第2話 後世! ワタクシ、今度こそ幸せになって見せますの!

 時にオルーシャ帝国歴 215年。

 前世と同じく帝国は周辺国家に対し、宣戦布告。

 侵略戦争を開始した。

 しかし、今度は大帝の思い通りにはさせない!


「ねぇ、レネーチカレオニード。今日のドレスは、どうかしら?」


「エリザヴェータ妃殿下、今は今後の方針対策の会議中でございますよ?」


 帝国歴217年、ワタクシエリザヴェータは十三歳。

 まだまだ前世の豊満なボディには程遠いのだけれども、立派にレディ。

 その魅力的な姿と美貌で幼馴染のレオを誘惑するのだが、今一つ反応が悪い。


「ねぇ、レネーチカ? ワタクシには魅力が無いのかしら? そりゃ、前世みたいに豊満になるのは後四年程は必要だけれども」


「ふぅ……。今日は事情を全て知っている配下しかいないから良いけど、迂闊な発言は『死亡フラグ』だよ、リーズニャ?」


 女の子みたいに可愛い童顔を苦笑で台無しにするレオ。

 でも、そんな顔をするのもワタクシにはたまらない。


 ……だって、折角二人とも同じ時代に同じ自分で出会えたんですもの!


 ワタクシがレオと再会したのは六歳の時。

 まだ、その頃は前世記憶も無く、女の子みたいで可愛いレオの事が大好きになっただけ。

 今思えば、レオとワタクシは必ず巡り合う運命だったのだろう。


「そりゃ、僕も前世記憶があるから、君の今後成長する美しい姿は知っているし、今も、み、魅力的なのは確かさ」


 ……八歳の頃、ケンカをしてお互い頭突きしたのが、前世記憶を思い出した切っ掛けだったのよね。


 ゴッツンとぶつけ合ったとき、お互いの頭から火花が出たように感じた。

 そして激しい痛みと共に、前世記憶が全て思い出された。


「へぇ。やっぱりレネーチカはワタクシに惚れてくれているのね。前世記憶を思い出した時の情熱的なキスは、今思い出しても嬉しかったわ」


「ちょ。あの時の事はノーカン! 前世記憶にすっかり飲み込まれて暴走しちゃっただけだよ!」


 女の子でも通りそうな色白な為か、可愛い顔が耳まで真っ赤にして恥ずかしがるレオ。

 その顔を見られただけでも、ワタクシは「満腹」だ。


 ……お互い、前世の思いをぶつけあって情熱的なキスをしたのよねぇ。まあ、八歳児では、その先は無理だったんだけど。残念よねぇ。今じゃ、前世通りの真面目っ子だから、キスすらも時々しかしてくれないのぉ。


 ワタクシはレオを揶揄からかいつつ、周囲の配下たちを見回す。

 彼らはワタクシやレオに突き従い、父様。

 大公閣下に反逆し、クーデターを実行してくれた忠臣たち。

 今も、ワタクシとレオのイチャコラな痴話げんかを苦笑しつつ、暖かい眼差しで見守ってくれている。


「では、冗談はこのくらいにしましょうか。ワタクシのワガママで皆様にはご迷惑をお掛け致しますが、今後の大公国。ひいては世界を守る為にご協力をお願い致します!」


 ワタクシは表情を他所行き、お貴族姫様モードに切り替え忠臣たちに頭を下げた。


 ……たかが十歳に満たない子供の戯言を信じて、今まで付いてきてくれた彼らを労うのは大公家を率いる者の勤めですわ! しかし、ワタクシのご先祖様が異世界人と接触していたのは、今になれば幸運でしたわ。


