教師近藤と教師になった理由

 近藤は、なぜ教師になったのでしょうか?

 その答えは次の通りです。例えば小学生は、学校での格好は私服が多かったり、昔と違ってランドセルは好きな色のものを選べるようになっていたりしますし、高校生も、制服の学校が中心だったりで制約はたくさんあるものの、成人が近くなりできるようになることが増えるといった面もあります。その間の中学生が、最も管理されていて、本人の意思で決めたり行えたりできる事柄の範囲が狭いと言えると思います。とはいっても、別に大人たちは意地悪でそうした環境にしているわけではなく、その時期は不安定で非行に走るなどの問題行動を起こしやすく、それが後の人生にも大きい影響を及ぼしかねないということでやっているのでしょう。けれども、リスクがあっても若者にできる限り何でも自分でやらせることで得られるものは多大にあるはずだし、成長期で多感なときのその締めつけが従順なだけのつまらない人間にしてしまったりするおそれもある、という考えから、普段一見するとわがまま好き勝手やっているようですが、他の大人や、何よりも子どもたちに、自由や権利の大切さを身をもって伝えるために、教育者、なかでも中学校の教師に、なる決心をしたのです——。

 という話を、大学生の蒲池恵はこれまで何度か外部から聞いたのですが、そのたびに憤りを感じます。

 なぜならば、その近藤が教師になった理由は、恵が考えたからです。

 どういうことかといいますと、恵は近藤が勤務している学校で中学時代を過ごし、彼が担任のときもあったのですが、ある日近藤が当時の受け持ちのクラスの生徒全員に、自分が教師になった訳を考えさせて、それを作文のテーマにして提出するように指示し、恵が書いたのが今の内容だったのです。その後何日か経ってから、近藤が彼女のところにやってきて「採用」と一言だけ口にし、恵は「は?」と何のことやらわかりませんでしたけれども、友人や知人を通じ、近藤が教師になることにした有力な説として自分が記したものを耳にして、ようやく理解できました。要するに、近藤は己が教師になったかっこいい理由が欲しくて、たくさん書かせれば良いものがあるだろうと思ったのか、生徒皆に考えさせたなかで、恵のが選ばれたのです。それにしても、せめてちゃんと説明を行うとか、感謝を言うことすらなく、彼女が一生懸命頭も時間も使って執筆したものを平気な顔で頂戴したというわけです。

 あの男は教師の風上にも置けない。それ以前に人間として最低で、私はああは絶対にならない。

 恵はそう思うのでした。

 そんな彼女は現在憂鬱です。

 理由は、恵は大学で教職課程を取っており、母校、それもにっくき近藤のもとで教育実習を行うことになってしまったからです。

「あ」

 今、母校に足を踏み入れた彼女は、前方に近藤の姿を見つけました。

 思わず恵は苦笑いを浮かべた、本人としては「はず」でしたが、その瞬間を偶然目にした、別々の場所にいる二人の生徒はともに、彼女が嬉しくて微笑んだようにしか見えなかったのでした。

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おかしなおかしな教師近藤 柿井優嬉 @kakiiyuki

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