第24話 意味深な言葉
夏樹が想う初恋相手と、自分自身を比べるような素振りをみせる春花。それはまるで、恋する乙女がヤキモチを抱くような光景。この気持ちを落ち着かせるため、彼女はそっと深呼吸をして夜空を見上げた。
するとそこには、満天の星空がとても綺麗な輝きを魅せる。そんな美しい情景を名残惜しそうに、目的を終えた二人は神社の境内を後にする。こうして感慨深く歩いていると、いつもの待ち合わせ場所に辿り着く……。
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「今日は、誘ってくれてありがとう。すごく楽しかったよ」
「私の方こそ、夏樹くんには感謝しなきゃだね。お土産や夜景まで見せて貰ったんだから」
金魚と縫いぐるみを軽く持ち上げ、春花は嬉しそうに微笑みかける。そこから窺えたのは、子供のような無邪気な笑顔。
「そう言ってもらえると、僕も嬉しいよ。それにしても……こんな気持ちになるなんて、何年ぶりなんだろう。たしか、はーちゃんと夏祭りを楽しんだ以来かもね」
「はーちゃん?」
懐かしむように、昔の記憶を思い出す夏樹。しかし、その聞き慣れない名前に春花は不思議そうに問いかける。
「うん。幼い頃の話だから、もう随分と昔のことになるかな」
「もしかして、さっき話をしていた女の子?」
「そう。その時は、すごく楽しかったんだよなぁー」
「そっかぁ…………」
当時の様子を満足げに話す夏樹だが、これを受けた春花は切なげにそっと囁きかけた。
「んっ? どうしたの」
「別に、何でもないよ」
先ほどまで微笑んでいたかと思えば、今度は突然にも思い詰めた表情を浮かべる。こうした憂い悩む姿は今に始まった訳ではない。けれども、最近はさらに感情を滲ませることが多くなった。
それは好意を寄せている表情ではなく、なにかが押し迫った危機的な雰囲気。この様子を夏樹はいつも不思議に思いながらも、 あまり深く考えず春花を見守っていた。
「ところで、夏樹くんはこの後、なにか予定でもあるの?」
色々と屋台を見て回った二人ではあるも、今日はいつもより随分と時間が早い。このまま帰宅してもいいが、なにやら春花は名残惜しそうな雰囲気。夏樹へ予定を問いかけ、帰りたくない素振りを見せる。
「まあ、予定を聞かれれば、これといって特には何もないけどね」
「ほんとに? だったら、これから何処かに行ってみるなんてどう?」
春花は期待に満ちた眼差しを向け、気持ちを高ぶらせて嬉しそうに話す。この様子から察するに、どうやら何か目的があるようだ。しかしながら、その目的がなんなのかは見当もつかない。それでも夏樹は嫌な顔ひとつせず、快く承諾するのであった……。
「そうだな……じゃあ、久しぶりに、いつもの喫茶店でも行ってみない?」
「喫茶……店?」
毎日のように通っていた
「どうしたの春花? なんだか様子がおかしいけど、マスターと何かあったの?」
「ううん、そんなことじゃあ……ただね」
夏樹の問いかけに、春花は歯切れの悪い返答をする。どうやら、喫茶店には何か問題があるようだ。
「ただ?」
「なんでもない、単にお腹がいっぱいなだけ」
春花は何かを誤魔化すように、咄嗟にお腹を擦る仕草をして答える。だが、それは夏樹の目には不自然に映った。おそらく喫茶店に行きたくない理由は、別にあるのだろうと推察してみる。
といっても、理由について思い当たる節はなく、無理に聞き出すことも
「だよねー。焼きそば、いか焼き、りんご飴。屋台の定番は、ほとんど食べ歩いたもんね」
「もしかして、まだお腹がすいてるの?」
「いや、じゃなくてね、久しぶりに寄ってみようかなって思っただけ」
「ごめんね、喫茶店は色々と落ち着いてから、また一緒に行きましょう」
どこか意味深に伝わる春花の言葉。その表情からは、何かを隠しているようにも窺えた…………。
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