武器庫襲撃

「闇夜に舞いそして闇夜を切り裂くエージェント。くうっ、いいねえ!」

「かずやんが自分の世界に入っちゃったよ」

 かずやんが中二病を発し悦に浸っている。

 こうなると基本的にツッコミはたまさんしかいなくなってしまう。

 一行は港のそばにある武器庫の方へやって来た。

 ひんやりとした海風が頬を撫でていく。


「それにしても運がよかったな。たまたま見張りの交代要員と出くわして、その上こうして捕縛まで出来たんだからな」

 ヘススが見張りの交代要員を縄でぐるぐる巻きにしている。

 そして彼らが乗ってきたワゴンの中に最後の一人を押し込んでいく。

 ひっち過激団は交代要員の口をガムテープで塞ぐ手伝いをしていた。

「ヘスにゃん、口だけでいいんだよね?」

「ああ、そうだ」

 ミッションが始まったせいか、ひっち過激団もヘススに倣って真面目に取り組んでいる。


「ちょうど五人か。見張りのことは俺たちに任せてくれよ!」

「そうそう、かずやんの言う通りだな」

 交代要員の五人が体を揺さぶり、口をもごもごしているが大した抵抗にならなかった。

「命まで取るつもりはない。そこでゆっくりしていてくれ」

 ヘススがワゴンのカギを閉めた。


「それじゃあ行くとするか。あくまで俺たちは見張りの交代要員として武器庫の中に行くつもりでな。堂々と行ってやろうぜ!」

「「「「おー!」」」」

 ヘススもひっち過激団も気合は十分だ。



 武器庫の前には見張りが二人並んでいる。

「おお、交代が来たみたいだな」

「待ってたぞ」

 ヘススとひっち過激団は見張りの二人に迎え入れられた。

「いやーすんません、渋滞に巻き込まれましてね」

 そんな中でヘススがしらじらしい嘘を一発かましていた。


「お前たちは倉庫の一番奥の奴らと交代してくれ」

「あーい」

 ヘススとひっち過激団がそのまま倉庫の奥へと向かって行く。

 武器庫の中は予想通り暗く、明かりがなければ視界の確保が難しい。

 一行は武器庫の最深部でそのまま見張りと交代し、難なく潜入することに成功した。


「ヘススさん、こんなにザルなもんなんですか?」

 たまさんがヘススにすごく気になっていたことを聞いた。

「タイムカードがなかったしな……」

「そういう話じゃないんだよだーいし」

 たまさんがだーいしにツッコミを入れる。


「確かに普通じゃないな。企業でもそうだと思うが、セキュリティのために本人確認のIDカードなり何なり準備はするのがセオリーだろうな」

「もしかしてブラック労働なのかなあ?」

「そうなのかもな」

 ヘススがたまさんとひっちの質問に真剣に答えていく。

「マフィアって時点で真っ黒黒すけだわ!」

 かずやんがたまらずツッコミをかましていた。


「そんじゃま、ここから作戦を始めるとしますかね」

 ヘススが暗視スコープを装着し始めた。 

 ひっち過激団もそれに倣い、暗視スコープを装着していく。

「武器庫の中はシンプルな格子状だ。列を押さえることが出来さえすれば、制圧にはそこまで難儀しないはずだ」

 ヘススとひっち過激団は武器庫奥の角で作戦を実行しようとしていた。


「こういう時、ひっち砲でズババンといきたいな~」

「武器庫が跡形もなくなっちゃうよ」

 ひっち砲は流石にまずいとたまさんが忠告する。

「おい、何をそんなに話して……うわああっ」

 こちら側にやってきた見張りをすかさずヘススがアサルトライフルで撃ち抜いた。


「このまま真っ直ぐに撃ちまくってくれ!」

「オーケー!」

「御意!」

「はい!」

 ヘススの指示にかずやん、だーいし、たまさんが続く。

 射線上にいたであろう見張りたちが次々とうめき声をあげている。


「ヘスにゃん、こっちからも来てるよ」

 ひっちが別方向からくる見張りをアサルトライフルで撃ち抜いた。

「侵入者だ、奥の方にいるぞ!」

 声と共に足跡が武器庫内に響き渡る。

 残りの見張りが次々と一行のもとへと迫って来ているのが分かる。

「残りの見張りはざっともう半分ってとこなんだがなあ」

 ヘススが全く焦ることなく冷静に呟いていた。


「このままだと袋のネズミですよ!」

「おれもカワイ子ちゃんとチュウチュウしたいな」

「言ってる場合かあああっ!」

 たまさんとひっちが頓珍漢な話をしていた。


「もしもしジョーン、武器庫の外はどんな感じ?」

「今のところ援軍はなし!」

「こっちに援軍って寄こせる?」

「二人くらいなら……」

「それで十分!」

ヘススがジョーンと無線で通信を行っていた。

そんな中でもヘススは手を止めることなくアサルトライフルを撃ち続けている。


「足音が、消えた?」

 だーいしがいち早く異変に気付く。

 そして、いつの間にか銃声も止んでしまっている。

「奴ら、足並みそろえて向かってくるつもりだな」

 ヘススが相手の出方を分析していた。


「じれってえ、一気にカタを付けてやるぜ!」

 そんな中で血気盛んなかずやんが、待っていられないとウズウズしている。

「かずやん、行くのか」

「ああ、ローリングしながら隣の列を攻める」

「分かった、横方向はこちらで援護しよう。かずやんが移動し終えたら、たまさんがそのままかずやんの方へ合流してくれ」

「了解しました」


 こちらの出方は決まった。

 後は打って出るだけだ。

「下手に牽制射撃をするより、相手が静かなうちに攻め立てたほうが良さそうだな。5秒数えるから0になった瞬間にかずやんは行ってくれ。5、4、3、2、1、0!」

「あいよ!」

 かずやんはローリングしながら隣の列に射撃を行った。

 かすかなうめき声が聞こえてきた。

 隣の列に待機していた見張りがいたのか、銃弾を命中させることに成功したようだ。


 残りの見張りが先ほどの奇襲で動揺したのか、再び銃を撃ち始めた。

「たまさん、かずやんの援護を!」

「はい、行きます!」

 たまさんがかずやんの後に続く。

「これでこちらが有利か。ジョーン、援軍は?」

「今行くよ!」

「一番左の列を制圧してくれ!」

「ラジャー」

 ヘススとジョーンは通信を密に取り、連携を行っていた。

 ジョーンが援軍に指示を出し、制圧を助けてくれるようだ。


「このまま一機に押し込むぞ!」

「「「「了解!」」」」

 ひっち過激団もここぞとばかりに弾幕を形成している。

 そして、残った見張りは戦意を喪失したのか白旗を上げて一行の前に姿を現した。

「投降してくれたか、だが最後まで気を抜いちゃだめだ」

 武器庫の中には投降した見張り以外は存在していない。

 ついに武器庫の制圧に成功したようだ。


「やりましたね、皆さん」

 クリスの声が聞こえてきた。

「おお、クリスたそ。ところで、ジョーンたそとチュウチュウはないの?」

「ハナからねーんだよそんなん!」

 ひっちの意味不明な質問にかずやんが投げやりに返す。

「皆様を元の世界に戻しますね」

「あいよー」

「承知した」

 かずやんとだーいしの返事を聞いたクリスが、ひっち過激団を元の世界に転送した。

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