第10話 縁結びの神様

 突然の父親との死別、幼馴染との別れ。


 こうした切ない過去を背負い、笑うことさえ忘れかけていた夏樹。けれども、春花と出会ったことで徐々に笑顔を見せ始める。そして、今では心の底から微笑むまでになっていた……。。


「これなんかどうだろう? うーん、ちょっと地味かなぁー」


 両手を広げては容姿を確認し、何度もその場で一周する。その光景は、まるで恋する乙女のよう。幾つもの浴衣を取替えながら、ようやく準備が出来た夏樹。


 玄関の扉を開け、ゆっくりと外へ出る。すると――、偶然にも隣人の秋月とばったり出会う。外見は同じような浴衣姿、どうやら夏祭りに向かうらしい。


「こんばんは。秋月さんも夏祭りに行かれるんですか。じゃあ、もしかしたら何処かで出会ったりするかも知れないですね」

「なっ、なるべく会わないようにします……」


 秋月はいつものように奇妙な言葉を呟き、前を向いたまま少しずつ後退する。この奇妙な素振りや言葉も浮かれているせいか、夏樹は気にすることなく心躍こころおどらせながら待ち合わせの場所へ向かう…………。



    ✿.。.:*:.。.ꕤ.。.:*:.。.✿【場面転換】✿.。.:*:.。.ꕤ.。.:*:.。.✿



「あれ? まだ来てないや。少し早く着いたみたいだな」


 約束した時間の十分前にたどり着く夏樹。しかし、コンビニ前へ到着するも春花はまだ来ていない様子。


「それにしても、相変わらず白山比咩しらひめ神社の祭りは多いよな。こんだけ人がいたら、縁結びの神様も大変だろうに」


 周囲を見渡せば、沢山の人が楽しそうに夏祭りの場所へ歩いていた。


 この状況をしばらく眺めていたが、約束の時間を過ぎても一向に現れる気配がない。まあ、女性は何かと準備があるのだろう。そう思う夏樹は、仕方なくぼんやりとした顔つきで佇む。すると――、後方から息を切らせた春花が声をかける。


「はぁ……。はぁ……。ごめんね、夏樹くん。どの浴衣ゆかたにしようか、色々と迷っちゃって」 

「――ったく。春花が遅れないでって、言ってなかったっけ?」


 唇を尖らせ、不満げな様子の夏樹。呼び掛けながら、ゆっくり春花の方を振り向くと……。


「あっ……」

「やっぱり、似合ってなかったかしら?」


 少しだけ口を開く夏樹は、浴衣姿を見つめ硬直する。この反応に、軽く両手を広げ自らの容姿を確認する春花。


「いや、そんなことなくて。すっ、すごく綺麗……」

「えっ、と……あのね、そんなにもストレートに言われると、少し照れるんだけど」


 思わず心の声が漏れ出てしまう夏樹。その意外な言葉に、春花は頬を赤く染め恥ずかしそうに俯くのであった…………。


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