魔女は森の中に

 相変わらず薄暗い森の中を、老婆の言葉を頼りに進み続けたひっち過激団。

「この分かれ道を左に真っ直ぐじゃ」

 たまさんが老婆についてとある異変に気付いた。

 どうやら自身の背中で方位磁針を使っているようだ。


「おばあさん、これは一体」

「大丈夫じゃ、もう少しで着くから」

「分かりました、これ以上は言いません」

 たまさんは黙々と老婆をおんぶし続けていた。


 そんな中、森を進んでいくと少し開けた場所に民家がぽつんと一軒あった。

「おお、ありがとう。助かったよ」

 老婆が家の前でたまさんから降りて、一人でゆっくり歩き出した。

 そして家のドアを開ける。

「お、おばあさん……」

 たまさんがその様子に驚きつつも不安と心配の声を漏らした。


「どうぞ、おあがり」

「腰は大丈夫なのですか?」

 たまさんが先頭に立って老婆の家へと入っていく。

「お、おい。マジかよ!」

「もしや!」

 かずやんとだーいしが驚きを隠せずにいた。

「魔女ねーちゃんまだかな」

 そんな二人をよそに、ひっちだけが何とも言えない浮かれた雰囲気を出していた。


 老婆の家の中はいかにも魔女の家っぽい杖、箒、水晶玉、大鍋といった道具が所せましと並んでいた。

「合格、と言ったところじゃな」

 老婆がそっと人差し指を掲げ、自身に魔法をかけた。

 その様子に息を飲むひっち過激団。

 たちまち老婆は紫色のローブを纏った魔女へと姿を変えた。

 顔だけは何故かあまり変わっていないような気がする。


「もしや、あなたが魔女カラントですか?」

「そういうことじゃ」

 老婆が魔女カラントだったという驚きもさることながら、ひっち過激団にとっては魔女カラントその人が運良く見つかったことに対する驚きの方が大きかった。

 この男を除いて。

「ってか魔女ねーちゃんじゃねえのかよ! それにしてもババア、よくもおれたちを騙してくれたなー!」

 この男、いやひっちはあまりにも不遜な態度を取っていた。


「そういえばお主、さっきからよくもババア呼ばわりしてくれたな。せいっ!」

「あぶばぶばぶば」

 ひっちは魔法の力でカラントに往復ビンタをくらわされていた。

「だっておれの魔女ねーちゃんが……」

「世の中そんなに甘いわけなかろうが!」

 カラントから正論を突きつけられ、ひっちは完全にしょげてしまった。


「ひっち、もはや反論の余地がない」

「お手上げだよな」

 だーいしとかずやんがカラントの正論に納得しきっている。

 もはやひっちには彼らを説得するすべはない。

「いつの世も最後にゃ女が男を選ぶのじゃ、かっかっか!」


「すみませんカラントさん、本題ですが……」

「ああ、そなたたち聖印のことが知りたいとな」

 たまさんがカラントに話を持ち掛け、強引に話を戻す。

「そうなんです」

「あれ、そうだったっけ?」

「そうだね、ひっちはやらしいことばっか考えてたよね」

 ひっちのおとぼけっぷりにたまさんが厳しい対応を取る。


「聖印の記されている場所は何処だね?」

「姫の体に刻まれています。なので、今から城へ案内いたします」

「……外の方に不穏な気配がある」

 カラントの表情がガラリと変わったのを見て、身構えるひっち過激団。

 また魔物の群れが現れたのだろうか。


「外に行ってくるぜ」

「物音が聞こえてきたな」

 かずやんとだーいしがすぐに家の外へ飛び出していく。

「おれたちも行こう、たまさん」

「うん」

 ひっちとたまさんも二人の後に続く。


 ひっち過激団が家の外に出ると、その周辺ではスライム、ゴブリン、オーク、ハウンドの群れがカラントの家を包囲していた。

「ご丁寧にこっちを取り囲んでやがるぜ」

「寄らば斬る!」

 かずやんとだーいしはすぐに戦闘態勢を取っている。


「おー、わんわんがいるぞ」

「そんな可愛いもんじゃないでしょ」

 ひっちの小学生みたいな感想にたまさんがさらりとツッコミを入れる。

 そうこうしているうちに、魔物の群れが一斉に襲い掛かってきた。


「やるって言うなら、相手してやるぜ!」

 かずやんがセイントサイズでスライムやゴブリンをバッサバッサと切り倒していく。

 もはや容赦というものが感じられない。

「聖印刀よ、これなら血に飢える心配はないぞ!」

 だーいしもセイントサーベルでスライムやゴブリンを切り捨てている。


 そばでひっちとたまさんがそれぞれのセイントウエポンで射撃を行っていた。

「ここならひっち砲撃っても大丈夫かな?」

「答えに困る質問だね。周辺の森を破壊しきってしまうかもしれないから、下手に撃たない方がいいと思うけど」

「なんで?」

「こんな世界だし、縄張りを破壊された怒りで野生のモンスターがこっちを襲ってくるかもしれないし」

