ひっち砲発射!
地下の暗がりの中、ライトで照らしながら先を進んでいく一行。
オフィスの地下は武器庫となっていた。
「わお、こりゃすごいや!」
ひっちが目の前にある大量の武器に歓喜していた。
「これだけ武器があれば安心してもらえるかな?」
「そういう問題ではないです」
たまさんはあくまで冷ややかな態度を取っていた。
「俺たちがフォローするから」
「俺たちって、ヘススさんの組織って全員で何人いるんですか?」
「俺とジョーンの二人さ」
「ひぃあああああああ!」
ヘススの発言にたまさんはたまらず発狂する。
発狂のあまりその場でのたうち回っている。
「んでさ、相手の戦力ってどのくらいなんだ?」
「こちらで調べた限りでは、十人もいないわよ」
「思ったより少ないな、一人あたりのノルマは大体二人ってところか」
かずやんがジョーンの調査結果を踏まえて冷静に計算していた。
「やってくれるんだよな」
「もちろん! 楽しそうだし」
「ゲームのようにはいかんぞひっち。第一我々はプロではない」
「だーいし、おれたちがBPEXで訓練した日々を忘れたのか?」
「それでは全くもって訓練にならないのだが……」
だーいしがいくら忠言しても、ひっちは浮かれきってしまっていた。
完全にゲームの主人公か何かになった気分なのだろう。
「そうと決まれば、ヘスス。作戦はどうする?」
「俺とひっち達で内部に侵入する。ジョーンは敵オフィスの外で待機していてくれ。必要があれば外から攻撃を仕掛けてくれ」
「分かったわ」
ヘススとジョーンの間で勝手に作戦立案が進んでいく。
急にシリアスな雰囲気になったので、ひっち過激団は緊迫感に飲み込まれてしまう。
「それで、準備物はどうする?」
「ジョーンは車にアサルトライフルとロケットランチャーを積んどいてくれ。万が一ヘリが来てそれで逃げることを想定してスティンガーがあるとなおいいな」
「オーケー。この子たちはどうするの?」
「ひっち達はここにある好きなものを持って行ってもらうさ」
ヘススとジョーンはなおも話を進めていた。
「というわけだ。突入作戦になるからそれなりの用意があった方がいい。もちろん、走れないほど装備を持っては行けないけどな」
「すっげー、どれにしようかな。おお、これはおれがゲームで使っているのとよく似ているじゃないか!」
ひっちがいの一番に武器の山に駆け込んで使いたいものを選んでいる。
気分はまさしく宝探しだ。
「ひっち、俺たちはセイントウエポンをクリスからもらっているんだぜ。それを忘れるなよ」
「分かってるって」
かずやんがひっちに忠告するが、ひっちは聞いているのかどうか分からないような態度を取っている。
「それは本当か?」
「ああ、みんなもらった。それぞれ別々のだが」
かずやんがヘススにセイントサイズを見せる。
「そうだったのか。大した忠告にはならないかもしれないが、その武器は大事にした方がいい」
「言われなくてもそのつもりさ」
「何てったってクリスたそからもらった武器だもんね! カワイ子ちゃんのプレゼントを粗末にゃ出来ん!」
ヘススとかずやんの会話に殴り込むようにひっちが入ってきた。
「手榴弾とフラッシュ弾くらいはあってもいいかな」
みんなが話をしている中でたまさんは密かに武器を見繕っていた。
思ったよりは切り替えが速いらしい。
「二人は武器を持っていかなくていいのか?」
ヘススがかずやんとだーいしに話しかける。
「男ならこの刀一本でと言いたいところだが、そうもいかぬか」
「これから探すけど。っておい、たまさんいつの間に武器漁ってたんだよ!」
「たまさんならひっちの次に武器選びをしてたぞ」
だーいしがかずやんのツッコミに淡々と答える。
「たまさんはむっつりだなぁ」
「ええっ、何でさ?」
