『ヴァンパイア駆除員』から抜粋

@asashinjam

『ヴァンパイア駆除員』

ヴァンパイア保護区は我が国でも10か所以上存在しており

ヴァンパイア駆除員が警備を担当している。


ヴァンパイアと言うと吸血鬼をイメージする。

ブラム・ストーカーの吸血鬼は子供ながらに恐怖を煽るが

現代では吸血鬼は差別用語になっているらしい。

気にしている者は大分少ない。

ヴァンパイアを人間と同じように見ている者は超少数派であり

ヴァンパイアの人権活動家は犯罪者と同格に見られている。

今やヴァンパイアは共謀な獣と同格である。


しかしヴァンパイア保護区は面食らった。

ヴァンパイア保護区と外を区切るのはフェンスのみである。

これはどういう事なのだろうか?

警備員に聞くと『ヴァンパイアは保護区から外に出ない』との事である。

私は首を傾げながらも今回の取材に応じてくれた

ヴァンパイア駆除員のA氏(仮名)の出迎えを受けた。


A氏は歴戦の戦士の風貌をしている男でマシンガンで武装していた。

私は早速A氏の一日に密着する事になった。

一日に密着と言ってもA氏の一日は遅い、 基本的にヴァンパイアは夜行性であり

昼間に出歩く事はないのだ。


「とは言え気楽なもんですよ」


A氏はにこやかに話した。

勝手なイメージなのだがてっきり常に警戒しているかと思ったが

そうでは無いらしいい。

A氏と私は夕方の街を歩きながら話していた。


「ヴァンパイアは漫画みたいな超能力は持ってませんが

人間以上の身体能力や感覚を持ち血を吸う事で仲間を増やします

しかしながら連中は大した事無いですよ

紫外線に弱いから日中は出歩けず

更に強い感覚を持っているから強い匂いには耐えられません」


ニンニクが弱点というのは本当の様だった。

ではやはり銀の弾丸が弱点?


「殺すには銀の弾丸かホワイトアッシュの杭を胸に打ち込むのがベターですが

銃弾もかなり効きますよ、 ヴァンパイアは再生能力は有りますが

弾を内部に取り込んだまま再生すると甚大なダメージを受けますので

摘出しようにも再生するので外科手術を受けられなくて

鉛の毒で死ぬヴァンパイアも珍しくありません」


鉛の毒が死ぬのですか?


「えぇ、 先程も言いましたが感覚が鋭敏なので

毒物に対しての耐性は人間よりも低いです

車の排気ガスですら敏感な者には猛毒になります

この街では基本的に自転車か路面電車での移動になりますよ」


なるほど、 しかしながらこれ程までに強力な存在が

人間の地位を脅かさないのが不思議でなりません。

何故地球はヴァンパイアの天下にならなかったのですか?


「それはヴァンパイアの種族的な致命的欠陥が有るのです、 っと失礼」


A氏の携帯に連絡が入った。

近辺でヴァンパイアが暴れているらしい、 A氏は現場に急行した。


現場は一軒家でヴァンパイアの少女が女性を襲って血を吸っていた。


「メアリ!! 止めるんだ!! あ、あぁAさん!!

待って下さい・・・これは・・・」


男性が必死に叫ぶも、 A氏は躊躇なく少女の心臓を撃ち抜いた。

少女は灰になって消え去り、 ヴァンパイアとして

起き上がった女性もA氏は撃ち抜き女性も灰になった。


「あぁ・・・メアリ・・・メアリ・・・」


男性はその場で膝から崩れ落ちた。


「だから言ったんだスティーブ、 こんな生活は上手く行かないって」

「うぅうう・・・」


男性は応援に来たヴァンパイア駆除員に連れられて行った。

さっきのは一体?


「スティーブ、 って言うのはさっきの男の名前です

因みは彼はヴァンパイアです

襲われていたのはキャトレイ、 スティーブの嫁です」


と言う事は今撃ったメアリと言うのは・・・


「スティーブとキャトレイの娘です

ヴァンパイアと人間の混血は珍しい話じゃなく

産まれた子供が人間の親を殺すのも珍しい話じゃありません」


これには筆者も驚きを隠せなかった。

何故子供が親を?

家庭環境に問題が?


「これが先程言ったヴァンパイアの種族的欠陥です

彼等は長期の記憶保持が出来ないのです」


長期の記憶保持?