 二年弱程前、前世よりも早く異界の知識が詰まっている本、「異世界ペディア」を書庫の奥深くから発見し、解読をしたワタクシとレオ。

 それを元に大公領内の改革を始めるも、保守的で頭の固い父様。

 大公ウラジスロフ2世が邪魔をしてきた。


 ワタクシに対し「女の子がそんな事をしなくても良い。全てワシに任せておけばいいのだ」と言い張るので、隠居させるべく行動を開始した。

 そして、同じく国を憂う若者や老騎士など仲間を集いクーデターを実施。

 父様を隠居の身に追いやったのだ。


「あらあら。流石はお姉さまの娘なのね、リーズニャちゃんは。貴方、別に良いじゃない。若い力に任せてみましょう」


 なお、義母であり母様の従妹になるジーナ様は弟のユリアンを抱いたまま、ワタクシのワガママを笑ってくれた。


 もちろん、ク―デターは無血。

 父様を取り囲んで、レオや忠臣、更にワタクシが帝国からの危機。

 更には世界の問題を突きつけ、どう解決していくのか問い詰めたら、もう勝手にしろと逃げたというだけだ。


 別に蟄居ちっきょとか座敷牢に放り込んだりはしていないし、表向きの国家代表は父様のまま。

 実務・実権をワタクシが取り上げただけの事だ。

 今や国政の大半はレオや忠臣たちによって執り行われている。


 ……ワタクシも分かる範囲ではお仕事お手伝いしているわ。だって、大事な国民が苦しんでいないか心配なんだもの。


「じゃあ、リーズニャ。いよいよ国境地帯での殲滅作戦を実行するんだね」


「ええ、まもなく始まります初戦で帝国軍を撃破してしまいますわ! 皆さま、参りますわよ。えいえいおー!」


 ワタクシは、はしたないと思いつつもときの声を上げた。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「で、なんで前線までキミが来ているの、リーズニャ!?」


「それは、ワタクシが総指揮官なのですから、ですわ! ですわよぉ、レネーチカ!」


 国境に迫る大軍を前に、ワタクシは強化ベトンコンクリート造りの指揮所コマンド・ポストから双眼鏡で敵軍を確認する。

 既に偵察部隊からの魔法通信、空中飛行ゴーレムからの映像により敵の現在位置・構成及び総数は判明済みだ。


「そりゃお題目では、確かにキミが総大将だよ。でもね、女の子が前線に出てくるのは違うと思うんだけど?」


「でも、実際に戦ったらワタクシの方が貴方よりも強いですわよ? 後、男性は美しい姫に声援をされたら喜ぶでしょ? うふん」


 ワタクシは前線に赴く為に、特注な白銀色ドレスアーマーと先祖代々伝わる剣を装備してきている。

 頭部にはサークレット型ティアラも装備し、完璧な姫騎士モード。


 しかし、華奢で女のコ顔なレオは、部分的に金属補強されている皮鎧の装備が精一杯。

 剣も護身用の小剣がやっとだ。


「そりゃ確かに僕じゃ、今でもリーズニャには剣の腕で勝てないけど……」


「でもね、レネーチカには誰よりも高い智略、そしてワタクシや皆に対する愛があるの! 愛無き戦士は只の暴力にすぎませんですの! しかし、レネーチカは愛の戦士ですわ!」


 戦場かつ周囲の目をはばからず、ワタクシはギュッとレオを抱きしめる。

 そして呆然としている隙を狙ってチュとキスをした。


「さあ、レネーチカ。いえ、軍指揮官トゥーラ伯爵、レオニード・マカーロヴィチ・マシュコフ。ワタクシ、公女エリザヴェータ・ヴラジスラーヴォヴナ・ペトロヴィナの名のもとに命じます! 貴方の総力を持って敵を殲滅しなさい」


「御意! 全軍、行動を開始!!」


 顔を真っ赤にしていたレオ、ワタクシが公女としての顔で命を下すと真面目、かつカッコいいオトコノコの顔で受諾してくれた。


 ……さあ、皇子イヴァン。今度は、ワタクシの肌には指一本触れさせませんですわ! ワタクシのハジメテは、全てレネーチカのモノなのよぉ。


 ワタクシは内心で「うわぁぁ。レネーチカがカッコいいのぉ」と悶えながら、戦端が開かれるのを感じた。


「敵第一陣、国境突破を確認。騎馬騎士、騎馬弓兵を中心とした機動部隊です」


「まだだ。十分に引き付けてから攻撃を開始するのだ。各員にタイミングを待てと連絡しろ!」


 魔法通信札や水晶球を通じて各部署からの命令・情報が司令部に入ってくる。

 それに対し的確に指示を飛ばすレオ。


 また黒板には戦場の全体地図や高空写真などが貼り付けられており、随時敵の動きが変更されて書き込まれていく。


「ここにいましたら戦場の動きが全て見えますわね。異世界の知識、恐るべしですわ」


「こんな画期的な方法を実行できるようになったのは、キミのおかげだよ、リーズニャ。僕は前線では戦えない。でも、後方から戦う皆を支援し、戦いやすくすることは出来るんだ。あ、第一トーチカに連絡。中に人が要るのを敵に気が付かれるな!」


 「異世界ペディア」、そこには軍事、戦術、戦略。

 そして多くの科学技術に文学、神話、流行りの歌。

 多くの物が無数に書かれており、ワタクシが気軽に使う『死亡フラグ』などの用語や転生、単位系なんかの概念もここ由来。

 前世最後に使った二種類の毒での暗殺方法も、ここに元アイデアがあった。


 ……本って言っているけど、本体はマジックアイテム。読み人の要求に答えて色々教えてくれるらしいわ。前世も、そして今回もレネーチカが全部解読して、その技術を実現してくれたの!


