第15話 2人の願い事

 景品を射的屋の店主に預け、あてもなく夜店を見て歩く二人。すると――、突然立ち止まる春花は、夏樹の手を取りにっこり微笑んで見せた。


「そうだ。せっかくだからね、一緒になにか願い事でもしない?」

「願い事っていっても、お礼参りはまだ先だよ」


 理由もなく、思いつきで神頼みをしようと話しかける春花。しかし、夏樹はあまり乗り気ではないのだろう、事情を説明しながら拝殿とは別の方向に進路を向ける。


「いいから、いいから。そんな事なんて、気にしないの」 

「ちょっ、ちょっと――」


 ところが、春花は半ば強引に拝殿へ誘う。これにはさすがの夏樹も仕方なく、言われるがまま目的の場所を目指し歩きだす……。



    ✿.。.:*:.。.ꕤ.。.:*:.。.✿【場面転換】✿.。.:*:.。.ꕤ.。.:*:.。.✿


 

 ほどなく歩き、拝殿前にたどり着く二人。賽銭箱の前に立ち止まると、顔を見合わせ願い事を考える。


「えっと、なにをお願いしようかなぁ……。もしかして、夏樹くんは何か決めてるの?」

「いや、特には決めてないけど」


 そういいながらも、思い巡らせ賽銭箱に金銭を供える二人。拝殿の天井から吊り下げられた鈴緒を手に持ち、本坪鈴ほんつぼすずをゆっくりと振り鳴らす。


 こうして神拝を済ませた二人は、再びあてもなく歩く。そんな中、突如として何かを思い出す夏樹。高揚した表情を浮かべると、ゆっくり春花へ歩み寄る。


「そうだ、春花にぜひ見せたい場所があるんだけど、これから一緒に行ってみない」

「うん、別にいいけど」


 この神社に来たのは初めてのはず、なぜ夏樹はそんな場所を知っているのであろう。春花は不思議に思いながらも、浴衣の袖を掴み後をついていく……。


 やがて本殿近くまで差し掛かかると、なにやら落ち着きなく周囲を見渡す春花。早歩きで少し前を進んだかと思えば、急に夏樹の前に立ち止まり顔を覗き込みむ。


「さて、質問です。夏樹くんは、さっき何をお願いしたのでしょうか」

「はぁ、なに言ってんの? しゃべったら願い事にならないじゃん」


「えぇーそんなこと言わずにさぁ、少しぐらい教えてくれてもいいでしょ」

「――ったく、しょうがないよなぁ」


 春花は身体を揺らめかせながら問いかけ、夏樹は困った顔つきで受け応えた。


「ほんとにいいの?」

「いいも悪いも、聞きたいんでしょ」


「うんうん、それでそれで」

「僕が拝殿で願ったのはさ、春花は偶に悲しそうな顔をするじゃん。だからね、いつも笑顔でいて欲しいって、そうお願いしたの」


 興味津々な様子で覗き込む春花。上目遣いで見つめる姿に、夏樹は照れくさそうに視線を逸らし話す。


「なるほど、笑顔ね。って、私いつも暗い顔をしてるの?」

「いや、そこまでじゃないんだけどね。それよりも、春花はどうなの?」


「私はね、夏樹くんがこれからもずっと一緒にいてくれたらいいのになって」

「えっ、それってどういう意味?」 


「ふふっ、それはね、秘密だよ」

「また、そうやって自分だけ」


 少しだけしゃがみ込む春花は、指先を口元へ当て薄っすら笑みを浮かべる。そして見上げるように見つめると、夏樹にそっと寄り添い話しかけた。


「ふふっ」

「…………」


 そんな可愛らしい春花の姿に、夏樹は頬を赤く染め俯くのであった…………。

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