クリスとディメンションワールド

 ひっち、かずやん、だーいし、たまさんの四人はランニングをしていた。

 彼らはひっち過激団として活動している。

 と言ってもただ集まってたむろしているだけなのだが。

 そんな彼らはのどかな雰囲気の道をゆっくり走っていた。

 

 ひっちの家まで戻ってきた四人。

「こんなことで息をあげているようじゃ、はぁ、はぁ」

「ひっちが一番疲れてるじゃねえか!」

「帰宅部故致し方なしか」

 かずやん、だーいしから返しを受けてしまうひっち。

 特にだーいしからは部活動マウントを取られる始末だ。


「ねえ、ひっちってあんなおっきいフィギュア買ったの?」

「買ってないよ」

 たまさんがおもむろにひっちへ質問した。

 確かにひっちの家の目の前には等身大の巨大フィギュアと思しき物体があった。

 そのフィギュアはピンク髪セミロングの美少女でメイド服を着ており、何よりひっち好みのボンキュッボンであった。


「しかしよく出来てるなあ」

 かずやんが近づきながらフィギュアを見ていた。

「ひっちなら欲情しかねないな」

 だーいしも手を顎に当ててフィギュアを観察している。


「おおおっ! すーぱー可愛いぼいんちゃんだ~!」

 だーいしの発言通りに欲情の表情をひっちが見せる。

「ぼいんちゃんいっただっきまーす!」

 我慢できなかったのか、ひっちはたまらずフィギュアに抱きつこうとした。

「ぶへらっ」

 ひっちは頭をハリセンで叩かれてしまった。

 そして、そのまま地面に倒れ伏してしまう。


「いきなり何ですか? 変態さんですか?」

「その通り過ぎて文句が出ないぜ、ってあれ?」

「しゃ、しゃべった!」

「ただのフィギュアではないということか!」

 かずやん、たまさん、だーいしが動いてしゃべったフィギュアに対して思い思いの感想を口にした。


「皆さん初めまして、私はクリスと申します。ご覧の通りアンドロイドです」

 みんながフィギュアだと思っていた彼女は淡々と自己紹介をした。

「おお! おれとイチャイチャするために来たのか!」

「違います。私は助けを求めています」

 ひっちの言葉を遮るように即答するクリス。

「助けって?」

「ディメンションワールドを救って欲しいのです」

「ディメンション、ワールド?」

 たまさんがクリスに質問を返す。


「私たちが管理している多元世界のことです。最近このディメンションワールドで異変が起きていまして、どうか世界を救って欲しいのです!」

 クリスが切実な思いをひっち過激団に伝えた。

「とは言ってもなあ、あまりにも現実離れしてるぜ。クリスだったかな。あんたのことだってそうさ」

「かずやんに同じく」

 かずやん、だーいしはクリスの話に対してあまり乗り気ではない。

 得体の知れないことに対して当然の反応と言える。

「なーんだ、楽しそうじゃん!」

 対するひっちは嬉しそうにしていた。

「それにお前ら、目の前でカワイ子ちゃんが困っているのだぞ! それをほっとくというのか!」

 そしてひっちは他のメンバーに檄を飛ばしていた。


「あっ、そういえばクリスたそに自己紹介してなかったわ。おれはひっち。ひっち過激団の大佐だ!」

「自称大佐だろ。俺はかずやん、ひっち過激団自称中佐だ」

「だ―いしだ。ひっち過激団の自称少佐だ」

「たまさんです。ひっち過激団の自称大尉です」

 ひっち過激団のみんながおもむろに自己紹介を始めた。

 一応階級が付いているが、特に機能はしていない。


「話を戻しますが、仮に行くにしても僕たちは普通の人間です。特別な能力の類は持ち合わせていませんよ。それなりの対抗策というものはあるのですか?」

「それならこちらに」

 たまさんの質問に呼応するかのように、クリスが白銀に包まれた光から武器を取り出した。

「クリスたそ、これは?」

「セイントウエポンです。必ずやあなた方をお守りするでしょう」

 輝きを放っているセイントウエポンにひっち過激団は興味津々だ。


