第3話 怯えた浪人生 

 玄関先へたどり着く夏樹は、ドアノブに手をかけ外へ出ようとする。ところが、建付けでも悪いのか、思うように扉を開くことが出来ずにいた。それは経年劣化のせいもあるのだろう。


 しばらく上下に揺れ動かしながら押し出してみると、少しだけ隙間ができた。その扉は壊れそうな音がするも、気にする事なく力任せに押し開ける。


 すると――、年季の入った扉から軋む音が周囲へ鳴り響く。それはまるで、映画のワンシーンに出てくる幽霊屋敷のようであった。


 夏樹は時間を取られながらも、コツを掴んだのだろう。ほどなくして、どうにか外へ出ることができた。そこへ偶然にも出くわす浪人生。おそらくコンビニでも行っていたに違いない。手に持つ袋からは、雑誌とスナック菓子が見え隠れしていた。


「こんにちは、買物の帰りですか?」

「えっ、何々!? もしかして、ゆぅっ――、ゆっ」


 軽く頭を下げて、隣人へ挨拶をする夏樹。その状況に、浪人生は驚いた表情を浮かべ、後ずさりした素振りを見せる。


「ゆ? あのぅー、どうされましたか? ひょっとして、どこか具合でも悪いんじゃないですか?」

「おっ、お、俺のことはいいですから、話しかけないで貰えますか」


 気遣う夏樹の言葉に対して、失礼な態度を見せる浪人生。何かに怯えた様子でそそくさと自らの部屋へ戻る。


「なんだよ、愛想のない。それにしても、僕のことを見て驚くなんて、失礼な人だよな」


 浪人生が入っていった部屋を見つめ、ムッとした表情で呟く夏樹。しばらく佇んでいると、後ろの方からも声が聞こえてきた。


「フギャッ――!!」

「――んっ?」


 突然、動物の奇声に驚く夏樹は、後方に身体を向ける。そこには、毛と尾を逆立てた猫がいきり立つ声で鳴いていた。


「なんだよ。僕に驚いたんじゃなくて、猫にビックリしたんだな」

「フゥッーー!!」


「おぉーよしよし、そんなに怒らなくても大丈夫だぞ。――な、いい子だから、こっちにおいで」

「フギャッ、ギャ、ギャ、ギャーー!!」


 夏樹は軽く開いた掌をゆっくり猫へと近づけるも、懐くどころか慌てて土を掻き分け逃げる猫。


「はぁー、お前まで……。ちょっとぐらい触らせてくれてもいいじゃんか」


 素っ気無い猫の態度に、溜息混じりに呟く夏樹。だが、気を取り直して目的の場所へと向かう…………。



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