第13話 触れ合う指先……。

 客寄せ金魚が取れたことに喜びを見せる春花。数にして、蘭鋳らんちゅう一匹に通常の金魚が十匹。このように沢山取れたのは、少なからず夏樹の指導によるもの。しかしながら、それが全てではないかも知れない。


 というのも、春花から窺えたのは、真剣に向き合う姿勢。教わった通りの素直なポイさばき。そして、自らが持つ運も実力のうち。こうした純粋な気持ちが、幸運も引き寄せ結果に繋がったのだろう……。



「おじさん、そんな悲しい顔しなくても大丈夫よ。私はこの蘭鋳らんちゅう一匹だけでいいから」

「せっかく捕ったのに、なんでじゃ?」


「だって、死んじゃったら可哀想だもん」

「そこまで言うなら引き止めんが、ほんまにええんか?」


「うん。大丈夫よ、気にしなくても」


 春花はお椀の中へ蘭鋳らんちゅうだけを残し、他の金魚は全て元の場所へ逃がしてやった。


「どう夏樹くん、凄いでしょ」

「うん。確かに助言していたとはいえ、客寄せ金魚を捕るなんて凄いよ」


 得意満面な表情で話しかける春花。


「それじゃあ、今から私が先生ね」

「はいはい、先生」


「素直でよろしい」

「それよりも、その蘭鋳らんちゅうって、アレだよね」


「あれ?」

「うん。なんかね、ぷりっとしてるとこが春花に似てて愛嬌あるというか」


 蘭鋳らんちゅうを見つめ頬を緩める春花に対して、夏樹は金魚を指差し皮肉を言う。


「もうーそれを言うなら、可愛らしいって言ってよね!」

「あはは、冗談だよ。ごめんって」


 こうして二人は、楽しそうに会話をしながら夜店を何件か眺め歩く。


「あっ、春花先生。今度は、あの射的なんてどうでしょうか」

「射的かぁ……よし、だったら私に任せなさい」


 ほどなく歩いていると、前方に懐かしの射的屋を発見する夏樹。少し頭を下げ、エスコートした態度を見せた。これを合わせるかのように、春花は手を取り悠々と店舗に向かう。


「おじさん、一回お願いできますか」

「――あいよ。じゃあ、コルク玉3発な」


 店主からコルク玉を受け取る春花は、慣れない銃を構え持つ。その様子を夏樹は傍でそっと見守った。


「どれにしようかな? せっかくだから、あの大きなぬいぐるみがいいわよね」


 受け取ったコルク玉を銃に詰め込む春花。ゆっくり狙いを定めると、対象の品に銃口を向けて引き金を放つ――。


「あぁー姉ちゃん残念じゃのう、もうちょいじゃったのに。じゃが安心せい、次は大丈夫じゃと思うぞ」

「なるほど。簡単に見えたけど、これって結構難しいのね」


 心にもないことを煽るように語りかける店主。これを気にすることなく、春花は同様の手順で再び引き金を引いた――。


「あぁーこれも残念、もう一息じゃ。あと少しで倒れるんじゃないかのう」

「やっぱり……景品を変えた方がいいのかなぁ」


 春花は最後のコルク玉を手に取り切なそうに呟く。その様子を見ていた夏樹は、そっと近づき優しく手を添える。


「大丈夫だよ。僕と一緒に撃てばね、必ず春花の欲しいぬいぐるみは倒れるよ」

「夏樹くん……」


 夏樹は耳元で優しく囁きながら、春花へ寄り添い一緒に狙いを定めた…………。


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