第16話 大きなモニュメント
夏樹が春花にどうしても見せたい場所。そこはジャングルのように木々が密集しており、人通りも少ない本殿裏。ゆえに、たどり着くには一苦労だが、雑木林を抜ければ素敵な景色が眺めるという。
「春花は知らないだろうけどね。そこからだと、景色だけじゃなく花火も綺麗に見えるんだよ」
「へぇーそうなの」
「そう、僕がボールを探しに行ってね、偶然見つけた場所……」
「ボール?」
何かを想い馳せるかのような素振り。夏樹は少し離れた本殿を眺め、切なそうな表情を浮かべた。これを心配そうに思う春花は、そっと寄り添い横顔を窺いながら見つめる。
「あっ、いや、今のは僕の独り言だから気にしなくていいよ。それよりも、道中は少し狭いから離れないようにね」
「うん、分かった」
景色もそうだが、花火も境内から眺めれるというのは初耳だ。一体なぜ、そんな場所を知っていたのか、春花は怪訝な顔つきで夏樹の傍を歩く……。
「そういえば、春花は知ってた? 僕達が出会ってから、花火の日でちょうど四九日目なんだよ」
「そうなんだ、日にちまで覚えてるんなんて凄いよね」
「でしょ」
「だけど、あれからそんなにも経つんだね……」
夏樹へ称賛の言葉をかける春花。とはいっても、雰囲気から窺えたのは悲しげな表情。小さな声で囁くと切なそうに俯いた。
「でも、まさかこうして一緒に夏祭りを過ごすなんてね」
「私もよ、夏樹くんと出会っていなかったら、今もせわしなく仕事をしていたかも知れないね」
こうして過去を懐かしむ二人は、目的の場所へ向けてゆっくりと歩いていく……。
✿.。.:*:.。.ꕤ.。.:*:.。.✿【場面転換】✿.。.:*:.。.ꕤ.。.:*:.。.✿
ほどなくして、お勧めの穴場にたどり着く二人。雑木林を抜けると、そこには雄大な景色が広がっていた。それは心を魅了するほどに、街が一望できる眺めのいい絶景。
この光景に、春花は言葉を失い唖然と佇む。ところが、周辺一帯は闇夜に包まれ景色は眺めれそうにもない。けれども、街の建物から漏れ出る光、広告照明の明かり、街路灯が照らす灯り、それぞれが綺麗な輝きを放っていた。
まるでそれは、一つの大きなモニュメント。美しい集合体の夜景として、春花の瞳へ鮮やかに映し出す。
「きれい……すごく綺麗、私こんなの初めて」
「良かった、喜んでもらえて」
余韻に浸る二人は、ふと上空を見上げる。そこは雲一つない澄みきった空。光り輝く無数の星が、月のように明るい星降る夜。
夜空からは幾つもの流れ星が微かな光の尾を残し、鮮やかに飛び交い消えていく。そんな神秘的な光景が、果てしなく広がりを魅せていた。
「夜景も綺麗だけど、夜空もとても素敵。夏樹くん本当にありがとう、来てよかったわ」
「僕の方こそ、春花の笑顔が見れて嬉しいよ」
春花は夜景や夜空を眺め感慨に浸る。そして過去の出来事を思い馳せながら、夏樹の身体にそっと身を寄せた……。
「少しぐらい……いいよね」
「春花……うん、いいよ」
春花は身を任せ顔を胸元へ当てる。その可愛らしい姿に、夏樹は思わず両手で身体を包み込もうとした。そんな時――、春花はふと何かを思い出す。
「そうだわ!」
「あっ」
「んっ、どうかしたの?」
「いや、その、僕のことよりも突然どうしたの」
突如として上体を起こし、春花は顔を見上げた。これに動揺を見せる夏樹は、気まずそうに苦笑いをする。
「だからね、もう随分と時間が経つじゃない。もしかしたら、射的屋の店主さん困ってるんじゃないかと思って」
「なるほどね。けど、どちらかといえば喜んでると思うよ」
夜景と夜空を贅沢なほど堪能した春花。射的屋の店主を気遣うも、それはあり得ないと夏樹は伝える。とはいえ、あまり長く預けて置くのも好ましくないだろう。こう思う二人は、屋台が連なる参道へ向けて歩きだす…………。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。