教師近藤とバンド
近藤は大学時代のいっとき、学内で仲間たちとバンドを組んでいました。担当していた楽器はギターです。
仲が良かったからこそ行動をともにするようになったわけですけれども、彼とメンバーは次第にケンカが絶えなくなりました。
「バカヤロー!」
ある日、近藤がそう言って、活動の拠点にしていた部屋を飛びだしていったことがありました。
「何だ?」
そのときベースとドラムをそれぞれ担当している二人の青年が一緒にその部屋に向かっていて、もうすぐ到着するというところで、響いてきた近藤の声を聞き、立ち去っていく姿を目撃して、軽く顔を見合わせました。
「近藤が興奮して出ていったみたいだけど、どうしたんだ?」
部屋に着いた彼らは、中を覗くといたボーカルの男性に尋ねました。
「あいつが俺の書いた歌詞を気に入らないって激怒したんだ」
元々落ち着いていた様子のボーカルの彼は、説明も、怒るでも悲しむでもなく淡々と行いました。
「そうか。あいつ、音楽に関することとなるとすぐに熱くなるからな」
ベーシストも冷静な態度でそう返しました。
続けてドラムの男が口を開きました。
「で、近藤が怒った歌詞ってのは?」
「ああ、これだよ」
ボーカリストは詞が書かれた紙を二人に差しだしました。
「ここの『笑えないジョークさ』って部分で、笑えないジョークなんて言う奴は許せないから、『笑わせるぜ、やっこさん』にしろってさ。俺はそれはないんじゃないかってやんわり拒んだんだけど、とにかく笑えないジョークなんぞほざく輩を俺は認めることはできねえって腹を立てたってわけ」
「……」
ベースとドラムの二人は唖然として言葉を失いました。
その後も関係はこじれ、ついに彼らはバンドをこのままの体制で継続していくことはできないという結論に至ってしまいました。他のメンバーと、頻繁にぶつかった近藤による、三対一の構図になり、近藤が脱退するかたちとなったのです。
「音楽の方向性が違ったのさ」
どこかで誰かとそれについて話が及ぶと、バンドが解散した理由として定番のそのコメントを、近藤はキザに語ったものでした。
一方、他の三人はこう言いました。
「あいつがいると、コミックバンドになっちゃうからさ」
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