 地図によれば、敵の第一陣が数キロも国内に進行してきている。

 ベトンで作ったトーチカ群の横を既に通過。

 まさか丸い石つくりの窓もない建物が、自分達を襲うモノなどとは思っていないのだろう。


「報告。まもなく敵主力歩兵部隊が国境を通過。そのまま前進してきます。その背後に牛で引かれた大砲及び投石機を確認しました」


「分かりました。まだ砲撃はしません。先行部隊が鉄条網地帯に脚を踏み入れ次第、遠距離砲撃で片付けます」


 ワタクシ、テキパキと命令を下すレオの横顔を見て惚れ直す。

 いや、更に惚れた。


 ……前世では、父様。馬鹿真面目に騎士団に騎士団をぶつけちゃったのよね。数が向こうの方が多いし、騎馬兵が最大の効果を出せる平原で勝負するのは、馬鹿なのよ。


 戦争では戦士の矜持や騎士道なんてものは、邪魔になる。

 数の勝負、事前にどれだけ準備をしてきたか、科学技術の勝負。

 ワタクシ達がこれから行使する「鉄の雨」の前には、鎧も盾も無意味。

 等しく死の雨に撃たれるのだ。


「報告! 最前線が鉄条網地帯に接触。騎馬兵の脚が止まりました!」


「報告! 主力部隊の一部がブービートラップを発動。数か所にて爆発を確認」


「報告! 大砲輸送部隊が大型地雷を踏み、爆発。国境付近で立往生になってます」


 飛び込んでくる報告にて、敵が「罠」にハマった事が確認された。

 ワタクシはこちらを見たレオに対し、頷く。

 そして命を下した。


「レオニード、総攻撃を命令しますわ!」

「御意! 榴弾砲群、初弾を試射。着弾確認後、問題が無ければ全力砲撃にて敵を殲滅せよ!」


 ワタクシたちの更に後方。

 高台に十数機、準備されている榴弾砲。

 それらが全て火を噴いた。


「砲撃の効果を確認後、各トーチカ及び塹壕から射撃にて残存兵を撃て! 全て生かして返すな」


 後は、殲滅戦が開始されるだけ。

 後ろにも前にも逃げられない帝国軍は、あっという間に総崩れとなった。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「くそぉ。オマエらには騎士の、戦士の矜持が無いのかぁ。あんなものが、聖なるいくさであるはずがないのだぁ!」


「ワタクシは女の身ですもの。そんな男のロマンなぞは知りませんですわ、おほほ」


 帝国軍は壊滅し、二割以上が国境外にチリチリバラバラになって逃げていった。

 一部の物は銃弾、砲弾の雨を突破しようとしたものの、誰も生きて鉄条網を突破できなかった。


 戦闘終了後、戦場の真ん中に残されていた何枚の盾の下。

 更に騎士たちの躯の下で庇われていた皇子。

 ワタクシの兵は彼を発見、捕縛してくれた。


 そして、今。

 ワタクシやレオの前にて、彼は情けない姿をさらしている。


 ……前世では相打ちが精一杯でしたが、今回は一方的勝利。ホントなら今回も顔を踏みつけたいのですが、周囲の目がありますから我慢ですの!


「ガキ共がぁ。俺を殺せば父が、大帝や帝国がお前らを許さないぞ!?」


「ええ、その事はよく分かっていますわ。前回もそうでしたし」


 命が惜しいのか、自分を殺せば帝国そのものが襲いに来ると脅すイヴァン。

 前世においてワタクシの死後。

 攻め込んできた大帝を相打ちで討ち取った話は、レオに詳しく聞いている。


 今回、ワタクシ達は全面戦争を帝国に仕掛ける気は無い。

 ワタクシ達の装備に、他国への遠征用の兵器はほとんど無い。

 まだ異世界で言うところの「自動車」は未開発なのだ。


 ……もう一回、大帝陛下を罠に引きずり込むのは、後々が面倒そうだもの。様は、ウチが今後侵略されなければ良いんだもん。


「前回? 一体何をいう、メスガキがぁ!」


「あら、前は稀代の美女とかワタクシの事を言ってましたのに、残念ですの。ワタクシ、まだまだ成長しなくてはならないのですね。あ、今の貴方には関係ない話ですわ、おほほ!」


