教師近藤と抜け目のなさ

 近藤が働いている中学校で、とある昼休みに、生徒たちのなかにこのような会話がありました。

「おい、近くでテレビのロケをやってるぞ」

「うそ。何の番組?」

「わかんないけど、旅番組みたい」

「マジで? 見にいこうぜ」

 男女数人のコたちによるその現場を、一人の女性教師が目撃しており、彼らに声をかけました。

「もう授業が始まるから行くのはよしなさい」

 すでに昼休みの終了時刻になっていたのでした。

 しかし、生徒たちと注意した女性教師との間にけっこうな距離があったり、教師の彼女は怖い人ではなかったこと、加えてそのコたちは皆やんちゃなタイプだったために、構わず学校の外のほうへ向かっていってしまいました。

「お前、映っても、ピースとかダサいことすんなよ」

「は? やんねーし」

「今言われたからやめようって思ったんでしょ?」

「ちげえよ」

「キャハハハ」

 そんなふうに浮かれていた彼らでしたが、反対に外から校舎に入ってきていた男子にロケについて知っているか訊くと、こういう答えが返ってきました。

「それなら、もう遠くへ行っちゃったよ」

「えー」

「何だよ、くそー」

 生徒たちは肩を落としました。

 すると、そこに近藤がやってきて、言いました。

「残念だったね。さあ、おのおの自分の教室に戻った戻った」

 授業をサボりかけていたことよりも、がっかりしている生徒をおもんぱかる、素敵な先生といった振る舞いをした結果、大人からすると扱いづらいと感じる面もあるそのコたちですが素直に従って、丸く収まることとなりました。

 けれども、あの近藤が生徒を連れ戻すためだけにわざわざ足を運んだりなどするはずがありません。

 その証拠に、声をかけられた生徒たちは近藤と関わる機会が少なく、なじみがなかったので指摘しませんでしたが、彼は普段着用することはまったくない、ぱっと見たときに賢そうでかっこいいという印象を与える、ロングサイズの白衣を身にまとっていたのでした。

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