魔女カラントを探せ
「おかえりなさい皆さん。早速ですが、新しいミッションですよ」
ひっち過激団が帰って来るなり、クリスが新しいミッションの紹介を始めた。
「『剣と魔法の世界』で依頼主は大臣。緊急度2、重要度3、難易度2となっています」
「大臣ってことは、あいつか」
依頼主の名前を聞いて嫌そうな顔をするかずやん。
「あの頑固ジジイか」
「ボイコットしてやろうぜ!」
「拒否権を行使する!」
ひっち、かずやん、だーいしがあからさまな態度を取り始めた。
「これには同意せざるをえないね」
たまさんも三人に続く。
「いーじゃん。こっちはミッション終えたばっかだし、ちょっとくらい休憩したって」
「だよなー」
かずやんの意見にひっちも賛同している。
ひっち過激団としては、大臣なんかのために頑張る義理など持ち合わせていないのだ。
「皆さんに報告です。依頼主が大臣から王様に変わりました」
クリスから突然の連絡が入る。
「王様かあ、だったらしょうがないなぁ」
ひっちは大臣の時とあからさまに態度を変えた。
王様と大臣の人望の差が如実に表れている。
「だったらいいんじゃねーの?」
「出陣の準備は出来たぞ」
かずやんとだーいしも露骨な態度を取っている。
「僕もオッケーでーす」
たまさんも正直な態度を取り始めた。
「かしこまりました。それでは転送致します」
クリスが『剣と魔法の世界』に転送を始めた。
するとひっち過激団は王様のいる城へと直接転送されていた。
穏やかな表情で迎えてくれた王様、王妃、ミリアム姫とそれに対して怒りを隠しきれていない大臣がそばにいた。
「よくぞ来てくれた」
王様がひっち過激団を温かく迎え入れた。
「王様、今回はどのようなご依頼なのですか?」
「人探しだ。我々は聖印の謎を知っているという魔女カラントを探している」
今回の依頼は魔女を探して欲しいという内容だった。
前回のように魔物討伐ではなかった。
「魔女かあ、楽しみだな!」
ひっちが体をくねらせながら一人勝手に興奮していた。
「どうしたのさ」
「エチエチなおなごを期待せざるを得ない。美魔女とか魔女ねーちゃんとか」
「魔女ねーちゃんって聞いたことないんだけど、それにおばあさんだったらどうするのさ」
「むむっ! さっきのは言わなかったことにするんだ、たまさん!」
たまさんとひっちがどうでもいいようなやりとりをしていた。
「また始まったよ」
「お約束だな」
かずやんとだーいしが相変わらずのひっちに呆れている。
「聖印の秘密、一体何があるのかな?」
「いずれ分かりますよ」
「はい、お母様」
ミリアム姫が突然呟き、王妃がなだめるように声をかける。
それを聞いたひっちが目の色を変える。
「お父様、お母様。息子であるこの私めが必ず魔女を探し出します!」
「そんでまた始まったよ」
「もはや様式美だな」
王様と王妃の前で大見得を切るひっち。
かずやんとだーいしが再び呆れてしまった。
「話は変わりますが、魔女がどのあたりにいるのか目星はついているのですか?」
たまさんがかなり強引に本題に話を戻す。
「魔女がいるという森の地図を手に入れた、これを使ってくれ。大臣、例の地図を彼らに渡してくれ」
「ははあっ」
大臣がせかせかと動き、たまさんに森の地図を渡す。
そしてひっちとすれ違った時に大臣がにらみつける。
ひっちには何が何でも渡したくなかったのだろう。
「捜索活動か……」
「めんどくさそうだな」
だーいしとかずやんが依頼に難色を示していた。
だがやらねば始まらない。
ひっち過激団の魔女捜索が始まる。
「太陽が落ちてないのにやけに薄暗いな」
「森の中だからしょうがないよね」
ひっち過激団は地図を頼りに森の中で魔女探しをしていた。
かずやんとたまさんの言葉通り薄暗い森の中を進んでいく。
「ねねね、魔女ねーちゃんまだ? ボインでミニスカローブのくっそやらしい魔女ねーちゃんね」
