労働組合を結成せよ
「皆さんこんにちは、新しいミッションが見つかりましたよ」
クリスから呼び出されたので、急いで集合するひっち過激団。
「そんでクリスたそ、どの世界からなんだ?」
「『奴隷労働の世界』ですね、依頼主は前回と同じレイドさんです。重要度3、緊急度2、難易度2となっています」
「うわぁ」
ひっちの口から生気が抜けていくような声が聞こえてきた。
「ということは、労働組合を結成するのかな?」
「その手伝いをしてくれ、という話かもしれんな」
そばではたまさんとだーいしが真剣に話をしていた。
本来はこれくらいミッションに対して真面目な方がいいのだろう。
「ひっちの気持ちも分からなくはないな、あの世界にはときめくものがない」
かずやんはひっちに対して多少同情的なようだ。
「そうだろ、学校にしても職場にしてもあんな男ばっかりの場所にずっといたらふーぞくおじさんになっちまうぜ!」
「大佐、それどこ情報?」
「いとこのにいちゃん!」
「いまいち信憑性がないんだけど」
ひっちのいまいち訳が分からない話に、たまさんが歯切れの悪いツッコミを入れる。
「ああっ」
「どうしたんだ! クリスたそ?」
「め、目まいが……」
クリスが急にしゃがみこみ、目まいがすると言い出した。
「このパターンかぁ」
かずやんが思ったことをつい漏らしてしまった。
「大丈夫か! クリスたそ!」
「このミッションがクリアされれば治まる気がします」
「ぐぬぬ。よし! ひっち過激団出撃だ!」
ひっちが『奴隷労働の世界』へ向かうことを決意する。
「やっぱりね……」
「致し方なしか……」
「でもひっちはガチなんだろうな……」
ひっちとクリスのやり取りにデジャブを感じてしまう三人。
こうしてひっち過激団は『奴隷労働の世界』へと向かって行った。
「行ってくれましたね、これが本当のことにならなければいいのですが……」
クリスがひっち過激団を見送り、安堵していた。
「おっとっと」
クリスが立ち上がろうとしてちょっとつまづいてしまった。
「大丈夫、ではあるんですけどね」
クリスは気のせいだと信じて立ち上がった。
そして、ひっち過激団が向かった先をスクリーン越しに眺めていた。
彼らが無事ミッションを終え、帰還することを信じて。
「やっぱこのボロを着ないといけないんだね……」
「衣食住、どれ一つ欠けても辛いものだ」
たまさんとだーいしがため息交じりに話をしていた。
この『奴隷労働の世界』で衣食住を期待することが間違いなのだが。
「レイドはどこにいるんだ?」
「おーい、ちみたちー」
ひっちがレイドを探していると、レイドがひっち過激団の方へやって来た。
「レイド、そんな目立つ現れ方して大丈夫なのか?」
「今は仕事が終わってる時間だから、大丈夫だ」
レイドが素朴な笑顔で話をしていた。
「何で夜なのかがよく分かりました」
たまさんが納得の表情を見せた。
「ついに労働組合を結成するのか?」
「んだんだ」
だーいしの質問にレイドが強く頷く。
「ちみたちにも手伝って欲しいんだ」
「ストライキでもするのか?」
レイドの依頼にかずやんがちょっと意地悪な返しをした。
「かずやん、それは偏見だな。労働者が使用者側に対して交渉力を持つ正当な手段だ」
だーいしはあくまでも真面目に考えていた。
「それに、元々は同志社大学で発足したのが……」
「それ労働組合じゃなくて大学生協の話だよね」
「ほう、やるなたまさん」
「何だよ! こいつらインテリぶりやがって!」
「ひっちキレすぎだろ」
だーいしとたまさんのうんちくトークが気に食わず、ひっちがキレ散らかしていた。
これにはかずやんもたまらず苦言を呈した。
「おれもみんなの知らないこと言っちゃうし、おれはおっぱいが大大大好きなんだぞ!」
「「「「知ってる」」」」
レイドにまで言われてしまう始末。
もはや手の内はバレバレなのだ。
「今更だよひっち」
たまさんがついつい小言を漏らしてしまう。
「何度そのネタをこすったことやら、もう擦り切れてるんじゃねえか」
「だってこするのって気持ちいいし」
「うるせえわ!」
ひっちの意味深な返答にかずやんが即ツッコミをかました。
「そいじゃ、早速だけど手伝ってもらうよ」
レイドが強引に話を持っていき、ひっち過激団は彼の手伝いをすることとなった。
「何か気が乗らねえんだよな」
「かずやんどうしたの?」
「労働組合ってのにあんまりいいイメージがないからさ」
「ニュース見てるとそう思うこともあるかもね」
かずやんの話を聞いて、たまさんも思うところがあったのか所々頷いていた。
「しかし、この世界には間違いなく必要なものだろう」
「そうだよね。しかも名前が『奴隷労働の世界』だもんね」
だーいしの意見に納得したたまさんがまたもや頷く。
「YO、たまさん! お前どっちの味方なんだYO!」
「二人の意見に思うところがあるからそう言ってるんだよ!」
いきなりひっちに茶化されてしまったので、たまさんがちょっとキレていた。
「ちみたち、そろそろいいかな? おらが話しても……」
「ああ、失礼」
レイドが話を切り出したくて仕方がなさそうな顔をしているのを、だーいしがようやく気付いた。
いくら何でも失礼だろう。
「労働組合に加入してもらえるように、各エリアの班長に話を進めていきたいんだ」
レイドが何とかして手に入れたしわくちゃの地図には、宿舎や詰所が書き込まれていた。
「初対面の俺たちが話しても大丈夫なのか? 手分けしないと就寝時間になっちまうってのは分かるけどさ……」
「ハジメマシテ、ハジメマシテ」
かずやんが真面目にレイドと話をしている中で、やはりひっちはふざけ倒していた。
「その時はおらが組合員を募ってるって言って欲しいんだ」
「レイドも班長だったのか?」
「んだんだ」
どうやらレイドはこの職場で班長をやっているとのことだ。
だーいしが意外そうな顔をしていた。
レイドの見た目や雰囲気のせいか、まとめ役をするような人には思えなかったからだ。
「それでうまくいってくれればいいんだけどな」
やっぱりかずやんは不安が拭いきれないようだ。
「それじゃあおらとだーいし、ひっちたち三人の二手に分かれて組合員の募集をやっていくだ。だーいしにはおらの手伝いをやってもらうだ」
こうして二手に分かれた一行は組合員募集のため奔走することとなる。
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