嗚呼、それはブルーカラー故に

「うーん」

「かずやんやっぱり引っかかるの?」

「俺たちで本当に大丈夫なのか?」

 レイドから組合員募集の話を受けたものの、かずやんはやはり迷いを隠しきれていない。


「そうだよな、急にうんたらかんたら言われても分かんねーよな」

「ひっちは始めから理解する気ないでしょ!」

 たまさんがひっちについつい一言言ってしまう。

 ひっちのやる気のない態度を見ていると、そう言ってしまうのも無理もない話だ。

「ええい、しゃあねえ! 行ってやるか!」

 かずやんが最初に着いた宿舎のドアをノックする。


「うーい」

 ドアを開くと、酔っぱらった労働者たちが出迎えてきた。

 宿舎の中がとにかく酒臭い。

「すみません、僕たちは皆さまに労働組合に加入していただきたくお話に参りました」

 たまさんが腰を低くして話を切り出した。

「んだよそれは!」

 たまさんの話がよく分かっていないのか、労働者たちは喧嘩腰だ。


「その労働組合ってのに入ったら、俺たちに何があるってんだよ? ああん?」

「労働組合は、労働環境の改善を使用者側に要求するための組織です」

「そうそう、あるだろ仕事の不満」

 たまさんとかずやんが労働者たちをなだめている。

「それで俺たちに何かいいことでもあるってのか?」

「労働組合に入ったらレイドが女の子を紹介してくれるらしいぞ!」

 荒ぶる労働者たちに対して、ひっちがここぞとばかりに大嘘をかましている。

 ここまでいくと詐欺ではないだろうか。


「何だと!」

「あのいなかっぺ、いつの間にそんな女と繋がり持ってたんだ?」

「おなご、おなごがいるなら入るぞ~!」

 女性と聞いて荒ぶる労働者たち。

「男ばっかで出会いのない職場だから、女性の話が刺さるんだな」

「ブルーカラーの弱点だよね、うん」

 かずやんとたまさんが正直納得したようなやり取りをしていた。

 そこは近代でも現代でも変わらない部分なのだろう。

 こうしてひっちの大嘘による快進撃が行く先々で決まり、労働者たちを次々と労働組合に加入させることに成功したのであった。


「それでひっちたちは嘘でごまかしてみんなを労働組合に加入させたってのかい?」

「す、すみません」

 たまさんが正直にレイドに報告したところ、レイドは物悲しい表情をしていた。

 無理もない話だ。

「正直、もっと真剣に取り組んで欲しかった」

「いいじゃんレイド、みんな入ってくれたぞ」

 ひっちはあくまで成果をアピールしている。

 嘘で得た成果を堂々とアピールしている時点でどうかと思うが。


「それでも嘘はだめだぞひっち」

「原作者の意向を無視して改変する脚本家とどっちがダメ?」

「どっちもダメ! 何と言うか、比較対象が色々とおかしいぞひっち」

 ひっちをだーいしがたしなめるが、ひっちがあまりにも無茶苦茶な話をしてきたので戸惑いを隠しきれない。


「そうか、おなごかぁ」

「レイド、もしやあてがあるのか?」

 悩む表情を見せるレイドに、だーいしが問いかける。

 するとレイドが一枚の写真を取り出し、だーいしに見せる。

「レイド、これは?」

「おらの妹だ」

 写真にはレイドと、レイドそっくりの女性が映っていた。

 彼女こそがレイドの妹なのだろう。

 髪型以外は彼そっくりなので、見たまんまである。


「流石兄妹ですね」

「そっくりだな、隠さなくても分かっちまうくらいに」

 たまさんとかずやんがレイドの写真を見て感想を言い合っている。

「んー、不細工じゃね?」

 さらにその隣でひっちがクズ男ムーブをかましていた。

 労働組合の話も真面目にしない、妹を不細工呼ばわり、レイドは正直怒っていい。

「うう、妹よ。お兄ちゃんを許してくれ」

 ひっちに言い返せないでいるレイドが空を仰いで懺悔ざんげした。


「そういえば、そろそろ他の班長たちが集まってくる時間なのではないか?」

 だーいしがみんなに注意を促した。

 そうしているうちに、宿舎の方に足音が近づいて来る。

「よお、レイド! 来てやったぜ!」

 現場の班長たちが宿舎にずらずらとやって来た。

「女の子を紹介してくれるんだったな」

「約束通り頼むぜー」

 女の話に釣られた野郎どもが鼻息を荒くしている。


「や、やばいよー」

「もはや誤魔化しようがないな」

 たまさんとだーいしがひそひそ話をしていた。

「おらが紹介できるのは、この子だ」

 レイドが意を決して、妹の写真を労働者たちに見せた。


「レ、レイドてめー!」

 ひっち過激団は固唾を飲んでその反応を見守る。

「何でもっと早く紹介してくんねーんだよ!」

「俺は待っていたぞ、こんな子を!」

「まさしく妹系だ! うおおおおっ!」

 労働者たちは熱狂に包まれていた。

 ひっち過激団には、レイドの妹のどこにハマったのか全く分からない。


「皆さんお疲れさまでした。無事ミッション終了ですね」

「ああ、やっとクリスたその声が聞けた」

 ひっちはすぐにでも帰りたかったようだ。

「何て言うか、ここのミッションはへんちくりんなのばっかだな」

「確かに、他の世界と毛色が違うな」

 かずやんとだーいしも心にもやもやを抱えているような状態だった。

 そして、何とも言えない気分のまま帰還することとなった。

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