剣と魔法の世界

「皆さん、お忙しい中ありがとうございます」

「そりゃもうクリスたそのためならば!」

「あなたには言ってません」

 クリスはひっちを冷たくあしらい、後の三人に礼を言った。


「クリスさん、新しい世界ってのは一体?」

「こちらです」

 クリスがどこからともなくスクリーンを取り出してディメンションワールドを映し出した。

 新しい世界は『剣と魔法の世界』と書いてある。


「おお、異世界! これはハーレムが期待できるやつではないか!」

 ひっちが鼻息を荒くしながら語り始めた。

 だいぶ興奮しているのだろう。

「緊急度3、重要度3、難易度2ってところか」

「一体どのようなミッションなのだろうか?」

 かずやんとだーいしが依頼の詳細を見ていた。

 はっきり言ってひっちの言葉は無視している。


「そうですね、場合によっては人ならざるものとの戦いになるかもしれません」

「もしかしてモンスターってこと?」

「そうですね」

「この難易度って、詐欺だったりしませんよね?」

 たまさんがいぶかしげな表情を見せ、クリスに質問をした。


「そんな、たまさんひどい」

「おいたまさん、クリスたそを泣かすんじゃねえ!」

「そそそそんなー」

 急にぐずるクリスを見て、ひっちはたまさんに怒っている。


「たまさんあれだ、どっちにしても行って解決するっきゃねぇよ。俺は楽な方がいいけど」

「これ以上議論しても始まるまい」

 かずやんとだーいしはあくまでたまさんを説得する方向で話を進めている。

「分かったよみんな。クリスさんごめんなさい、行って来ます」

「そうと決まれば、ひっち過激団出撃だ!」

「「「「おー!」」」」

 ひっち過激団がディメンションワールドに向かって行く。


「行ってくれたみたいですね、私の演技力も多少上がったということなのでしょう」

 クリスは噓泣きを終え、ケロリとした表情で呟いた。

「彼らが軌道に乗ってくれさえすればいいのですが」

 そしてクリスはひっち過激団の行く末を案じながら、彼らが去った後を見ていた。



「おお、異世界異世界異世界だ~!」

 ひっちが『剣と魔法の世界』に着くなり大はしゃぎしている。

 自身が高校生であることなどもはや頭にないだろう。


「小学生の遠足じゃないんだから。それにしても、まさしくって感じのところだよね。遠くにお城が見えるし」

 たまさんが辺り一面を眺めながらひっちに言葉を返した。

 中世ヨーロッパを彷彿とさせる景色がそこには広がっていた。

 確かに城が見えるのだが、たどり着くにはそれまでに森や丘を越えなければ行けない。


「こりゃ城まで結構遠いぜ」

「鍛錬となることだろう」

「だーいし、そんなポジティブな話じゃねえぞ!」

 だーいしに対してこらえきれなかったツッコミをかずやんが入れる。

 やはりと言うべきか、いくつかの問題が立ちはだかっている。

 遠いということだけでなく、道だってよく分からない。


「大丈夫、こういう時は城の偉い人が馬車で俺たちのいるところに通りかかるんだよ」

「大佐、それどこ情報?」

「異世界もののマンガ!」

「やっぱし……」

 脳内が完全にマンガの異世界になってしまっているひっちに、たまさんが呆れ返ってしまっている。

 いくら何でも、ひっちはディメンションワールドをなめ過ぎている。


「この後王様と仲良しになってボインなお姫様、ボインなメイドたち、ボインなエルフたちと出会いを果たす。ああ、おれの異世界ハーレムライフが今ここから始まるのだ! アハアハアハ!」

「あーあ、完全に自分の世界に入っちゃったよ」

 自身の妄想で悦に浸っているひっちをたまさんはただただ見ているだけだった。

 それはかずやんとだーいしも同じである。

「今のひっちにつける薬はあるか?」

「あるわけねーじゃん」

「「「ですよねー」」」


 だーいし、かずやんも身をくねらせるひっちを見て立ち尽くすしかなかった。

 そんな時、急に何かの足音が聞こえてきた。

 音を聞く限り、かなり速足のようだ。

「この足音は馬、いや馬車か」

「こっちに近づいてくるな」

 だーいしはセイントサーベル、かずやんはセイントサイズを構えている。

 それを見たひっちとたまさんも慌てて自分たちのセイントウエポンを構え、足音が近づくのを待っていた。


 豪奢な造りの馬車がひっち過激団の方へと突っ込んできた。

 その後ろにはゴブリンの集団が馬に乗り、奇声を上げながら襲い掛かっている。

 馬一頭に三匹ずつゴブリンが乗り、二組で弓から矢を射ながら馬車を追い立てていた。

 馬は小柄ながらもかなりの速さを誇っている。

 そしてどんどんひっち過激団に近づいてくる。


「やってやるか、そらよっ!」

 かずやんが近づいてきた馬上のゴブリン三匹を、セイントサイズの一振りで切り伏せてしまった。

 セイントサイズの切れ味は尋常ではない。

「こいつは血に飢えてやがるぜ……」

 その切れ味にかずやん自身も驚きを隠せない。


 もう一方のゴブリンたちに対してはだーいしが無言で乗っている馬をぶった切っていた。

 セイントサーベルの切れ味もまた尋常ではない。

「切り捨て御免!」

 だーいしがクールに決めてしまった。

 馬を失いうろたえているゴブリンたちはひっちとたまさんが射撃で各個撃破していった。


「みんな、無事か?」

「ああ、この通りさ」

 無事を確認するひっちにかずやんがセイントサイズを掲げてアピールしている。

「他の追っ手はいないようだな……」

「だね」


 だーいしとたまさんはゴブリンたちがやって来た方向を見ながら確認していた。

 そうしているうちに、馬車から豪勢な服装をした中年の男性が姿を現した。

 そして、その男性は王冠をかぶっている。

「もしや王様?」

 ひっちが驚きの表情を見せる。

「ひっちの言葉通りになるのか!」

「預言者ひっち!」

 かずやんとだーいしもひっちに続いて驚きの表情を見せた。


「先ほどはお助けいただき誠にありがとうございます」

「いえいえ」

 ひっちが王様に対して丁寧な対応を見せる。

 打算的な考えが隠しきれていないのは言うまでもない。

「よろしければ私の城へ皆様をご招待したい」

「待ってま……。いえ、ありがとうございます」

 ひっちはこらえきれず欲望を漏らしていたが、何とか誤魔化した。

 とりあえず、招待の話がお流れになる前に決まったのでひっち過激団は安堵した。

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