文豪ひっち
「いやー、モテたい。モテたいねー」
「そんなめでたいねーみたいに言わなくても」
ひっちの独り言にたまさんがすかさず反応を見せている。
正直ほっといても何の問題もなさそうだが。
「そんなにモテたいならモテてる人に聞いてみればいいじゃん」
「やだ! 俺はリア充どもの意見など聞かん!」
たまさんの投げやりなアドバイスに対して、ひっちは頑なな態度を示していた。
リア充の手は借りないというひっちなりのプライドだ。
「モテ道というものは自ら探し求めてこそだ!」
「モテてる奴が言うなら説得力あるんだけどな」
ひっちの力説にかずやんが皮肉をぶちこんだ。
これは効いたのか、ひっちは少しむっとした表情をした。
「ひっちよ」
「どうしただーいし?」
「文豪はどうだ、ひっち? そんじょそこらの高校生とは違う大人の色気を醸し出すことが出来るぞ」
まさかだーいしから提案されると思ってもいなかったので、ひっちだけでなくかずやんとたまさんもポカンとした表情を浮かべていた。
「大人の、色気?」
「左様である」
だーいしがひっちの前で強く頷く。
「難しそうだけど、モテるならやる!」
「文豪ひっち!」
だーいしに乗せられてひっちは完全にノリノリになっていた。
「大丈夫なの? ひっちって全然本読まないでしょ?」
「シャーラップ! 素人パワーをなめてはいかんぞたまさん!」
「素人って自覚はあるのね……」
気分だけは文豪になりきっているひっちが、たまさんに牽制の言葉をかける。
あくまで気分だけだが。
「そんじゃま、お手並み拝見だな。文豪ひっちの実力とやらを」
「任せなって!」
かずやんが少々挑発的な言葉をひっちに投げかける。
対するひっちは随分と張り切っている様子だ。
三人には逆にそれが不安要素であった。
「まずはキャッチコピーみたいな感じで、一文で気を引くような文を作ってくれるか?」
だーいしが持ちかけた提案に対してひっちが考えを巡らせている。
「よし、思いついたぞ!」
「速い!」
ひっちのその速さにたまさんが驚愕する。
「たわわな おっぱい えちえちだなあ」
ひっちはやったと言わんばかりの表情で答えてみせた。
「出たよ」
「あいつおっぱいのことしか頭にねーのかよ」
「だーいし何て反応するのかな?」
テンションの高いひっちをよそに、たまさんとかずやんが二人でひそひそ話をしている。
何となくだが、ひっちを馬鹿にしている感じが醸し出されている。
「……ひっちらしくていいんじゃないかな」
「えっ、マジ?」
だーいしの審査が余りにも意外だったので、たまさんが驚く。
「あれのどこが……」
「ただ自身の性欲を
たまさんとかずやんが呆れてリアクションに困っている。
審査員だーいしの返しがどのようなものが来るか全く想像がつかない。
「僕もちょっとやってみよっかな」
「たまさんもやるのか、いいじゃないか」
だーいしが気分良さそうにしている。
自分の趣味の領域にみんなが入ってくれているのが嬉しいのだろう。
「トンネルをくぐればそこは雪国であった」
「たまさんパクリは良くないな」
たまさんの発言にだーいしが毅然とした対応を取っている。
「自分の評価を上げるためにいいとこ見せようと思って~、たまさんってやつは」
「たまさんはホントむっつりスケベだなあ」
「ええーっ、何でそうなるわけ!」
ひっちとかずやんから散々な言われ方をしてしまうたまさん。
ちょっとした貧乏くじである。
「なあだーいし、パクリはどんな風にまずいんだ?」
「そうだな、スポーツで例えるとスポーツマンシップに背く行為だ」
「知ってるよ。ヒップにもっこりでしょ」
ひっちとだーいしが今一つ噛み合っていない会話を繰り広げていた。
隣で聞いているかずやんとたまさんが、何とも言えないような表情を浮かべている。
「もっと、いやもっともっと考えてみる!」
ひっちが何故か名文を作ろうと息巻いている。
「君と結婚して、君のおっぱいを揉みたい」
「何さ、君の味噌汁を飲みたいみたいにさ」
ひっちの文章に対して、少々たまさんが不貞腐れ気味に返した。
「ひ、ひ、ひっちらしいと思う」
だーいしが彼なりに必死で評価を下していた。
何故だか雲行きが怪しい。
「この流れ、ちぃと怪しくなってきましたなぁ」
かずやんが今の流れを心配していた。
そしてその心配は少なからず的中することになる。
「もっと、ふふふふふ。もっとだあ」
ひっちがさらに名文を作ろうと躍起になっている。
もはや悪だくみをしているような顔つきだ。
「女もすなるブラといふものを、男もしてみむとてするなり」
「アウトー! これは完全にアウト―!」
ひっちの文章に過剰反応するたまさん。
文章自体も問題があるが、それにしてもたまさんは揚げ足取りがしたくてたまらなかったのだろう。
「ひ、ひひひっちひっちひっちっち~」
「うわー、だーいしが壊れちゃったよ~」
体を上下に揺らして異常な反応を示すだーいしに対し、たまさんが心配の声をあげる。
「こんな風になる気がしたんだよな~」
かずやんが困ったような表情とポーズを取る。
嫌な予感と言うものはやはり当たるのだろう。
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