モテしぐさを語るひっち

「モテる男とは、何ぞや!」

「また始まったぞ」

 ひっちが唐突に話を進めだした。

 かずやんがいつものひっちに呆れのリアクションを見せる。

「そんな顔するなよかずやん、モテってのは永遠のテーマだろ?」

「そうなんだけど、ひっちはしょっちゅう言ってんじゃん」

「我々からすると、ひっちはモテるということに重きを置きすぎているのだ」

 かずやんだけでなく、だーいしにまで言われる始末である。


「そこでおれは考えた」

「結局モテ議論始めちゃうんだね」

 たまさんにツッコミを入れられるも、ひっちは全く意に介していない。

「今日のテーマはモテしぐさについてだ! そう、女の子に人気のアレだ!」

 ひっちは堂々とテーマを宣言する。

「へー、何なんだよ?」

「『壁ドン』と『顎クイ』だ!」

「ハードル高くないか?」

 ひっちが選んだのは、まさかの『壁ドン』と『顎クイ』であった。

 これにはかずやんもびっくり仰天だ。


「だが、これをクリアした先には巨乳のカワイ子ちゃんとあんなことやこんなことが……、ムフフ、ムフフフ」

 ひっちは一人やらしい想像を膨らませて悦に浸っている。

 そんなひっちを見て三人は嫌な予感しかしない。

「そんなに言うならさ、ひっちが試しに見せてくれよ」

「おおっ、任せてくれ」

 ひっちが自信満々の様子で実演を始めた。

 やはり嫌な予感しかしない。


「まずは『壁ドン』な。たまさん、女の子役やってくれ」

「う、うん」

「そんでもって壁際に来てくれ」

 ひっちが想定しているシチュエーションを再現するべく指示を出す。

 そんな中、指示を聞いているたまさんが謎の緊張感に襲われている。

 無理もない、これからひっち相手とはいえ『壁ドン』されるのだから。

 しかし、ひっちはたまさんに対面するのではなく、たまさんの真横についた。

「ねえねえ、今日は何にしたん? おっ、麻婆丼だね」

「俺は親子丼なんだけどさ、これかなり親子丼じゃね? めっちゃ親子丼じゃね?」

「ん?」

 ひっちが謎の絡みを仕掛けてきたので、たまさんがかなり困惑している。

 隣で見ているかずやんとだーいしもポカンとした顔をしている。


「んーと、よく分かんなかったんだが……」

「じゃあ次は『顎クイ』やるわ。たまさん、引き続きよろしく」

「え、僕なの?」

「おれとたまさんの仲じゃないか」

「はいはい、痛くしないでね」

 たまさんの表情から、嫌な予感を振り払おうとしているのが見てとれる。

 たまさんの『痛くしないでね』という返しもどうかと思うが。


「じゃあやるぞ。たまさん仰向けで横になってくれ」

「な、何じゃそりゃあああっ!」

 ひっちの指示にたまさんが驚愕の表情を見せる。

「ほら、痛くしないからお股を開いてごらん」

「何するのさ、ひっち!」

 たまさんに股を開かせてから、ひっちがたまさんのまた目掛けて顎を突き立て始めた。

「顎いっちゃうからね、顎いっちゃうからね!」

「ストーーーーップ! 何だよこれ!」

「『顎クイ』だけど」

 慌てて止めに入るかずやんに、ひっちがあっけらかんとした態度で答える。


「ひっちがさっきやってた『壁ドン』も違うけど、この『顎クイ』は完全にアウト!」

「世間とのイメージがかけ離れ過ぎている」

 かなりハラハラしながら意見しているかずやんに対して、何故かだーいしが冷静な態度を取り続けている。

「壁際で男女が丼を食べるのが『壁丼かべどん』、顎で女性をまさぐるのが『顎杭あごくい』じゃないの? ってことはおれのって違うの?」

「そういうこと」

「おれに教えてくれる?」

「ああ、いいぜ。ひっちが相手役やってくれよ」


 そして、かずやんがひっちに『壁ドン』と『顎クイ』を教えることとなった。

「まず、『壁ドン』はこうだ。」

 かずやんがひっちに本当の『壁ドン』を実践した。

「こうやって、顔のそばの壁に手を当てるんだ」

 何故かひっちがときめいている。

「んで、『顎クイ』はこうだな」

 続けてかずやんがひっちに本当の『顎クイ』を実践した。

「顎を優しくクイって持ち上げるんだ」

 何故かひっちがときめいている。

「いやーん、もうかずやんったら」

「やめろ! きめーんだよ!」

 体をくねらせるひっちを見てかずやんが思わず毒づく。


「『壁丼』と『顎杭』とは、ひっちも考えたものだな」

「全く知性を感じられないんだけど」

 だーいしが意味不明に感心しているが、たまさんには理解が出来なかった。

 本当にひっちはモテへの追求を行っているのだろうか。

 そう思っているのはもはや本人だけなのかもしれない。

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