「聞こえてるのかよ!」
かずやんのつぶやきに対して瞬時にたまさんが反応する。
「それじゃあ俺も武器を選ぶとしよう。あと一時間後に作戦を開始するから、準備が終わったらオフィスの前まで来てくれ」
ヘススの言葉を聞いてひっち過激団は武器探しにより一層精を出していた。
時は満ちつつある。
ひっち過激団はヘススの運転するワゴンに乗って目的地のアジトへ向かっていた。
車内の静けさと緊張感がひっち過激団に襲い掛かる。
普通の高校生男子には到底耐え難いものがあるだろう。
そんな中、ひっちは嬉しそうな表情を浮かべていた。
「いよいよなんだね」
「たまさん、緊張しているのか?」
「そりゃそうだよ。だーいしだってそうなんでしょ?」
「そうではある。が、ここまで来て緊張してもどうにもならんさ」
緊張しているたまさんと比較的どっしり構えているだーいしが話をしていた。
「後は現地へ向かって突入するだけだ。気負い過ぎずに行くべきだろう」
「だーいしの言う通りだな。俺もそのつもりで行くぜ」
かずやんもだーいしに倣ってミッションに臨むつもりでいる。
「今宵、俺は男の中の男になる。歩く武器庫、唸るワンマンアーミー。そういうこった」
「かずやん何言ってんの?」
「いいじゃねえか、ちょっとくらい気分上げたって」
かずやんの独り言にたまさんがさり気なく反応する。
かずやんはちょっと恥ずかしそうにしていた。
「みんな、そろそろ目的のアジト前に着く。見張りがいるだろうからそいつを倒してから中に突入しよう」
「「「「了解!」」」」
そうこうしているうちにアジトの前へと到着する一行。
ヘススの指示にひっち過激団が声を合わせて答える。
アジトには見張りがたった一人、幸先のいいスタートと言えるだろう。
ひっちとかずやんがマシンガンを窓の外へ向けて構え、見張りに向けて発射した。
「な、なんだ。うわぁ!」
無警戒だった見張りはたまげてしまったのか、急いでアジトの中に逃げ込んでしまった。
「ヒュー、やるじゃん」
「倒せなかったけどいいのか?」
「初心者がまともにトリガー引けるだけで上等!」
ヘススが意気揚々とひっちに言葉をかける。
ヘススなりに言葉を選び、士気高揚をしているようだ。
「そのまますんなり中に入れそうだな」
「一体どうなるんだろ」
「そりゃたまさん、行ってみないと分からんだろ」
「そりゃそうか」
かずやんが心配するたまさんをなだめるように話を進めていた。
「よし、それではこのまま突入するとしよう。外はジョーンに任せる」
「「「「了解!」」」」
ヘススとひっち過激団はアジトにそのまま乗り込んでいった。
すんなりとアジトに潜入できた一行はアジトの階段を進んでいった。
「思ったよりもすんなりだったな」
実際ヘススの言う通りだった。
想像していたような大した抵抗もないので、そのままアジトの最上階を目指す。
「なーんだ、つまんないの」
「同じやるなら楽な方がいいだろ」
ひっちとかずやんが無駄話を出来るくらいには余裕があった。
「余裕かましてられるのはここまでのようだ」
ヘススが腕を真横にかざし、制止をするよう促す。
最上階のフロアに着いた時だった。
目の前に自動照準される機関銃が設置されていた。
銃口以外の周辺は防弾ガラスで覆われている。
ヘススとひっち過激団は通路の死角から様子をうかがっている。
「ちょっとでも姿を見せると、こうだ」
ヘススはポケットからりんごを取り出し、床に転がした。
りんごは機関銃で打ち抜かれ、たちまち蜂の巣になってしまった。
「あ、あああっ」
「あの機関銃は自動防衛機能がついているな」
驚愕の表情を見せるたまさんを尻目にヘススが解説を続ける。
「厄介だな、あれは」
「あれを突破しないと先に進めないぜ」
