姫と聖印

「なるほど、それでは皆さんがクリス殿の……」

「そうだったのですね」

 王様は隣の王妃と一緒にひっち過激団の話を聞いていた。


「なりませぬぞ王様! このような身分も分からぬ者共を!」

「まあ大臣、落ち着くのだ」

「そうですよ。王様の命の恩人に向かって……」

 王様のそばでは古舅のような口うるさい大臣がわめき散らしている。

 これには王妃も思わず苦言を呈していた。

 ひっち過激団のことがよほど気に食わないのだろう。


「あのじじいやたらうざくないか?」

「ああいうタイプの人って実際にいるもんなんだね」

 かずやんとたまさんが陰でひそひそ話をしていた。


「このアスプル王国はここ最近魔物たちの襲撃が後を絶たない。そこで、皆にはこの魔物討伐をお願いしたいのだ」

「王様! かような者どもに何が出来るというのです!」

 大臣は王様に諫められていながら、なおも反対を続けていた。

「こんなんだったら、ここで頑張るのやめとこかな……」

 ひっちのテンションがさっきと打って変わってダダ下がりだ。


「そうだ、諸君。あの時私を助けてくれた時に使っていた武器をもう一度見せてもらえるかな?」

 王様からの提案を受け、ひっち過激団は各々のセイントウエポンを見せた。

 白銀の輝きがそれぞれの武器を美しく照らし出す。

「美しき輝きですこと……」

「大臣よ、この輝きは聖印の輝きとよく似ておると思わんか? すなわち、彼らこそが我々にとっての救世主である証左ではないかと私は考えているのだ」


「しかし、彼らは爵位も何も……」

「そのような問題ではないと思っている。私は彼らの力に賭けたい。魔物討伐は彼らにお願いするつもりだ」

 大臣が王様の意見に対して中々答えられずに戸惑っている。

 何とも言えない沈黙が漂うそんな時だった。


「お父様、お母様。ただいま戻りました」

「おお、ミリアムよ。帰って来たか」

 姫は可憐で可愛らしい見た目をしている。

 そして巨乳だ、ロリ巨乳というやつだ。

 ひっちがそれを見逃すはずがなかった。


「お父様、お母様! 息子であるこの私めが必ずや魔物を退治致します!」

「いつから義理の息子になったんだよ!」

 ひっちが急にかしこまった態度で王様に接していた。

 ミリアム姫への下心からだろう。しかし隠しきれていない。

 そしてかずやんのツッコミなどもはや聞いていないし聞こえていない。


「き、きいーーっ!」

「大臣よ、食事の準備をしてくれぬか?」

「は、ははあっ」

 王様は大臣に食事の準備を命じた。

 怒りに震えている大臣をその場から離れさせる見事な采配だ。


「さて、君たちから我々に聞きたいことはあるかね?」

「先ほどお話に『聖印』という言葉が出てきましたが、一体何ですか?」

 まずはたまさんが王様に質問を投げかける。

「聖印とは、ミリアムに刻まれた刻印のことだ。魔物たちはこれを狙ってきておる」

「ミリアム姫の……」

 たまさんが思わず言葉を詰まらせる。

 ちょっといやらしい想像でもしたのだろうか。


「そう、彼女の体に刻まれておる聖印だ」

 王様は何とも意味深な発言をしていた。

 おそらく無意識に、そして真面目に答えたのだろう。

 そんな話を聞いて嬉しそうにする男がここに一人。

「へっへっへっ、それじゃあお姫様の聖印をぜひとも見せてもらおうかな!」

 ひっちがミリアム姫にいやらしく問い詰める。

 そのねちっこい感じといい、もはや悪役の言い回しだ。


「ひっちのエッチ!」

 たまさんが突然ひっちに怒り始めた。

「落ち着きたまえ、たまさん」

「ひっち過激団ってのは、女の子にそんな卑劣なやり方をする集まりなのかよ!」

「うん」

「そこうんって言うなよ!」

 ひっちの返し方は完全にたまさんの怒りを買うような発言だ。

 かずやんもこれには呆れてツッコミを入れてしまう。


「どうした、そんなに聖印が見たいのか?」

「うんうん」

 ミリアム姫の問いに対してひっちが猫なで声で頷く。

 正直気持ちが悪い。

 そうこうしているうちに、ミリアム姫が服の袖に手をかけた。

 ひっち過激団は息を飲んで見守った。

 もしかしたらミリアム姫が脱ぐかもしれない。

 そんなよこしまなことを皆が考え出していた時だった。


「ほれ、これが聖印だよ」

 ミリアム姫が右手首にある聖印をみんなに見せつけた。

「「「「ありゃー」」」」

 ひっち過激団は拍子抜けして皆その場に倒れこんでしまった。



「そろそろ食事が出来る頃だろう。大臣よ、彼らの食事はまだか?」

「今お持ち致します」

 大臣が年に似合わぬ素早い身のこなしで食事の準備を指揮していた。

 その足取りには少々の苛立ちを感じさせる。

 そしていつの間にか、王妃とミリアム姫は自室に戻っていた。


「お持ち致しました」

「さあ、遠慮なく食べてくれたまえ。むむっ」

 王様が食事についての異変に気付く。

 準備されている量が明らかに少ない。


「しょぼっ」

 ひっちは気づかれないように小声でつぶやいた。

 目の前に用意された食事はパンとスープのみ。

 スープは野菜の入った透き通ったスープだ、塩で味付けされているのだろう。

「どういうことだ大臣! 客人に対して何たる無礼! もっと用意するのだ!」

「食糧不足故、これ以上は準備出来ませんでした」


 王様が大臣の対応に怒りを示している。

 大臣が手抜きのおもてなしをしているのではないかと睨んでいるのだ。

 実際にはそうだったのだが。

 それにしても、これは流石に気まずい。


「我々はこれから戦地へ赴く身です。腹を膨らませるほど食べてしまっては戦いに差し障るというものです」

 そんな中だーいしがズバリと言い切り、その場を収めた。

「そうか、すまなかったな」

 王様も冷静さを取り戻してくれたようだ。


「すごかったよ、だーいし」

「本心だよ、あれは」

 たまさんが思わずだーいしのファインプレーを褒め称えた。


「俺たちが普段食べてる野菜とは違うんだな」

「パンが固い」

 一方でかずやんとひっちは純粋に食事を楽しんでいた。

 楽しんでいるというよりも何とかして楽しもうとしているといったところだろう。

 ひっち過激団が食事をそろそろ終えようとしたその時だった。


「伝令! 魔物の群れが我が国に向かって来ています!」

 その伝令で場内に緊張感が走る。

「分かった、こちらからも兵士たちを送ろう。四人は来てくれるか?」

「もちろん! 後で姫とイチャイチャさせてくれるらしいし」

「誰もそんなん言ってないんだけど」

 ひっちの欲望まみれの発言が受け入れられるはずもなく、それを聞いたたまさんが呆れ返ってしまった。


「そうと決まれば、ひっち過激団出撃!」

「「「おー!」」」

「イチャイチャはないけどね」

 たまさんがさり気なくツッコミを入れていった。

 ひっち過激団は魔物の出現場所へと向かう。

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