

 我に返ったたまさんが突然叫んでしまった。

「バカ者! 無駄を楽しむということが人生を楽しむ秘訣なのじゃ!」

 たまさんはツッコミを入れたつもりだったが、逆に一条博士に怒られてしまった。

 無駄に怒られた気分になっているのか、たまさんが意気消沈している。


「あれ、ほへーはどしたの? ほへーは?」

「もう終わりだぞひっち」

 一方ひっちは『ホヘビアの泉』を満喫していた。

 だーいしが諭すようにツッコミを入れる。

「本題の、ミッションの話が聞きたいのです」

「せっかちは嫌われるぞ。全く」

 ミッションの話を促すたまさんに一条博士が皮肉を言った。


「この世界はドクター・ハーキンという悪の科学者によって狙われておる。奴の野望を阻止しなければならんのだ」

「俗に言うマッドサイエンティストって奴か? 中二感があって嫌いではないぜ」

「そういう問題じゃないよかずやん」

 かずやんが微妙に親近感を持とうとしていたので、たまさんが一言添えた。

「頭がいいだけのクズはおれの敵だ」

「そういう問題じゃないぞひっち」

 今度はひっちが頭空っぽな発言をしていたので、だーいしが一言添えた。

 何とも緊張感の無い時間が続いていた。

 そんな時だった。

 研究所内をアラートの音が駆け巡る。


「大変です。この近辺に機械兵士の襲撃が見られます」

「来おったか」

 一条博士の表情が一瞬にして険しくなった。

「あんたらがこの世界の希望だ、これはつまらんものだが使ってくれ」

一条博士が研究所の壁に触れると壁がスライドして開き始めた。

中にはバーニアとスラスターがついた空中移動用スーツとヘルメットがあった。

「こいつはこのヘルメットで脳波コントロール出来る。思いのまま動かせるぞ」

 一条博士がひっち過激団に空中移動用スーツとヘルメットを手渡す。

 そのハイテクっぷりにひっち過激団は驚きを隠せない。


「マジかよ! こりゃすげえ!」

 ひっちが大喜びで空中移動用スーツとヘルメットを手に取り眺めていた。

「パワードスーツみたいな感じで装着するのかと思ったけど、どちらかと言うとフルハーネスみたいな着け方だね」

「たまさん知ってるのか?」

「フルハーネスは父さんの知り合いに着けさせてもらったことがあるよ」

「ふーん」

「だーいし興味ないでしょ」

 たまさんとだーいしがお互いにブツブツ言いながら装着をしていた。


 そして、空中移動用スーツとヘルメットを装着したひっち過激団はすぐに迎撃へと向かう。

「皆さん、こちらのカタパルトから発進して下さい」

 マミィが案内する先にカタパルトが存在していた。

「よし、ひっち過激団出撃するぞ!」

「「「おー!」」」

 ひっち過激団は躊躇ちゅうちょなくカタパルトに立ち、外へと発進していく。

「ひっち出るぞ!」

「そんじゃ、行くぜ!」

「出撃する!」

「行きます!」

 ひっち、かずやん、だーいし、たまさんが思い思いにカタパルトから発進していった。


 出撃のGを感じながらひっち過激団は飛び立つ。

 外には機械兵士が複数機飛行しながら、周辺で銃を乱射していた。

 そのメタリックなボディからは無慈悲さを感じさせる。

 そして明らかな破壊活動を行っている。

「むむっ、何だあいつらは! 街も基地も壊されるわけにはいかない! みんな、あいつらを倒すぞ!」

「「「オー!」」」

 ひっち過激団がいつものようにフォーメーションを組み始めた。

 かずやんとだーいしが前衛、ひっちとたまさんが後衛のポジションを取る。


 機械兵士がひっち過激団目掛けて銃を斉射し始めていた。

「おお、やってきやがったな」

 かずやんが銃撃を回避している、まだ余裕が感じられる。

「ひとまず散開するぞ」

 ひっちが指示を出し、ひっち過激団は散開する。

 機械兵士が接近するかずやんとだーいしに狙いを定めてきた。

「今だねひっち」

「ああ、この隙に奴らを叩くぞ!」

「スパイラルショット!」

 たまさんとひっちが射撃で攻撃を仕掛ける。

 セイントキャノンとセイントガンの銃撃が機械兵士を撃ち貫く。

 数機の機械兵士を撃破することに成功した。


「ひっちとたまさんがやってくれてるみたいだな」

「今度はこっちの番ってことだな」

 だーいしとかずやんも機械兵士に接近し、畳みかけることにした。

「そらよっ!」

「紫電一閃!」

 かすやんとだーいしが機械兵士を胴から真っ二つにしてしまった。

「これでケリがついたかな、ん?」

 ひっち過激団の視線の先には、研究所に向かって突っ込んでいく機械兵士の姿があった。


「もしかして……」

「特攻してくるつもりか!」

 これにはたまさんとだーいしも焦りを隠せない。

 たまさんが慌ててセイントガンを撃つも、今一つ照準が定まらない。

「頼む、当たってくれ!」

 ひっちも何とかして機械兵士に狙いを定め、セイントキャノンを放つ。

 奇跡的なことに、放った一発が機械兵士の上半身を撃ち抜き、爆散させた。

 間一髪で研究所は守られたのだった。


「な、何とかなったな」

「すごいやひっち!」

「大金星だ」

 かずやんは胸を撫でおろし、たまさんとだーいしはひっちを称賛した。

「皆さん、お疲れ様です。無事ミッションを終えたようですね」

「おお、クリスたそ」

「それでは皆さんを転送しますね」

 こうして『ハイテクな世界』でのミッションを無事終えることが出来た。

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