「今探しているのだ、ひっち。ひっちは追いかける恋と追いかけられる恋どちらがいい?」
「追いかける方!」
「ならば今がその時だ」
ひっちとだーいしが問答のようなやり取りをしていた。
深いのやら浅いのやらよく分からない。
「だーいしどしたの? 何か今のために準備してきたようなセリフだったね」
「やけに言い慣れてたな」
「そんなことはない」
たまさんとかずやんから囃し立てられるだーいし。
だーいしはちょっと恥ずかしそうにしている。
ただ実際は冗談を言い合っていられるような状況ではなかった。
地図を見ても全く状況が分からない。
「うーん、やっぱこの地図だけじゃよく分からないね」
たまさんが困った表情を見せている。
「地図の中にもっと指標となるものがあればいいのだが」
「城との位置関係だけじゃあねえ……」
たまさんがだーいしと一緒になって考えるも、ドツボにはまる一方である。
「たまさん、だーいし。何とかならないのか!」
「考えたって仕方ねえ! 歩いて探そうぜ!」
ひっちとかずやんが堪えきれずにイライラし始めた。
「確かに、歩いてみた方がいいかもしれないね」
たまさんもたまらず歩き出すことを提案した。
ひっち過激団は当てもなく森の中を歩き続けた。
そうしていると、何故か森の中で一人の老婆が立ち往生していた。
老婆は小柄で、あまり生気を感じられないような風貌だった。
「ねえ、あれ」
「行くぞ、たまさん」
老婆を見つけたたまさんだが、ひっちが無視して先を行こうとする。
「もしかしたら魔女のこと知ってるかも、あるいは」
「俺の魔女ねーちゃんがあんなババアなわけねーじゃん! 先行こうぜたまさん!」
ひっちは老婆に対して全く意に介さない。
「たまさん、気になるのか?」
「あのおばあさん、俺たちをだまそうとしてるんじゃねえの?」
「こんな魔物が出てきそうなリスクの多い場所で、そんなこと出来るのかな?」
だーいし、かずやんの疑問に対してきっぱりと答えるたまさん。
確かに人をだまして得る利益より、命を失うリスクの方が高そうである。
そもそも人通りが少なすぎるというのもあるだろうが。
「僕行って話を聞いてみるよ」
たまさんが決心して老婆のもとへ近づいていく。
「たまさん、行ってしまったな」
「念のため、いつでも戦えるようにはしとくか」
だーいしとかずやんがたまさんの心配をしながら、いつでも戦闘できるよう構えていた。
「すみません。こんなところでどうされたのですか?」
「家まで帰ろうとしたのだが、ちょっと疲れてしもうてな……」
「家? こんな森だらけのところにですか?」
たまさんが老婆を本気で心配している。
そばで見ているかずやんとだーいしが固唾を飲んで見守っている。
そしてひっちは相変わらずそっぽを向いている。
「どこか痛いところはあったりしますか?」
「少し腰が痛いかのう」
「歩けそうですか?」
「ちょっと厳しいかもしれん」
老婆が歩くのに苦しそうな表情を見せる。
たまさんが老婆に背中を見せた。
「家までどのくらいですか? おんぶしますよ」
「……すまんのう」
たまさんが老婆をおぶって歩き出した。
「たまさん……」
「行こう、おばあさんの家まで。もしかしたら周辺で魔女の情報だって手に入るかもしれないし」
「しゃあねえなぁ、たまさんがそこまで言うなら付き合うぜ」
たまさんの熱意にかずやんが折れてしまった。
「魔女ねーちゃんに会えるかもしれないなら、仕方ないな」
ひっちも渋々ついて来て、その隣ではだーいしが静観していた。
「たまさん、辛くなったら言ってくれ」
「ありがとう、だーいし」
だーいしが我慢できなくなったのか、たまさんに声をかけた。
それでもたまさんが老婆をおんぶし続けていた。
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