だーいしとかずやんは目の前にある自動防衛システムに脅威を感じていた。
「ハハハハハ、オ前タチデハココカラ先ヘハ行ケヌ」
自動防衛システムが独特な機械音でこちらに話しかけてくる。
「試しに俺が様子を見てくる」
「かずやん、気を付けてね」
「こういう時はクールに構えるのさ」
たまさんが心配そうな声をかずやんにかける。
対してかずやんは謎の余裕をかましていた、理由は分からない。
「斜ニ構エタ俺カッコイイ。ナンダ、中二病カ」
自動防衛システムがかずやんをみそくそに
「何なんだよ、AIのくせに生意気だな!」
「ヤーイ中二病、ナルシスト中二病」
「んだとこのや……、おわーっと」
機関銃の照準がかずやんに向けられ、そのまま無数の銃弾が発射されたので思わずかずやんは身を隠した。
「ったく、あのシステムどうにかならないのかよ!」
「ならば見に行くとしよう」
「だーいし!」
「何とかしてあの自動防衛システムを攻略したい」
だーいしが勇み足で自動防衛システムの射線の近くへと向かって行く。
「歴史好キトカ言ッテルケド古臭イダケダゾ」
だーいしもかずやんと同様にこれでもかと罵倒されていた。
「故きを温ねて新しきを知る。機械にはそれが分かるまい!」
「機械ニダッテ学習機能ハアルゾ、コノ時代遅レメ」
「人を愚弄するのもいい加減にしろ! くっ」
システムの機関銃がだーいしを狙い、機関銃を連射してくる。
だーいしが射線から離れるように戻ってきた。
「ああも一方的に馬鹿にされるとは……」
「一体どうすれば……」
「じゃあ、次はたまさんね」
ひっちがさり気なくたまさんに話を振る。
「ええっ、僕なの?」
「頼んだぜ、たまさん」
へススからも頼まれてしまうたまさん。
「んもう、分かったよ。見てくればいいんでしょ」
たまさんが嫌々自動防衛システムの方へそろりそろりと向かって行く。
「ヤーイヤーイ、ムッツリスケベ」
「ななな何だよ!」
やはりたまさんも自動防衛システムからの罵倒を受けている。
「ココニ来ル前、女ノオッパイチラチラ見テタダロ」
「もしやジョーンのことか?」
ヘススが自動防衛システムの言葉に反応した。
何故かは分からないがたまさんの味方をしてくれないようだ。
「男として当然なんじゃない」
こちらもひっちが味方しているかどうか分からないような反応を見せた。
「イイ子チャンブッテモ、ムッツリスケベハ隠セテナイゾ」
「そこまで言うか、ってひぃああああ!」
自動防衛システムに狙われたので、たまさんはすぐさま射程外へと逃げ出した。
「かずやんとだーいしの悔しさがよく分かるよ……」
「だろー」
「屈辱の極み」
自身も自動防衛システムにコケにされたので、たまさんはかずやんとだーいしの辛さを身をもって知ることになった。
「次はおれだな」
「ひっち、頼んだぜ」
「おうよ、ヘスにゃん。そんじゃんま、行ってみっか」
ひっちは何故か
「今度ハバカタレガ来タカ。コノ、ノータリン」
「のーたりんって何だ?」
「バカッテコトダヨ、バーカバーカ」
「おれはどの位バカなんだ?」
ひっちは堂々とした態度で自動防衛システムに質問している。
「測定シテヤロウ。オ前ハ地球、イヤ銀河デモ有数ノ……、ガガガ、ギギー、測定不能。トンデモナ、イ……」
ついに自動防衛システムは音をあげて壊れてしまった。
「流石はひっち!」
「やった、ひっちがおバカすぎて壊れたんだ!」
ヘススとたまさんがそれぞれ歓喜の声をあげた。
「今何かバカにされなかった?」
「そそそそんなことないぜ、なあだーいし」
「偉業である」
かずやんが
だーいしもだーいしで堂々と切り返した。
「ここで一発かますとするか! たまさん、手榴弾を!」
「分かりました!」
ヘススとたまさんがドアの方目掛けて手榴弾を投げ入れる。
