ひっち過激団

たたみや

序章

「ねえたまさん。ちさちゃんの連絡先まだー?」

「ひっち言ったじゃん、その子には彼氏がいるって……」

 高校生二人が自転車を押しながら下校している。

 長身ツンツン髪でやや痩せ気味の男の子と猫毛で小さめなやや細身の男の子の二人組だ。

 ひっち―引田ひきたあつしがたまさん―玉名たまな省吾しょうごに我がままを言い続けていた。

 しかも、彼氏がいる女の子の連絡先を入手して欲しいという難題だった。

 ひっちはその長身で身振り手振りを絡めながら話をしていた。


「いやだー、ちさちゃんのばつぎゅんスタイルはおれのもんだー!」

「そんなん言われても、倫理的にアウトだよ」

 とにかく駄々をこねるひっち。

 たまさんがどんなに言葉を重ねてもひっちは聞き入れようとしない。


「後ろで話聞いてたけど、ひっちのもんじゃないだろ……」

 後ろからかずやん―大西おおにし和也かずやがやって来た。

 ひっちやたまさんと比べて筋肉が多そうな体をしている。

 髪型がウルフカットなせいなのか、ひっちやたまさんより若干チャラい印象を受ける。

「たまさんはとんだ災難に巻き込まれたってわけだ」

「ほんとだよ、友達に根回ししてた僕の身にもなって欲しいよ」

「でももらえていないじゃん、連絡先」


「なんで彼氏持ちの女の子がよく知らない男に連絡先を教えるのさ!」

 たまさんが至極真っ当な答えをひっちに返す。

 やや早口気味だ。

「おれがちさちゃんとあんなことやこんなことして問題があるのか?」

「あるの! 大ありなの!」

 たまさんもしつこいひっちに律儀に付き合っている。


「どうしたみんな、恋バナか?」

「そんな可愛げのある話じゃないわ、こりゃ」

 かずやんが思わずぼやく。

 最後に現れただーいし―石田いしだ秀樹ひできがよく分かっていない感じで入ってきた。

 鍛えられた体は今いるメンバーの中で一番体格がいい。

 スポーツ刈りと相まってスポーツマンっぽい外見だ。

 他の三人と同じく自転車を押しながら歩いている。

 四人は揃いにそろってイケメンとは言い難い、ただのフツメンだ。


「おお、だーいし! ちさちゃんのばつぎゅんスタイルがだなぁ……」

「よく分からんが、英雄色を好むということか? ユリウス・カエサル、チンギス・ハーンなど数多あまたの英雄が女好きなのは良く知られているところだ」

「ひっちが英雄なら世界中みんな英雄だわ!」

 だーいしが本気なのかふざけているのかよく分からない質問と語りをしてきた。

 かずやんがたまらず鋭いツッコミをかます。


「やはり青春というものは大切にせねばな」

「そんな大それた話じゃないんだけど……」

 だーいしに対してたまさんが軽いツッコミを入れる。

「えー、ばつぎゅんスタイルばつぎゅんスタイル」

「ひっちはちさちゃんじゃなくてもいいんだろ! ぶっちゃけ!」

「わー、もう訳分かんないよ!」

 かずやんはツッコミが忙しく、たまさんはヘンテコな会話に頭を抱えている。

 こんな感じで彼らの日常は過ぎ去っていく。

 そう、あの日が訪れるまでは。

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