第14話 横顔を見つめる恍惚とした表情

 真剣な表情で銃を握りしめる夏樹。この凛とした面持ちに、春花は横顔を恍惚こうこつとした表情で見つめた……。


 重なりながら触れ合う二人の指頭しとう。春花は右手の指先を添えて、夏樹は左手の指先を絡め合う。こうして引き金を手繰たぐり寄せるかのように、照準を合わせ狙い撃つ――。


 ところが、放たれたコルク玉は先程と同じく緩やかなもの。これをニヤリと眺める射的の店主。そんな変わらない状況に、春花はうつむき諦めようとした。


 その瞬間だった――。


 目の前に見える光景は音もなく静まり返り、周辺の状況は緩慢かんまんとした雰囲気に様子を変える。そこから窺えたのは、時間でも止まったかのような、ゆっくりと過ぎ行く時の流れ。一体何が起きたのか、動揺の素振りを見せる春花。


 この状況に、夏樹はそっと掌を握りしめると、優しく横顔を見つめ囁きかけた。


「大丈夫だよ、僕を信じて」

「夏樹……くん」


 すると――、どこからともなく吹き抜ける青嵐せいらんの風。


 新緑の香りを乗せたやや強い風は、後押しするかのようにコルク玉を加速させた。そして弾丸の如く一直線に突き進み、標的に触れるや否や高く打ち上げられ弾き飛ぶ。こうして景品台から倒れ落ちるくまのぬいぐるみ。


 どんな状況であろうと、景品が取れた事には変わりはない。まさに三度目の正直とも思える光景。もしかしたら、祭神に二人の願いが通じたのだろう。暫く啞然と佇んでいた店主も、現実を受け止め我に返る。


「やった! やったよ、夏樹くん」 

「あぁ、良かったじゃん」


 夏樹の両手を握りしめ、嬉しそうに何度もその場で飛び跳ねる春花。

 

「うん。夏樹くんのお陰だよ」


「とほほ……これは店の目玉。じゃが仕方がない、運も実力のうち。ほれ、姉ちゃん持っていくといい」


 項垂れた射的屋の店主は、未練たらしく渋々ぬいぐるみを手渡そうとする。


「おじさん、そのことなんだけどね。一つお願いしてもいい?」

「なんじゃ? 商品を変えてくれと言われても、目玉はこれしかないぞ」


「ううん、そんな事じゃなくてね。じつは、もうちょっとだけ夜店を見て回りたいの。だけどね、持ったままだと大変でしょ」


「そうじゃのう。――んっ、ということは?」

「そのぉ、言いにくいんだけどね、少しの間だけでいいから預かって貰えないかしら」


「おっ、おう。そんなことでいいなら別に構わんから、ゆっくり見て回るがいい」

「ほんとに?」


「ああ、ほんとじゃよ」

「良かった、これでもう少しだけ色々と見て回れるわ」


 軽く頭を下げながら、断られる覚悟でお願いをしてみる。この言葉に、店主は断るどころか快く承諾を受けた。


「儂も良かった、これでまた客が呼び込める。むふっ、むふふっ」


「「えっ?」」


「あぁー、何でもない。独り言じゃから気にするな」


 意味深な言葉を囁く店主。その様子を不思議に思いながらも、二人は本殿へ向けて歩きだす…………。

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