「まずあなたにはこれ」

 クリスがひっちに『セイントキャノン』を手渡した。

 白銀の長い砲身からはかなりの威力が期待出来そうだ。

「おおっ、かっちょいい!」

 セイントキャノンを受け取ったひっちは大喜びだ。


「あなたにはこれ」

 クリスがかずやんに『セイントサイズ』を手渡した。

 なぜサイズがセイントなのかは不明だが、白銀の鎌が美しく輝く。

「これは中二心をくすぐられるぜ!」

 セイントサイズを受け取ったかずやんはとても満足している。


「あなたにはこれ」

 クリスがだーいしに『セイントサーベル』を手渡した。

 白銀の鞘に納められているものはかなりの業物であることを想像させる。

「これは、サーベルというより日本刀なのでは?」

「『セイントサーベル』だもん」

「そそそそそうか、それは失礼」

 クリスがぐずり始めたので、だーいしは自身の意見をひっこめてセイントサーベルを受け取り、その場を収めた。


「あなたにはこれ」

 クリスがたまさんに『セイントガン』を手渡した。

 一見するとただの白銀の拳銃に見えるが、その真価はいかがなものか。

「これなら僕にも使えるかもしれない」

 たまさんは手渡される武器がデカくて重たいものでないことに安堵してセイントガンを受け取る。


「僕たちはこれでディメンションワールドに行く……ということなのでしょうか?」

「そうです」

 たまさんの疑問にクリスが答えた。

「そして僕らは何をすればいいんでしょうか?」

「それはこちらをご覧下さい」

 クリスがどこからともなく大型のスクリーンを取り出した。

「どっから出したんだ? これ」

「ハイテクの成せる技ということなのか……」

 かずやんとだーいしがびっくりしている。


 そんな二人を尻目にクリスは説明を始める。

「この画面にディメンションワールド内の世界が表示されているのですが、この画面の中で点滅している場所がありますね。ここは今皆さんが行ける世界です。そしてその世界で様々なミッションを行っていただきます」

「ゲームみたいで楽しそうではないか!」

 ひっちだけが圧倒的に楽観的な様子を見せている。


「今はミッションが一ヶ所だけですが、進めていくうちにミッションを行う世界が増えたりすれば同時進行ってことも考えられるんですか?」

「ご名答、そうなります」

 クリスはたまさんの質問に淡々と回答していった。

 たまさんが渋い表情をしている、何か考え事があるのだろう。

「もしそうなら、各ミッションごとの指標が欲しいですね。そのミッションの緊急度と重要度が分かるような指標が。例えば重要度3とか数値で指標を示してくれればありがたいです。そうすれば優先順位をつけてミッションに臨むことが出来ます」


「おお、流石たまさん! んで何言ってんの?」

「それは後でひっちに教えよう」

 たまさんの提案を聞くも、ひっちにはよく分かっていなかった。

 だーいしが後でフォローしてくれるらしい。

「承知致しました。データに反映させます」


「ちょっと待った!」

 かずやんが遮るように待ったをかけた。

「せっかくなら難易度もつけて欲しいね。どうせやるなら簡単なのがいいぜ。めんどくさいのはごめんだからな」

「承知致しました。データに反映させます」

 クリスがこれまた事務的な対応でシステムの改善を行っていく。


「ねーねークリスたそ」

「何でしょうか?」

「おれたち異世界に行くんでしょ? 異世界行くならチートとかくれないの?」

 ひっちの唐突過ぎるおねだりにクリスは固まってしまった。

 厚かましいにもほどがある。

「贅沢言うなコノヤロー! つべこべ言わずに世界を救ってこい!」

「「「「うわあああっ」」」」

 スクリーンの画面に吸い込まれるように入っていくひっち過激団。

 クリスの怒りと共に、ディメンションワールドへとひっち過激団は送り出されることとなった。

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