「えぇ、 平たく言えば忘れっぽいのです

子供なんか特にその傾向が強いのです

そしてヴァンパイアにとって人間は食料だと本能的に考えています

『ちょっとお腹すいたから手頃な人間を食べよう』

その程度の認識で親を殺します、 また社会性も低く

家族以外のヴァンパイアを嫌う傾向にあります」


と言うと?


「先程も言いましたがヴァンパイアは血を吸う事で数を増やすので

ヘタをすると人類全員ヴァンパイアになってしまう

その為、 ヴァンパイアは家族以外は嫌い合っているか

強弱による隷属関係しかありません」


要するに間引きでしょうか?


「かもしれませんね、 基本的にヴァンパイアは人間社会とは相性が悪い

人間は群れで行動しますから単独の強者なんて物の数ではありません

何なら通常の狩りと同じ様な物です」


なるほど。

では先程の家族は・・・


「私は奥さんを止めたんですけどね

ヴァンパイアと人間のカップルは人間の死亡率8割を超えますし

しかし奥さんの方は『ヴァンパイア差別だ』とかなんとか」


ヴァンパイアを守る人権活動家も何時の間にか居なくなりましたね。


「その事件ならば単純ですよ

思う存分血を吸って良いと誤解したヴァンパイア達が好き勝手して

それを咎められて激怒して活動家がやられたというだけの話です

奴等の記憶力の低さを甘く見たという事ですね

恐らく都合の良いように解釈したんでしょう」


しかし先程の旦那さん、 スティーブさんでしたが

まるで人間のように思えましたが


「アイツ、 メアリの事ばかり言っていたでしょう?

キャトレイの事を大分忘れていたんですよ

さっさと離婚すれば良かったのに

『慰謝料とかいう金がかかる』とかでやらなかったんですよ」


スティーブさんは罪に問われますか?


「重過失致死罪が適用されますが

ヴァンパイア達はヴァンパイアの刑務所に送られます

そこではヴァンパイア達は日夜殺し合うので実質死刑ですよ」


刑務官は止めないんですか?


「即座の殺処分じゃないだけマシでしょう」


A氏の顔には憤りが有った。

些細な金を惜しんで奪われた命がある。

何と言う事だろうが・・・



A氏によるとヴァンパイアによる殺しは一月に有るか無いかである。

とは言え揉め事は日常茶飯事である。


「この街には大量の監視カメラが配備されています」


確かに過剰なまでの監視カメラだ。

これもヴァンパイアから人々を守る為?


「いえ、 連中は監視カメラすら忘れますよ

これは寧ろ人間がヴァンパイアを襲わない為です」


人間がヴァンパイアを襲う、 と言う言葉で思い出した。

ここはヴァンパイア保護区だった。


「ヴァンパイアが人権活動家を襲った事件の後に

ヴァンパイア達が人類に対して戦争を起こしました

しかしながら先程言った様にヴァンパイアは社会性が殆ど無く内部分裂

更に言うならヴァンパイアは刺激に弱く、 ニンニクすりおろしを浴びせられたり

催涙スプレーでも死に至ります、 銃弾でも大ダメージなので

ヴァンパイア達との戦争は人類の圧勝でした

ヴァンパイア達との被害よりもその後の方が問題でしたね」


ヴァンパイア保護区の設立ですか?


「それはあっさりと通りました、 希少動物の保護は皆さんお好きですから

それよりも問題はモラルの崩壊」


モラルの崩壊?


「人間に近しい生き物をどんどん殺しても良いとなるとモラルが壊れます

分かり易く言うなら一人撃ったら二人目から引き金が軽くなると言う事でしょうか」


何となく分かります。


「この街で一番の問題点は街の中心部のギャングですよ

ヴァンパイアに対策する為に銃は必須ですから

その銃の中には横流しされる物もあります

その横流し品を使ってギャングをする輩が居るんですよ」


それは・・・何というか・・・需要はあるんですか?

こんな町でギャングなんて


「さぁ? 人に言えない事をするのに場所は関係無いでしょう

私はヴァンパイア駆除員ですのでそういう事は警察の仕事でしょう」



A氏の勤務時間が終わり、 彼と食事を摂った。

ヴァンパイア駆除員は国に雇われているがバイトに近いらしい

給料はそこそこ良いらしいがA氏はプロフェッショナルに見える。

そんな仕事で良いのかと私は問うた。


「さっきも言いましたがモラルの崩壊で

最近の犯罪率の上昇は半端ないですからね

ヴァンパイア保護区みたいな所は寧ろ外よりも犯罪率は低いですから

半引退がしたいならここはベストですよ」


A氏は笑った。


―テミナミジャーナル、コラム『ヴァンパイア駆除員』から抜粋-

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