その次の瞬間だった。
突如ジョーンからの通信がヘススに入ってきた。
「大変よ、奴らが非常口から逃げていくわ! ごめん、思ったより抵抗が激しくて反撃しきれなかった」
「マジかよ! こっちはさっき手榴弾を投げたばっかりだぜ」
ジョーンが通信して間もなく手榴弾の爆発音が聞こえてきた。
「奴らはどこへ向かってるんだ?」
「港の方よ」
「分かった、すぐに奴らを追いかける」
今度は逃げていくマフィアたちへの追撃が始まる。
一行が港に着いた頃には、マフィアたちがすでにボートに乗り換えていた。
ボートの上ではマフィアたちがサムズダウンをしている。
「あいつら、逃げる時だけ偉そうにしやがって!」
かずやんの言葉は最もだった。
しかしこのままというわけにもいかないので、何とかしたいところだ。
「それにしても、この距離からどうするんですか?」
「そうなんだよな」
たまさんの質問にヘススは答えが出せずにいた。
そんな時だった。
ひっちがセイントキャノンを握って興奮している。
「おおおおっ、来てる、来てるぞ」
「え、何が?」
「セイントキャノンが輝き始めた」
たまさんとだーいしがひっちとセイントキャノンの変化を見ていた。
セイントキャノンが白銀色の美しい輝きを強めていた。
はっきり言ってひっちにはまるで似合っていない。
「ひっち砲は、腰だめで撃つ!」
ひっちがセイントキャノンを腰に当て、構える。
何だか腰つきがいやらしく、明らかに意識しているような腰の振り方をしている。
「腰に当ててるだけなんだよなぁ」
かずやんがあきれ顔でツッコミを入れた。
「来た来た来た!」
セイントキャノンのチャージが完了した。
ひっちがセイントキャノンをマフィアたちのボート目掛けて照準を合わせる。
「ひっち砲発射、ズキューーーーン!」
セイントキャノンから一条の巨大な光線が放たれる。
その光芒は逃げるボートを瞬く間に飲み込んでしまった。
そして爆発、マフィアたちのボートは跡形もなく消え去ってしまった。
「うっひょー、すげー!」
「これが、セイントウエポンの力……」
ひっちもだーいしもその凄まじい力に驚きを隠せない。
「皆さん、無事ミッションが終了したみたいですね」
「クリスたそ! どこにいるん?」
クリスの声が聞こえてくる中、ひっち過激団はクリスがどこにいるのか探していた。
「私はそちらの世界にはいません。今から皆さんを呼び戻します」
「俺たちは元の世界に戻るってことか?」
「そういうことです。では、いきますよ」
かずやんの問いにクリスがあっさりと答える。
そして次の瞬間、ひっち過激団は光に包まれていった。
気が付くとひっちの家の前に戻っていた。
「あれ、結構時間が経ったはずなのにまだ明るい」
「ディメンションワールドで過ごした時間はこちらの世界の時間には干渉しないようになっています」
「つまり、こっちでディメンションワールドに入った時間に戻れるってことですか?」
「はい」
たまさんとクリスは時間についての問答をしていた。
話を聞いているひっちはよく分かっていないのか、難しそうな顔をしていた。
「まあ、何にせよこれでミッション終了なんだろ?」
「かずやん、これで全てというわけではないぞ」
「そりゃ分かってるって」
かずやんとだーいしも緊張がほぐれたのか、
「ご心配なく。次のミッションが発生しましたらまた連絡します」
「クリスたそ、よろしく頼むよ」
ひっちもひっちでミッションが終わって上機嫌になっていた。
「やることやったし、一旦休憩でもするか」
「「「さんせーい」」」
ひっち過激団はやり終えた達成感に包まれながら休息を取ることにした。
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