 ひっちがとんでも破壊力のひっち砲で魔物の群れを一掃したいと言うも、周辺にいる他の魔物がこちらに向かって来るリスクがあるのでむやみには撃てない。


「じゃあ向こうはかずやんとだーいしに任せて、こちらはまったりとやっていくか」

「だといいんだけどね」

 ひっちとたまさんの方へ突然オークが姿を現してきた。

「デカブツが来たぞ!」

「よし、今だ。スパイラルショット!」

 たまさんのセイントガンから螺旋状の光弾が放たれた。

 その一撃がオークの太い体を貫いていく。

 貫かれたオークが大の字になって倒れこんでしまった。


「まだいるっぽいな」

「あんなのがワラワラ出てきたらひっち砲の出番かもね」

 ひっちとたまさんはひそひそ話をしながら射撃戦を展開していた。

 そんな彼らの視線の先にはまだ数体のオークが存在している。

「いっぱいいるなー」

「ひっち砲のスタンバイしてもいいんじゃない?」

 ひっちとたまさんがローテンションなやり取りをしていたその時だった。

「ライトニングジャベリン!」

 詠唱とともに稲妻の槍が一体のオークを貫き倒す。


「カラントさん!」

「あたしも加勢するよ」

 カラントが杖を構え、魔法を放っている。

「あのばあさんやるな!」

「熟練の腕というものか」

 かずやんとだーいしもカラントの実力に感心している。


「そうと分かればこっちも負けてられないぜ! デス・スラッシュ!」

 かずやんがセイントサイズの斬波でハウンドをまとめて切り裂いていく。

 その力で確実に相手の数を減らしている。

「紫電一閃!」

 だーいしも負けじとオークを切り伏せている。

 切られたオークが一体、また一体と倒れていった。


 ひっち過激団とカラントの総攻撃により、魔物の群れはかなりの数が倒されている。

 中には逃げ出すゴブリンが出始めるほどであった。

「だいぶ楽になったな」

「後の連中もまとめてゆくぞ!」

 かずやんとだーいしがこのまま魔物の群れを倒しきろうと息巻いている。

「たまさん!」

「どしたの?」

「便乗するぞ!」

「言うと思った」

 ひっちとたまさんもかずやんとだーいしに続く。


「あたしも行くとするかい」

 さらにカラントがひっちとたまさんの後に続く。

 程なくしてひっち過激団とカラントが魔物たちを殲滅せんめつしてしまった。

「さてと、それじゃあ改めて城まで案内してもらおうかね」

 カラントが笑顔で案内を求めていた。

 こうしてひっち過激団とカラントは城まで向かうこととなった。


「おお、そなた達。魔女カラントを無事連れてきてくれたか。恩に着る」

「ご苦労様でした」

 王様と王妃がひっち過激団にねぎらいの言葉をかけた。

 そしてひっち過激団の成功を妬んでいるのか、そばで大臣が機嫌の悪い顔をしている。

 ひっち過激団は誰も彼と顔を合わせないようにしていた。


「んで、この後姫はどうするんだ?」

「どうするとは?」

「ばば、じゃなくてカラントさんに見てもらうんだろ?」

 ひっちと王様がちょっと嚙み合っていない話を展開していた。

「それはそうなのだが、今はちょっとな……」

 王様が含みのある言い方をしている。


「姫はどちらにいらっしゃるんですか?」

「部屋の中よ。勉強しないことを注意したら拗ねちゃって……」

 たまさんの質問に王妃が恥ずかしそうに答えた。

「勉強はおれも嫌だ! 姫とは気が合いそう」

「そういう問題ではないぞ、ひっち」

「だーいし、共通点は大事なんだぞ。フヒヒヒヒヒ」

 ひっちが表情からしてやらしいことを考えている。

 だーいしにもそれだけは確実に理解した。


「姫の機嫌がいい時でいいよ。また聖印を見させておくれ」

「かたじけない」

 カラントが優しく王様に要望を伝えた。


「どうやら今回の目的を達成されたようですね。お疲れさまでした」

「おおっ、クリスたそ」

 突然クリスの声が聞こえてきたので、ひっちが過剰反応した。

「ってことは今回のミッションは終わりか?」

「そういうことです。これから皆様をこちらに転送します」

 かずやんがだるそうに質問しているが、クリスとしてはあまり意に介していないようだ。

 そのままクリスが転送を始めた。

 あっという間にひっち過激団は現実世界に戻された。


「それにしても、聖印をどう調べていくんだろうな」

「確かにそうだね」

「あのばばあがミリアム姫をあんな風にしたり、こんな風にしたり……、こりゃあ眠れん!」

「まだやらしいこと考えてたのかよ!」

「考えてたら夜も寝られないかも」

 ひっちが真面目な話をするのかとたまさんは思っていたのだが、そんなはずはなかった。

 そして聖印の謎は次回に持ち越しとなってしまった。

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