第22話 過去を想い馳せる2人

 夜空には満天の星空が広がりを魅せ、煌びやかな光が幻想的な雰囲気を醸し出す。そんな夜景を眺める二人は、肩を並べるように空を見上げて静かに佇んでいた。この光景を目にした者は、誰もが思うだろう。


 それはまるで恋人同士の逢瀬のようだと……。しかし、二人の関係は友達以上恋人未満。こうした静かな夜風が吹く中――。春花は身体を預けるように寄り添い、夏樹を上目遣いで見つめる。


「えっ、夏樹くんにも好きな人がいたの?」

「それって、どういう意味よ」


 失礼とも思える発言に、夏樹は不満げな表情で聞き返す。その反応に、春花はクスッと笑みをこぼして答えた。それは、まるで悪戯っ子がするような仕草である。


「だってね、夏樹くんって他人にあまり興味がないじゃない。てっきり私は、好きな人もいないのかと思ってたの」

「まぁ、否定はしないけど。僕にだって、一人ぐらいはいるよ。と言っても、小さい頃の話だけどね」


 春花から視線を逸らす夏樹は、何かを思い浮かべ遠くを見るように呟く。その横顔には、どこか切なさが滲み出ていた……。


「小さい頃? だっ、だよねー」

「んっ? どうしたの」


 夏樹は春花の態度が気になり、不思議そうな眼差しを向ける。


「いいえ、なんでもないの。それよりも夏樹くんの初恋って、どんな感じだったの? 嫌じゃなければ、教えて欲しいなぁー」

「まぁ、僕も春花の話を聞いたからね。別に少しだけならいいよ」


 あまり乗り気ではない夏樹ではあるも、春花からのお願いに仕方なく応じる事にした。


「ほんとに?」

「でも、ちょっとだけだからね」


「うん、ありがとう」

「じゃあ、話すけど。まあ、見た目は可愛いかったかな? でも、ちょっとね」


「その反応からすると、何か問題でもあるの?」

「問題というか、とにかく性格が男勝りでさ、何に対しても豪快なんだよ。言葉にすると難しいんだけどね」


 話を聞いた春花は驚いた様子で聞き返すと、夏樹は更に状況を事細かに伝えた。


「豪快かぁ……。なんかそれを聞いてると、夏樹くんがクールだから正反対の二人みたいだね」

「そうなんだよ。一緒にいる時なんか、嫌がらせばかりしてくるからね」


「嫌がらせ? もしかして、男の子が好きな子にする悪戯のようなもの?」

「よく分かんないけど、そんな感じかもしれない」


 夏樹は幼い頃に味わった苦い思い出を振り返りながら答えた。すると、春花は興味津々な眼差しで問いかける。


「それって、どんな嫌がらせなの?」

「嫌がらせというか、楽しんでるというか。いつも棒で犬の糞を刺して、僕に見せてくる遊び。その反応が面白いみたいでね」


 当時の出来事を鮮明に思い出す夏樹。その表情は、とても苦々しいものだった。


「えっ、なにそれ? その子って、ひどいね」

「でしょ。ほんと、あの頃は大変だったよ」


「でも……どことなく、私が小さかった頃の出来事によく似ているけど」

「そんな訳ないって。春花とその子じゃ、似ても似つかないよ」


 春花は聞かされた相手と自分の過去が、どこか似ていると感じ不思議に思う。しかし、夏樹は即座に有り得ないと否定するのであった。


「そうなの?」

「うん。とにかく口は悪いし、やることは粗暴。ゴリラみたいな感じだったからね」


「ふふっ。ゴリラって、少し言い過ぎじゃないの。でも、初恋の子だったんでしょ。だったら、なぜ?」

「まあ、そうだったんだけどね。その子はいつも明るく前向きで、真っ直ぐな性格だったんだよ。だから僕は……そんなとこが凄く好きだったのかも知れない」


 夏樹は過去を懐かしむように、遠くを見つめながら切なそうに答える。こうして夜空に浮かぶ星々が見守る中、二人は静かに夜景を眺めながら語り合った…………。

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