 ガキ扱いされたので、つい頭にきて挑発してしまうワタクシ。

 確かに前世享年の十七歳は、まだ四年も未来。

 今のワタクシは、やっとレディの始まりを迎えたのみ。

 まだまだ、胸のふくらみは発達途上なのだ。


「姫。こんな愚か者の言葉に惑わされる事は無いです。私にとって姫は最高の美女にございます!」


「ありがとう、レオニード。では、皇子イヴァン。貴方には捕虜となってもらい、捕虜交換の際に帝国へ停戦の処理をしてくださるのをお願いしますわ」


「俺に生き恥を晒せと言うのかぁ! このクソガキ共がぁ」


 捕虜、虜囚として本国への送還を命じたイヴァン。

 縛られている縄を振りほどき、ワタクシに飛びかかろうとする。


「貴方、死ぬのが怖いのでしょ? それとも、死ぬのより苦しい罰、拷問を受けたいのでしょうか? あ、そういえば『あの本』にありましたわね。布と水を使った拷問が」


 ワタクシは剣を抜き、イヴァンの顔に向けて剣先を突き付ける。

 そして拷問を受けたいのかと脅しをかけた。


 ……こいつ、騎士の遺体の下で震えあがり、失禁していたと聞いてますの。本当は死ぬのが怖いはず。前世でも最後まで死にたくないって、死に際に暴れていましたものね。


「姫。あれは傷跡が残りませんが、精神的には死にかけますよ? まあ、本人がお望みなら私も躊躇しませんが」


 ワタクシに合わせてレオも、その童顔を無理やり怖い顔にしてくれる。


「ひぃぃ。わ、分かった。俺はお前たちに従う。だから、拷問や命を奪う事だけは……」


「ええ、ワタクシ。泣き叫ぶ弱者を痛ぶる趣味はありませんですわ、おほほ!」


 ……本当は、顔をハイヒールで踏みつけてやりたいけど我慢しますの。


 その後、皇子を捕虜交換の形で送り返したワタクシ達。

 帝国とは、不可侵条約を締結させる事に成功した。


 帝国も派遣軍のあまりもの被害、更にどんな方法で負けたのすら分からないため、大公国を襲う事の危険を実感したらしい。

 逆に自分達の国が侵略を受けるのを怖がったとも、ある筋から伝えられている。


 ……帰国後、皇子イヴァンが大帝陛下に泣きながら恐怖を語ったのが効果抜群みたいだったらしいと、レネーチカ配下の『スパイ』からの情報にあったのは、笑ってしまったわ。


 ・

 ・・


 城内にあるレオの寝室。

 そこにワタクシは、夜這いを掛けている。


「さあ、レネーチカ。もうワタクシ達の愛を邪魔する者はいませんですの。今晩こそ、愛を育みましょう!」


「ちょ、リーズニャ! 僕たちは、まだ成人前! キス以上の行為には早すぎるってぇ」


 ワタクシは、今晩も薄い夜着でレオを誘惑する。

 まだ女の子みたいに華奢なレオ。

 ワタクシの方が武術では、今も上。


 それでも、ワタクシを。

 国を守る為に智略を駆使して戦ってくれたスーパーなマイダーリン。

 それが、レオニード・マカーロヴィチ・マシュコフ。

 今や昇格しトゥーラ伯爵であり、全軍指揮官でもある。

 ワタクシ、絶対に今度こそ彼とは離れない!


「ワタクシの事が嫌いになったの、レネーチカ?」

「僕はキミの事は大好きだよ。でもね、まだ早すぎるよぉ」


 城内を夜着で逃げ回るレオ。

 それを追いかけるワタクシ。


「たすけてくださーい、姫様ぁ!」

「せめて今晩も添い寝はしてもらうのぉ! ワタクシのワガママを聞けないのかしらぁ」


 今日も大公国は平和。

 ワタクシとレオの幸せは、この先も続く。


「あれぇぇ」

「捕まえましたわ、レネーチカ。ワタクシの脚の早さに勝てるとでも思いましたの?」


 今晩も城内にレオの悲鳴が響く。

 ワタクシはレオを肩に担ぎ、そのままレオの寝室に入った。


「大丈夫。痛くしませんわ」

「それ、男の台詞だよぉ」


 ワタクシはよだれを夜着の袖で拭い、レオを抱き枕にして寝る。

 今晩も幸せな夢を見る事を願って。


 めでたし、めでたし。

 とっぴんぱらりのぷう。

 どっとはらい。

(完結)

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ワガママ公女妃殿下は、今度こそ幼馴染のスパダリに溺愛される(短編版) GameOnlyMan @GameOnlyMan

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