第23話 すれ違う心の想い
懐かしい思い出の場面を振り返りながら、夜空を眺め感慨にふける夏樹。その心情を汲み取る春花は、切なげな横顔を傍で見守った……。
「でも、それは過去のこと。今はどうしてるかさえ分からないんだけどね」
「私も同じ気持ちよ。初恋は実らないって、よく言うものね」
春花はどこか寂しげな表情で、そっと夏樹の肩へ触れ合うように身を寄せる。
「うん。けどね、どうしても忘れることができなくてさ」
「そうなんだね……」
人が行き交う神社の境内を眺める夏樹は、当時の記憶をたどり想いの言葉を漏らす。
「だからね、心の中では新たな恋を見つけたい。そんな気持ちはあるんだけど、この想いが邪魔をして、一歩前に踏み出せない自分がいるんだ」
「もしかして夏樹くんって、ずっとその子のことを想っていたの?」
上目遣いで顔を覗き込むように問いかける春花。この様子が照れくさかったのか、夏樹は視線を逸らしゆっくりと口を開く。
「そう、今まで誰とも付き合ったことなんてない。情けない話だよね」
「そんなことなんてない。私がその子だったらすごく嬉しいよ」
春花は真っ直ぐな瞳で見つ合い答えた。その仕草に鼓動が高鳴る夏樹は、少し戸惑いながらも話を続ける。それはまるで、初恋のように初々しく恥じらいを見せる姿だった。
「とにかく、こんな気持ちのままじゃ、好きになった相手にも失礼だろうし。早くこの想いを伝えて、清算しないといけないんだよなぁ……」
「好きになった相手? 初恋の人じゃなくて」
思わず漏れ出る夏樹の言葉に、引っ掛かりを感じた春花は不思議そうに問いかける。
「――いっ、いや、今のは何でもない。ただの独り言だからね、気にしなくてもいいよ」
「そうなの?」
慌てて否定する夏樹だが、春花はどこか納得のいかない様子で首を傾げていた。
「うん。春花には関係のない話」
「ところで、清算ってことは、その子には何も伝えてないってことだよね」
夏樹の言い回しに違和感を覚えた春花は、疑問に思ったことを素直に尋ねてみる。
「そう。色々と探してはみたけど、どこにもいなかったよ」
「自宅とかは知らないの?」
「もちろん知ってるさ。でも、すでに引越しをしたあとだったよ」
「そっかぁ……まあでも、やれるだけの事はしたんだから、しょうがないよね」
「そうだね。今はまだ気持ちの整理ができていないけど、いつか一歩前に踏み出せたらいいかな」
「その意気込みが大切だよ。だとしたら、私も夏樹くんと同じようなものね」
「僕と同じ?」
「ええ、私もずっと初恋の人が好きだった。だから、今もこうして一人でいるのよ」
春花は夜空に輝く星々を見上げながら呟いた。表情はどこか切なさを滲ませて、寂しそうにも見える。しかし、その仕草がとても美しいと感じた夏樹は、思わず見惚れてしまうのであった……。
「そうだったんだ。じつは、この話をするのは初めてだったからさ、少し不安で
夏樹は穏やかな口調で素直な気持ちを打ち明ける。そんな偶然にも重なり合う境遇に、二人は語り合い心に残る思い出の共感を得る。
「想いは同じかぁ……でも本当は、過去なんてどうでもいいの。叶わない想いだけど、私は……目の前にいる夏樹くんのことが……」
頬を赤く染める春花は、瞳を潤ませながら夏樹を見つめる。その表情は恋する乙女そのものであり、とても愛らしく思えるほどだ。とはいえ、こうした移りゆく想いはどこか儚げで、少しだけ俯き囁くように話す。
「んっ、僕の事がどうかしたの?」
「いっ、いいえ。なんでもないわ」
春花は漏れ出た声が聞かれたのかと、慌てて顔を上げ両手を振って否定する。その仕草はどこか不自然であり、動揺は隠しきれていない様子。といっても、
けれども、聞こえれば意味を問われ、聞こえなければ想いは届かない。そんな春花から窺えたのは、切なそうに思い悩む姿であった…………。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。